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たかが子爵家  作者: 鈴原みこと
第十四章 辛辣な見世物
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Ⅲ.思い込みの逆利用②


 現場では相変わらずコンラートが苛立ちの声を上げていた。

「そもそも、三〇〇メートル地点まで敵が近づいていることに、何故もっと早く気づけなかったのだ!? そのせいでこのような不意打ちを受けているのだぞ!」

「今それを言っても詮ないことです。どう対処すべきかを、まずは考えませんと」

 フェルダー将軍の意見にコンラートは鼻をならす。

「そなたの慎重論で動きが遅れ、先手をとられてしまった。すぐにでも進軍を開始する」

 焦茶色(ダークブラウン)の瞳に侮蔑(ぶべつ)の色を浮かべて、将軍の判断ミスを責める。

「しかし――」

「黙れ。この軍の指揮官は私だ」

 反駁(はんばく)を許さず、コンラートは全部隊に進軍を命じた。

 その時である。

 飛来した火属性魔術が水属性の防衛魔術とぶつかった途端、激しく水蒸気が飛び散り、一瞬で辺りの視界を白く染めあげた。

「今度は何だ!?」

 唐突に周囲の景色を白く塗りつぶされたコンラートが、怒りと焦りに背中を押されて叫び声をあげる。

「魔術の相互作用で霧が発生したようです!」

 フェルダー将軍がとっさにそう答えたのは、かつて同じ状況に遭遇したことがあるからだ。

 こうした現象がたまたま発生することはある。しかし、果たしてこれも偶然なのだろうか、という疑いが脳裏をかすめた。

 視界が遮られたところに容赦なく敵の攻撃が飛んできて、場の混乱は加速していく。

「霧を発生させたのは意図的かな?」

「分かりませんが、その可能性は高そうですね……ディステル男爵の魔術部隊は優秀だと聞きますし、霧が発生した瞬間も特に驚いている様子はありませんでしたから」

 平民たちに混じって観戦するウィリアムが、ジークベルトとそんな会話を交わしていた。

 二人の手元には、会場にある巨大画像(ヴィジョン)と同じような映像が映しだされている。庶民用の観戦場所からでは画像が見えづらかったため、自分たちで映像を生みだし、それを見ているのである。そのせいで二人の周囲は平民の観戦者たちで賑わっていた。

 しかし会話の内容を理解できる者は、ウィリアムとジークベルト以外にはいなかったろう。

 火属性魔術と水属性魔術をとある法則に従って衝突させると、相互作用で霧を発生させることができる。それを知っている二人は、ごく自然にその結論にいきついた。

 戦闘で使われる魔術には一定のパターンがある。連携をとりやすくするためという意味合いももちろんあるが、魔法技術が稚拙な者でも対応が利くようにマニュアル化してある、というのが一番の理由だ。

 そのパターンが分かっていれば、やりようはある。

 相手の防衛魔術に合わせて該当する術式をぶつければ、狙って霧を発生させることは可能だ。ただ高度な技術が必要というだけの話で、その気になればウィリアムやジークベルトにも使える技である。

 だからこの二人は当たり前のように推測できているが、現場のライヘンバッハ陣営は状況把握が追いつかず、混乱の極致であったろう。

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