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たかが子爵家  作者: 鈴原みこと
第十五章 人としての価値を決めるもの
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Ⅲ.延長戦①


 アルフレート皇子が、司会進行に水を差した白元帥へと視線を移す。

 周囲にいる者たちもそれに(なら)った。


 会場には戸惑いの空気が流れている。

 皇子がちらりと傍らの近衛騎士に視線を奔らせると、カミルは短く頷いて、アウエルンハイマー公の口元にも拡声魔術を展開した。


「こんなものは無効だと言ったな。どういう意味だ、公爵?」


 状況説明を求めるように、アルフレート皇子の声が会場中に響く。

 アウエルンハイマー公爵は一瞬たじろいだが、引き下がることはしなかった。


「あの魔術部隊です」


 答えて、公爵はきっ、とカミルを睨む。


此度(こたび)の模擬戦の(かなめ)となっているようですが、あれはベルツ伯爵の部隊ではなく、そこにいるディステル男爵のものではありませんか。他者からの借り物の力で勝っても、それが本当にベルツ伯爵の勝利と言えますか?」


 アルフレートが不可解そうに眉根を寄せる。


「ディステルの部隊がベルツ伯爵の連隊に属していた時期もあるし、此度の模擬戦の規定に反している訳でもない。特に問題はなかろう……そもそも、それを言うなら、そなたから部隊を借りているライヘンバッハ大尉も同様ではないのか?」


 皇子の反論に、しかしアウエルンハイマー公爵は不快げに眉を震わせた。


「親が貸し与えたものを使うことに、どのような問題があると?」


 そう、心底不思議そうに聞くものだから、アルフレートは即座に反応できなかった。

 ただ唖然と公爵を見返す。

 白元帥は勢いづいて言葉を続けた。


「私は規定に則しているかを問題にしているのではありません。あのような勝ち方に正当性があるのか、そこに疑問があるのです。成り上がりの貴族崩れが作った邪道な部隊に頼って勝ちを誇るなど、貴族としての矜持を(なげう)つ行為と言わざるを得ません」


 どうやら本気で言っているらしい公爵の主張が、アルフレートには信じられなかった。


 ふと視界に入った近衛騎士と目が合う。

 カミルは軽く肩を竦めて笑うだけだった。


 これが「貴族主義」を掲げる彼らの常識であり正当性なのだと言わんばかりの乾いた笑み――アルフレートはそういうことかと嘆息する。


「なるほど。平民の血をひく成り上がりが近衛を名乗っていることに、そなたは不満があるようだな」


「当然です。卑しき血筋の者が(たっと)き皇族の側近を務めるなど、あっていいことではございません。殿下の体面にも傷がつきましょう。だからこそコンラートを近衛にと、ご推薦申し上げたのです」


 公爵は大真面目に言う。それが彼にとっての当たり前で、揺るぎない()()だからだ。

 強い特権意識が生んだ、歪んだ精神構造(メンタリティ)がそこにはあった。


 頭で分かっているつもりのアルフレートも、肌で実感するのは初めてだったから、わずかながらも戸惑いを隠せずにいた。

 表情を変えないカミルは慣れているのか、平然と事態を見守っている。


 嫌な事実だ、と思いながらも、アルフレートは気持ちを切り替えて、口の()をつり上げた。


「どうやらこの競いあいには、そなたの進退もかかっているようだな。カミル・フォン・ディステル」


 名を呼ばれた騎士の眉がぴくりと動く。その内心では、明確に拒絶の意思が渦巻いていた。


(うんわ。面倒くさ……)


 こっちに水を向けないでほしい――これまで気楽な傍観者を気どっていた男は、顔にこそ出さなかったものの、不本意さを主張するように口を引き結んだ。


 皇子が意地悪く笑う。


「上位貴族に意見しづらいのは当然だな。ならば代わりに私が機会を与えてやらねばなるまい」


 カミルの表情が硬直する。


 近衛騎士の沈黙を()()()()()()()()アルフレートの双眸(そうぼう)が、確信犯めいた光を放っていた。

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