第二章 量子の魔人(5)
結局、一睡もしないまま夜が明けた。
アユムが中心となって話した彼らの冒険に、エンダー教授はうなずくか低く笑うだけだったが、話が終わる頃には、そのしぐさが、彼がひどく興味をそそられているか興奮していることを含んでいることが分かるようになっていた。
「なるほどな、まさか、ランダウ騎士団にいたとは」
「正確には、僕らはまだランダウ騎士団の正規兵の身分なのです」
「くっく、この惑星では、正規兵か海賊かの身分なぞ、無意味だと思わんかね」
「戦闘員か非戦闘員かも、ね」
アユムは半ば自嘲気味に付け加える。
「この惑星の状態を、他の惑星の住民はどう見ているだろうな……この惑星にいるものはそんなこと誰も知らん。知ろうともせず、この重力井戸の底で身内同士の殺し合いをしておる」
「教授は知っているのですか」
「無論、知りようがない。外惑星の情報は、空を覆う大マカウ国のヴェールですべて遮られてしまう」
なぜ、惑星マリアナはこうあるのか。
そんな素朴な疑問を提起した教授。
それに対して、アルフレッドは自らの無力を嘆く。
アユムは自嘲的にため息をつく。
セシリアは不安げにうつむく。
エッツォは、床の一点をぼうっと眺める。
……シャーロットは、ただ呼吸している。
「マカウは、一体何をしているのですか」
「彼らは支配しているのだよ」
セシリアの質問に、エンダー教授は即答した。
「これの、この戦乱のどこが支配なんです」
「さあな、彼らにそう訊いたらどう応えるだろう、興味深い質問だ。あるいは、地上のテロリストどもに応える口など持たぬかもしれんな」
「どうあれ、地上で武器を持っている連中は、総じてテロリストというわけね、彼らから見れば」
再びのアユムの自嘲。
「そして、武器を持つものがいなくなったら、彼らは騒乱の鎮圧を外宇宙に向かって宣言するのだろう」
「いいご身分だこと。空の上から見ているだけ」
「彼らは彼らなりに……まあ、いいだろう、どうせ君たちがかかわることはあるまい」
新しいシガレットを取り出そうとして、紙でできたシガレットケースが空っぽなのに気がつき、エンダー教授はそれを握りつぶして灰皿に放った。
「……ロッティを取り戻したら」
アルフレッドは口を開く。
「どこかでひっそりと暮らそうと思います。戦乱が終わるまで」
「君たちが滅ぼしてきた賊のように、か」
「はい。あるいは、誰かに滅ぼされるまで」
「せいぜい、フェリペに見付からないように気をつけたまえ」
肯定するでもなく引き止めるでもなく、エンダー教授はつぶやいた。
会話が新たに付け加えられることなく、アルフレッドたちは、エンダー教授宅を後にした。




