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マリアナの女神と補給兵――硝煙の魔法と起源の魔人――  作者: 月立淳水
第二部 マリアナの女神と補給兵 Ⅱ

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第六章 崩壊(2)


 沖合いに静かに浮かぶ小さな舟艇。

 密集した星団がマリアナの表面に投げかける星明りが、彼らの姿をうっすらと浮かび上がらせていた。

 アルフレッドと、四人のウィザード。

 もともと独立海賊団から鹵獲し、ランダウ騎士団の護衛艇として改造されたその船は、最終的に彼らの唯一のよりどころとなっていた。

 アルフレッドは一度上陸して、状況を確かめてきた。

 そして再び海の上に出て四人のウィザードを改めて甲板に呼んだのは、その経緯を説明するためだった。

 別に船室内で語らってもいい。

 だが、なぜか、彼らにあまり表情を見られたくなかった。

 おそらく、どうやっても悔恨の表情を隠せないだろうから。

 全員が船べりに座ったことを確認して、アルフレッドが小さく咳払いする。


「まず、何が起こったのか、説明しようと思う。もう大体分かっているとは思うが」


 話し始めた彼に対し、四人は四様にうなずいた。


「ランダウ騎士団の基地は、攻撃を受けた。全滅だ。生き残りはいない。おそらく山岳地帯や第六市に逃げ延びたものもいるだろうが、今日時点ではまだ連絡が取れていない。ともかく、基地は全滅だ」


 目線を向けると、まだ、火をかけられた燃料タンクがごうごうと炎を上げている。燃料火災用の特殊な消化剤が無いため、もはや燃えるに任せるしかない。


「襲撃したのは、どうやら、いくつかの海賊団だ。おそらく、新連盟の息がかかった海賊団。応戦して沈めた敵船の残骸が見付かった」


 時折、炎が大きく生き物のように膨れ上がる。燃えている近辺では今も構造物の溶融が続いていて、時々燃料が大きく噴出して炎に振り付けをする。


「作戦が漏れていたらしい。……たぶん、フェリペが関わっている。それに、エンダー教授」


 惨状を見ながら、異常に頭が冴えたことを思い出す。まるでウィザードのように。

 エンダー教授は味方ではない。ただ、彼の興味に従って行動し、聞かれれば講義する、それだけの男だ。

 だから、フェリペに会えば、訊かれるままに、彼らがエクスニューロ奪還のために第五市を目指すことを話しただろう。

 実質たった三人のウィザードで第五市の防備を抜くのは無理だ。となれば、ランダウ騎士団の全面的な協力があるはずだ。一瞬でフェリペはそんな計算さえしただろう、と、アルフレッドには分かった。

 要するに、手玉に取られていたのだ。エンダー教授も含めて。

 彼の思惑通り、ランダウ騎士団は第五市を壊滅状態に追い込み、手薄になったランダウ騎士団の拠点は新連盟の息のかかった海賊に襲撃される。

 フェリペは、惑星内部の戦いに飽いていた。だからミネルヴァの自壊を企てた。であれば、同じように、他の武装勢力を共倒れさせる機会があるのならそれを最大限に利用しようとするだろう。

 そして、彼の思惑通り、新連盟は大打撃を受けランダウ騎士団は壊滅した。彼はいずれ新連盟の息の根を止め、ついでにミネルヴァを崩壊させるだろう。


「あたしも、そう――直感した」


 アルフレッドの冴えを補強したのは、シャーロットの直感だった。彼に同行して上陸した彼女は、彼がささやいた推測を肯定したのだ。


「騎士団のみんなはこの真相を知らない。知らせないほうが良いと思った。彼らはフェリペに関わってはいけない。フェリペには魔人エレナがいる。とてもかなう相手じゃない」


 シャーロットがさらにその言葉を首肯することが、魔人エレナの恐ろしさを強調した。


「……騎士団は、解散となった。今の備蓄では、一箇所に集まって全員を養うのは無理なんだ。第六市もいずれ援助をよこすだろうが、すぐに防備を固めることは難しい。島の周囲、あるいは大陸南岸に、小集団を作って少しずつ備蓄の拡充をする。それ以外のものは残った護衛艇と補給物資で漕ぎ出し、略奪で生計を立てる。……実は僕は備蓄集団に誘われた。補給参謀としてね。だが、君たちの去就を定めるのが先だと思った」


「私たちなら大丈夫よ。略奪でも何でもやって生きていける」


 アユムが声を上げる。


「そうかもしれないが、僕はそうしたくなかった。すまない、これは僕のわがままだ。僕は君たちを……友達、だと思ってる。人のものを奪ってその日を暮らすだけの人になってほしくない。ランダウ騎士団にいれば似たようなものだけど、その……たとえそうだとしても、分かち合いたい」


 その話はもうシャーロットも聞いたのだろう。ほのかに笑みを浮かべてうなずいている。


「……どうしようって、言うの?」


「交換条件を出した。僕らは、彼らが必要だと言えばいつでも駆けつける。その代わり、この船と、十分な補給物資と。それに、自由」


「……自由」


 困惑の表情を浮かべてセシリアがつぶやく。


「……ただ、縛られないってことじゃない。その、なんというか……フェリペが起こしたことは、僕にも責任があるような気がするんだ。新連盟が打撃を受けたことで、戦況が大きく変わる。ランダウ騎士団がいなくなれば不逞の海賊も増える。たぶんこれから、たくさんの不幸が起こる。一人でもいいから、自分の意思で救いたい」


「罪滅ぼし、というわけか」


 エッツォは冷たい笑いを浮かべて指摘する。


「その言い方が本当に正しいかどうか、僕も自信がないけど、たぶんそうなんだ、エッツォ。僕の自己満足なんだ。だから、付き合いたくなければ、どこへでも。実のところ、僕とロッティだけなんだ、彼らに助力を約束したのは」


「ふふ、付き合うよ。僕も君を友達だと思ってる、何より、シャーロットと一緒にいるのがこの惑星上で最も安全だ、その上物資の心配も要らないなんてね」


「それにエンダー教授も言ったようにフェリペはいずれロッティを狙うわ。アルなんてどうでもいいけど、私はロッティを守るわよ」


 そう言って笑うアユム。


「アルフレッドさん。私も、約束しました。私の銃が守れる人がいる限り、私は銃を下ろさない、って。連れて行ってください」


 セシリアは、いつかと同じように、真剣な瞳でアルフレッドの眉間を射抜く。


「ありがとう、みんな。そうしたら、ともかく第六市に向かおう。そこで最低限の物資をもらうための手形を受け取ってきた」


「ええ。――リーダーはアル、あなたでいいわね」


「リーダーなんて決める必要があるかどうかはわからないが、アユムがそう言うなら」


 アルフレッドはうなずいて引き受けた。

 改めて友人として五人は握手を交わし、出発を翌朝と決め、五人は船室で眠りについた。

 夜が明ければ、五人は無所属の義賊となる。


***


 やがて、大陸東端の一国が滅びたという知らせは第六市に届く。

 第六市で一時羽を休めた魔人と魔法使いたちにも、その報は届けられようとしていた。

 同時に、それよりもはるかに速い速度で、地上ネットワークはその知らせを大陸西岸に届けた。

 マリアナにおける唯一の正当な政府であると自認するその国の大統領は、市民の虐殺を行った武装集団ミネルヴァと海賊団ランダウ騎士団に対して強い抗議の意思を示す談話を発表し、違法な自治を止めて正統政府の憲法に則った選挙により正当な首長と地方議員が選出されるよう手配しなければ、強硬な手段をとる、と宣言した。

 確かに、惑星マリアナの戦乱は新たな局面に向かおうとしている。


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