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たかが子爵家  作者: 鈴原みこと
第十三章 近衛騎士の矜持
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Ⅲ.ジークとリアム②


 赤毛の少年から串焼きを受けとり、二人で素朴な味わいを楽しみながら、ウィリアムはふとした感想を口にする。

「わざわざ庶民に混じってイベント見学とは、令嬢に劣らずジークベルト坊っちゃんも物好きなことだ」

 ジークベルトがむっと不快感を(あら)わにした。

「ジークでいいので、坊っちゃんと呼ぶのはやめていただけませんか?」

 どうやらここに来るまでの間、事あるごとに坊っちゃん呼びしていたのが気に食わなかったらしい。『物好き』と言われたことにはむしろ無関心な様子で、呼び方についてだけ口を尖らせる。

 ウィリアムは意地悪く笑みをこぼした。

「それは申し訳ない。貴族の坊っちゃんに失礼がないようにと配慮したつもりだったが、かえって仇となったようだな」

 白々しく謝罪する錬金術師に呆れたような視線を寄越して、ジークベルトは肩を竦めた。

「姉から聞いていた通り、ひねくれたお人柄のようですね、ウィリアムさんは……」

 少年の批評に、ウィリアムは含み笑う。

「ひねくれざるを得ない環境で育った賜物(たまもの)でね。それより、俺のこともリアムでいいよ。君の両親はそう呼んでいる」

「そうですか……じゃあ、リアムさん。そろそろ見学場所の確保に行きましょうか」

 露店が途切れる東端まできたジークベルトは、そこから北のほうへと進んでいく。

 イベント会場の中心部には正方形に仕切られた決闘場が用意されており、そこを中心に人の立ち入りを禁じる縦長の空間が、南から北に向けて横たわっている。

 会場の最北には一段高く土を盛られた観戦場所が作られ、アルフレート皇子を中心として、アウエルンハイマー公爵と、主催者であるブルンクホルスト公爵の席が(しつら)えられていた。

 決闘場の両サイドには集まった観客たちが観戦するための場所があり、北側三分の二が貴族専用となっている。貴族たちはそこに馬車を止めて、馬車に乗ったまま観戦する者も多かった。

 そして南側に市井(しせい)の民が観戦するための場所が用意されている。立ち見になるが、その分範囲は狭くても多数の人間が見学可能だ。

 ジークベルトたちが向かったのは、庶民用の観戦場所――その東側だった。

 王都からここに向かった場合、会場の南西方向から移動してくることになる。移動距離が長くなる分、会場の東側のほうが幾分か()いているのである。

「いい場所を確保できましたね」

 赤毛の少年が満足げに微笑み、連れの青年は呆れ顔で笑い返した。

「どうしてわざわざこんな場所で見学するんだ? と、一応聞いておこうか」

 すでに答えは予想済みだと言わんばかりの問いかけだ。先ほども『物好き』と評した通り、シルヴァーベルヒにおいて『変わり者』は令嬢だけではないことを、ウィリアムはすでに分かっている。

「平民の目線は面白いです。普段は見えないものが、よく見えますから」

 答えるジークベルトの顔には、曲者(くせもの)の表情が浮かんでいた。世間知らずのお坊っちゃま、とは言わせない雰囲気を漂わせている。

 少年は麻布(あさぬの)で作られたシンプルなデザインの服を身にまとっていて、悪目立ちすることもなくこの場に馴染んでいた。姉のウリカ以上に、市井を歩き慣れている印象がある。

(やはり、()()ステファン(きょう)の子だな……)

 ウィリアムがそう思うのと同時に、会場のざわめきが大きくなった。主催者であるブルンクホルスト公爵が、決闘場の中心に歩みでたからである。

 いよいよ、闘技大会が始まるらしい。

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