表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
たかが子爵家  作者: 鈴原みこと
第十一章 湖上に咲く花
101/133

Ⅱ.神秘の青花①


 王都ドルトハイム最大の市民街。その中心部には西から東に貫く商店通りが存在する。この通りを境に、北側には商業に関連する建物が乱立し、南側には市民の生活する一般家屋が建ち並ぶ。

 ウィリアムから頼まれた買い物は、通りの西側にある布の加工店と、同じく西側にある鍛冶屋で求めることができる。そのためウリカは馬で商店通りの西の端まで移動し、愛馬を馬屋に預けてから店へと向かった。

 事前に買うべき物の詳細はウィリアムから聞いているため、戸惑うことなく加工店で布を買ったあと鍛冶屋を訪ねる。

「注文の品はでき次第、配達させてもらいますよ。ウィル先生の所に届ければいいんでしょう?」

 心得た様子で鍛冶屋の主人が注文書の控えをウリカに渡した。

「はい、お願いします」

 注文内容に間違いがないことを確認して、ウリカが満足げに頷く。

 武器や防具は個人に合った物を買おうと思うと、サイズや材質などを決めて注文する必要がある。注文してから作られるため、日数がかかる場合が多い。

 貴族相手に商売する店であれば、仕上がった物を配達するのは日常的に行われているサービスだが、ここは庶民相手の店だ。通常なら配達はせず客に取りに来てもらっているらしい。

 しかし今回は、ウィリアムからの依頼だからという理由で、特別に配達をしてくれると店主は言う。それも手間賃(てまちん)は要らないとのことだ。この街でのウィリアムの人望をウリカは再確認していた。

「ウリカ姉ちゃんだ」

 さて帰ろうか、と店から出ようとしたとき、背後から男の子の元気な声が聞こえて、ウリカは振り返った。

「あら、カール。こんにちは」

 ウリカが目線を合わせるように少しだけ(かが)んで挨拶する。そこには元気いっぱいの笑顔を浮かべる男の子が立っていた。

 この鍛冶屋の息子――カールは、まだ九歳でやんちゃな盛りだ。

「こらカール! ウリカ様、だろ?」

 店主が慌てて(たしな)める。

「いいんですよ。まだ子供ですもの。そういう無邪気さは大切のしたほうがいいと思うの」

 鍛冶屋の主人に笑顔で応じる子爵令嬢に、不服そうに反論したのは、(かば)ってもらったはずの少年のほうだった。

「僕はもう子供じゃないぞ。街外れの森の中だって一人で探検できるんだからな」

 カールの言葉にウリカは眉根を寄せる。街外れに森などあっただろうかと疑問に思ったからだ。それに子供一人で森に入るのは危険だ。

 それを察した店主が、息子の代わりに説明してくれた。

「街の西側にある林のことです。子供たちの遊び場になってる場所で、一人で入ってもそれほど危険はありません」

 そこを子供たちは『森』と呼んで、手軽に冒険者気分を味わうらしい。

「行くのはいいが、怪我には気をつけるんだぞ」

「大丈夫だよ。どこに何があるのか全部覚えてるもん。こないだなんか湖の上に花が咲いてるのを見つけたんだぜ」

 得意げなカールの言葉が、ウリカには引っかかった。ウィリアムから聞いた湖上花(こじょうばな)の話を思い出したからだ。

「見間違いじゃないのか? 水の上にどうやって花が咲くんだ?」

「だって本当に咲いてたんだもん。絶対、見間違いじゃないよ」

 親子の会話を聞いたウリカはどうしても気になって、確認せずにはいられなかった。

「ねえ、カール。そのお花が咲いていた場所は覚えている?」

 しゃがみ込んで、少年の顔を覗き込む。

「覚えてるよ」

「案内してもらってもいいかな? 私もそのお花を見てみたいわ」

 そうお願いすると、少年は驚いたように目を見開いたあと、ちょっとだけ(うつむ)いて考える素振りをする。しかしすぐに「いいよ」と顔を上げて、口元に人差し指を突き立てた。

「その代わり誰にも言うなよな。俺と姉ちゃんだけの秘密だからな」

「うん。誰にも言わない」

「じゃあ……連れてってやる」

 カールは照れくさそうに笑った。

「今から行くんですか?」

 二人の会話を聞いていた主人にそう尋ねられて、ウリカは両手で抱えた布地に目を落とす。

「そうしたいけれど、さすがにこの荷物を持ったままでは無理ね」

「急ぎじゃないんでしたら、仕上がった防具と一緒にその布もお届けしましょうか?」

「いいんですか?」

「ついでに運ぶくらいはどうってことないですよ」

「ありがとうございます」

 ありがたく好意に甘えることにして、ウリカは抱えていた布地を店主に預ける。

 彼は機嫌よく、にかっと笑った。

「ウリカ様のためですからね。間違いなく一緒にお届けしますよ」

 先刻、ウィリアムの人望の厚さに感心していたウリカではあったが、その点は彼女も負けていないのである。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ