第七章 滅びの始まり
■第七章 滅びの始まり
ここ数日の定時報告は、日に四回に増やされていた。
そして最新報は、正統マリアナ政府大統領による談話発表の報であった。
それを聞いた老人は、苦々しげにため息をついた。
「海賊と学者風情が、余計なことをしてくれたわ」
「ですが、戦況は動きます」
セバスティアーノはすかさず指摘する。
「そうだ。確かに君は、ミネルヴァとランダウがキーだと言っておったな。君の言う通りになった。だが、それは、彼らが滅びるタイミングがキーだ、そういう意味だと私は理解しておったがな」
「まさしくその通りです」
「だが、結果としてミネルヴァが勝った。ミネルヴァは窮地に落ちて正統政府と手を組まねばならなかったのだ。それが、独力で新連盟を滅ぼしおった」
そう言って、老人は地上図を睨みつける。
「ウィザードにそこまでの力があるとは」
「ランダウ騎士団の行動を先読みした戦略的勝利という側面もあります」
「そうだ、まさにその通りだ。彼らは、どうやってか、ランダウ騎士団の行動を先読みできた。それに先日の報告によれば、新連盟を手玉にとって海賊の拠点を壊滅させたのだろう?」
「そうなりますな」
再び、老人はため息をつく。
「惑星を統べるのは、誰になる」
「まだ分かりません。第五市までを呑み込み背後を安堵したとは言え、ミネルヴァの国力は正統政府の半分にも及びません。単純な力押しで勝てるとは考えられません」
「だが、ウィザードの力は予想以上だった」
「そればかりは不安定要素です。……閣下、ミネルヴァを支援して惑星統一を?」
セバスティアーノが目を見開いて問うと、
「それも考えておる。……ともかく分析を続けろ。それから、君の部下からの報告も、な」
「はっ、申し訳ありません」
セバスティアーノが送り込んだ部下からの連絡が無いことに、老人は苛立っている。
その部下は、確かにミネルヴァに潜り込んだはずだった。
それが、この決定的な局面で何も連絡をよこさないことが、あらぬ疑いをセバスティアーノに振りかけかねない。
セバスティアーノは、今日も、部下との連絡を試みる。
応答があるまで、続けるしかないのだ。
「一体、我々は、この惑星をコントロールできておるのか?」
老人が吐き捨てる。
「大マカウ国以外の誰にコントロールが可能でしょう」
セバスティアーノが返す。
「我々のような宇宙帝国の惑星に対する支配は絶対だ。地上の何者もそれを覆すことはならん。だが、それが当たり前になりすぎておる」
「――と、言いますと?」
「支配されることに慣れすぎておる。やつらは、我々に支配されていることを空気のように感じておって、その意識が希薄だ。だから、勘違いを起こす。ウィザードを得たミネルヴァの幹部の中に、この惑星を支配しうるのは自分だと信じ込んだ馬鹿者が現れたのだろう。馬鹿げておる」
「……まさしく。我々の支配は空気のようにあまねく」
「一度、知らせてやることも必要か……直接の接触が必要かも知れんな」
「それは、ミネルヴァ幹部と」
「今の情勢では、そうなろう」
そして老人は、大マカウ国本部に自走式地上往還シャトルを手配するよう、部下に命じる。
セバスティアーノは、自分の部下の位置を示す秘密のコンソールに示された意外な位置をまたも老人に報告しなかったことを、ほのかに後悔しつつも、無用な混乱を老人に与えてはならぬと改めて自戒する。
その間も、地上の戦乱の界面は、生き物のように動いていた。




