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マリアナの女神と補給兵――硝煙の魔法と起源の魔人――  作者: 月立淳水
第二部 マリアナの女神と補給兵 Ⅱ

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第四章 戦姫救出作戦(3)


 橋の工作を終えて主力と合流した突入部隊は、高台の戦術計算機センターを目指して駆ける。両側が都市公園のように樹木で整備された十五メートルほどの舗装道路が、センターに続く唯一の道だ。

 突然のサーチライト。

 ウィザードではない二人の騎士団兵が照らされ、直後に機銃掃射を受ける。何十という黄色の火花が二人のいた場所に叩きつけられ、炸裂光が周囲の木を何度も照らす。

 幸い、索敵を受けた二人は無傷だったが、同時にあわてて木陰に身を隠した全員が、一旦動けなくなってしまう。


「行くわ!」


 事前に打ち合わせにあった通り、もし敵との膠着が起こりそうになったら、ウィザードが真っ先に飛び出す、その決断をアユムが瞬時に下す。


「おい、お前らも――」


「待て! ウィザード以外が飛び出してもただの的だ!」


 突撃を命じようとしたシュウを、アルフレッドは押しとどめた。


「――わりい、頭に血が上った」


 シュウはアルフレッドの礼を失した諫言にも素直に従って、謝罪し、そして、飛び出していくウィザードを眺める。

 三人のウィザードは坂を駆け上がっていく。闇夜にひらめく曳光弾の弾筋は、どれもウィザードを捉えることが無い。

 明らかに敵の無駄撃ちが増えているのが分かる。撃っても撃っても当たらない不思議な兵士の出現に、狼狽仕切りだろう。その上、その兵士が放つ銃弾は的確に味方兵士か据え置き機銃を撃破するのだから、焦りばかりが先立つ。

 左手、道路から見て十メートルほど高く造成されている公園に陣地を築いていた守備兵は、その地形的な圧倒的有利にもかかわらず、陣地の放棄を決定した。

 駆けていく足音、二輪車で逃げるエンジン音。

 一気に駆け上がり、敵の公園陣地に伏兵がいないことを確認したアユムは、続け、のサインを送る。セシリアは、逃げ去る敵兵を可能な限り狙撃する。騎士団の兵士が後に続く。

 市街地中心方向に、ひときわ大きな火柱が見える。


***


 戦術計算機センターの敷地まであとわずか五十メートル。警備の敵兵が入口付近にいるのが見える。

 アユムは、突撃銃を構え、その射線上に正確に敵兵を捉える。

 二回引き金を引くと射線の先の敵兵はのけぞるように倒れた。

 いくつかの射線が体を貫くのを感じる。あわてて脇に回避する。すぐに、弾丸が空を切る音が耳を打つ。


「ロッティがいないだけでこんなに苦労するなんてね」


 アユムが小声で軽口を叩くと、


「無傷で中隊クラスを相手にしてるんだからたいしたもんだと思うけどね」


 とエッツォも軽口で返す。

 突如、フラッシュのような光が視界を覆う。

 セシリアが、ロケット砲の弾頭を狙撃銃で撃ち落したのだ。


「絶好調ね、セシリア」


「ええ、今日は調子がいいです。これでシャーロットさんが取り戻せるなら」


 言いながら、敵が陣取っている正門の上に覆いかぶさっている木の枝を二発の弾丸で射抜く。

 支えを失ったひと房の枝が、ゆっくり傾き始める。

 セシリアの狙いを察したアユムとエッツォは、あえて手前の路面を撃ち、激しい火花を生じさせる。敵は思わず顔をすくめる。

 そこに、ちょうどセシリアの撃ち落した枝が、バサリと落ちかかった。予期せぬ頭上からの襲来に、瞬間、パニックが起こる。

 アユムは、続け、の合図を出しながら、前進を開始する。自分たちを狙う射線はもう無い。

 アユムとエッツォは一気に残りの距離を詰めて正門に踊りこみ、左右の敵兵を瞬く間になぎ倒して、さらに奥に向けて警戒の銃口を向けるが、反撃は無い。その後ろからセシリアが仰角方向の索敵も行い、安全なことを確認してから、アユムと同じように続けの合図を送る。

 すぐに、後方に控えていたシュウとアルフレッドと第一中隊フランクル隊が駆け上がって、正門脇の陰に身を潜める。


 市街地や郊外で同時多発的に上がる火柱と爆発音を背景に、計算機センター敷地内はひっそりと静まり返っている。

 正面玄関も壁面の外灯を除けば明かりが落とされて、暗闇の中だ。

 敵はこの拠点を放棄したのだろう。

 とすれば、どこに。

 全滅したとは考えにくい。

 どこか正面玄関以外の入り口からセンター内に撤退し、防備を固めているはずだ。


「ああ、もう。ロッティがいれば」


 アユムがいらだたしそうにひとりごちる。

 確かに、もしここにシャーロットがいれば、そのすさまじい直感で玄関扉越しでも敵の潜む場所さえ知ることができただろう。


「罠があるかもしれませんね」


 アルフレッドは正面玄関を指しながら言う。


「あるだろうな。それでも、正面玄関しかねえ。いけるか」


「罠がこちらを捉えるならこちらも罠を捉えられるのが道理です。いけるでしょう」


 シュウの質問に、脇にいたエッツォが答える。


「よし、ゲート、破壊」


 命じると、すぐにフランクルの中隊に組み込まれた工兵がバリケード破壊用の爆弾を持ち出し、ウィザードが警戒する中、玄関に設置する。

 退避と同時に、爆発音。玄関の分厚い扉は粉々に吹き飛ぶ。もし扉に罠があったとしても、これでほぼ無効だ。

 直感能力のあるウィザードを引き続き先頭として、十四名はぞろぞろとセンターに突入した。


 中は相変わらずしんとしている。

 ウィザードの勘を信じて進むしかない。

 奥へ続く廊下は一本だ。

 最後尾をエッツォが警戒する態勢で一団となって進むが、やがて通路は袋小路となる。

 途中で通り過ぎた二つの扉を破って確認すると、一つの扉の向こうは階段室だった。

 階段は上下に伸びている。


 一旦上階を制圧してから下階へ攻め下る方が有利だろう、と言うアルフレッドの助言に従い、全員で上へ向かう。

 地上部分は三階しかないセンターの、二階はオフィスと小さな機械室、三階は全域が機械室となっている。いずれの入口も厳重なセキュリティが施されているが、爆薬で強引に突破する。

 どの部屋にも、敵の気配はない。

 念を入れて隅々まで検索し、上階には敵がいないことをしっかりと確認し、また、他の手段で上階にたどり着く順路も無いことを明らかにして、簡易のバリケードでふさぎながら階下に向かう。こうしておけば、後から敵が上階を占拠して彼らの脱出を妨害することもあるまい。

 突入してからここまでで一時間近くが経っている。

 屋外から聞こえる砲弾の着弾音は途切れない。母船からの支援砲撃はまだ続いている。しかし、あまりゆっくりもしていられない。

 一階まで降りた突入部隊は、そのまま階段ホールを地下に向かって進む。高台にあるその建物の地下は、半分が半地下のようになっているようだ。


 降りた途端に、先頭のアユムから、止まれ、の叫び声。

 その真後ろにいたアルフレッドには、彼女がのけぞるように身をかわしたところに、数発の弾丸が通っていくのがスローモーションのように見えた。あと一歩踏み出していれば、その餌食になっていたのは自分だったかもしれない、と肝を冷やす。

 遅れて聞こえてくるいくつもの破裂音。

 地下階に潜んでいた敵兵が、上がっていった侵入者をあえて上に行かせ、戻って来たところを階段ホールの出口に陣取って待ち伏せ、という作戦のようだ。

 最後部にいたエッツォが踊りだし、すぐにアユムとうなずき合う。

 それから、さらにセシリアに目配せ。

 意図を察したセシリアは、すぐに狙撃銃を構え、敵の見えない位置から数発、射撃を行う。それは壁に当たって火花を散らす。

 セシリアはそれを確認すると、アユムとエッツォにうなずき返す。

 一体何を――と思う間もなく、アユムとエッツォが駆け出す。まだ散発的に弾の飛んでいる廊下に向かって、だ。

 セシリアは、先ほどの跳弾の軌道を思い出し、壁の材質から跳弾の特徴を素早く演算し、加えて、飛んでくる敵の弾道から敵の射撃位置を逆算して、見えない敵への狙撃を敢行する。

 彼女から戦果は見えなかったが、その跳弾は敵の足元を襲い、少なくとも、一瞬の怯みを生む役割は果たした。

 その隙は、まさにアユムとエッツォの飛び出した瞬間を突いていた。

 二人はあっという間に見える位置を確保、敵兵に弾丸を叩き込み、さらにエッツォは倒れた敵兵のジャケットについていた手りゅう弾を見つけて、正確に撃ち抜く。内圧が抜けて派手な爆発とはならなかったが、吹き出した煙と炎は敵を混乱に陥れるのに十分だった。

 察してすぐ後ろにいたフランクル隊の兵士の一人が、さらに手投げナパームを放り込んだ。途端に敵の陣地は炎熱地獄となり、いくつもの悲鳴が上がる。


「制圧!」


 フランクルの命令と同時にフランクル隊九名は同時に前進し、壁や天井を焼き焦がしてあっという間に消えたナパームの炎の跡をたどって、敵陣地に飛び込んだ。それは、机や椅子を使った簡易バリケードによる陣地だったが、ナパームにより大被害を受け、敵兵は退いた後だった。

 そしてさらに前を見渡す。

 まだ煙っていてよく見えないが、右に曲がる曲がり角がもう一つ見える。

 真正面は壁ではなく、ガラスと見られる大きな室内窓。右に向かう通路の正面側は全て透明で見通しが良くなっている。そして、その向こうにあるものが、煙が晴れるのにしたがって見え始める。


 それは、数多くの機械。

 何千本の配線やインジケーターの光が薄明りの中に見える、データ処理装置に違いなかった。それは、機械ラックにびっしりと並べられている。

 そして、先日のエンダー教授との雑談の中で聞いた、エクスニューロ本体の特徴と一致するものを見つける。

 一辺が二十五センチメートルほどの黒い立方体。

 むき出しの処理ボードがラックに並んでいる処理装置群の中にあっては、確かにその姿は目立った。


 それが、ガラスかアクリルかの透明なパーテションで区切られた中に、専用のスペーサーで数センチメートルほどの隙間でびっしりと積まれている。

 ざっと数えたところで、横に十個、縦に五個、奥行にも数個分くらいはあるだろう。

 あの中の一つがシャーロットだ。

 そう思うと、アルフレッドは鼓動が早くなるのを抑えられなかった。

 銃撃戦で傷ひとつ付いていないところを見ると、おそらく正面のガラスは防弾。それを破って進入するのは無理だろう。

 右に曲がった先に入り口があり、その前に最終防衛ラインを敵が敷いている気配がある。

 シャーロット救出の最後の障害だ。


***


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