11 お兄様は意地悪、お姉様は子供
ギスギスした雰囲気で食事が終わりました。
ビアンカお姉様、そんなにぶすくれなくても。
ってか、すっごいけんか腰なんですけど。
親や兄弟にけんか売ってもいいことないんじゃないの。
「コーヒーのご用意ができました」
執事がダイニングルームに入ってきて一言。
コーヒーあるんだ。で、コーヒーって言うんだ。私の知ってるコーヒーなのかな?
はっ、そう言えばさっき飲んだワイン。あれ、ワイン? 葡萄ってこの世界にあるの?
「ドローイングルームへ移りましょう」
お母様が言った。
ドローイングルームって何ですか。お絵かきする部屋ですか。
ダイニングルームには廊下に面した扉が2つと、他の部屋に通じてるっぽい扉がある。
執事が、他の部屋に通じてるっぽい扉を開いた。
別の部屋が見える。ここよりは小さい部屋だ。っても30畳ぐらいはあるんだけどね。
こっちがダイニングテーブルとチェアなら、その部屋にあるのはふっかふかのソファー。ソファーの脇には小さいテーブル。オットマンもある。調度品は見るからに高そうなものが並んでる。壁にはでっかい絵画。
雰囲気はいいなあ。
わざとみんなからちょっと遅れて席を立つ。みんなの後を着いて行く。
これがドローイングルームか。くつろぐための部屋、リビングってとこかな。
みんな座ったので、近くの空いてるソファに座ってみた。
何も言われない。よし、ここでいいんだな。
執事とコリーナ2人が、でっかいトレイを持ちながら入ってきた。ドアの近くにある小さいテーブルの上にトレイを置く。
でっかいポットと、カップにソーサー。コーヒーか! 私の世界と同じコーヒーだといいな。
デザートの姿が見えないよ! でかい湯のみのような形をした陶製の入れ物がある。そこからコリーナが陶製のお玉みたいなもので何かを出して小皿に移してる。
コーヒーを渡されたので一口。
がっかり。私の知ってるコーヒーの味はするんだけど、なかなかのえぐみが残ってる。それる打ち消すためか、これでもかと入れられた砂糖。まずいっす。
コリーナが小皿を渡してくれた。ジャムが入ってる。ジャムにフルーツがまんま入ってたる。みんなこれ食べてる。ってことは、これがデザートか!
甘い・・・・。飲み物もジャムも甘すぎ。
スープはしょっぱいし、お肉のソースは香辛料入りすぎで、デザートはこれでもかっていうぐらい甘い。
素材の味はどうした。ヌーベルキュイジーヌは遠いな。あ、ついでに私の目も遠くなってるような気がする。
「だから私は学校に残りたいのよ!」
お姉様の大声が聞こえて、我に返った。食べ物に気をとられていたけど、ちゃんとみんなの会話は聞いていました。
お姉様は学校に残りたい、家族は反対ってことで言い合いが続いてる。
好きな事やりゃーいーんじゃねーの、と思うけど。
「エリザベート、さっきから一言も話さないけど、どう思う?」
お兄様が話しをふってきた。えっ、参加しろってか。
「ベスに何がわかるのよ! この年で掛け算勉強してるバカじゃないの!」
「ビアンカ!」
お母様が叱責した。お姉様完全に頭に血が上ってるわあ。ちょっと失礼じゃない。
「うーん、そうね、思ってることは2つ。
1つ目。お姉様、反対していないのは私だけでしょう。その私にけんかを売ってどうするの。味方につけるか、せめて利用するぐらいの事はして欲しいわ」
っと、家族4人からガン見された。えっ、なんか変な事言った?
お兄様がすごい勢いでソファから立ち上がって私のほうへ突進してきた。
「エリザベート! 大人になったんだな! やっとまともに話しができる妹ができてうれしいぞ!」
ガバ! と私を抱きかかえる。お兄様、涙目。えー、何それ、どういう事ー?
貴族にはそれなりの人あしらいとか、腹芸が必要なんだけれども、それができるのはお兄様だけみたい。
いっくら教えても、妹2人がダメダメで頭をかかえてたんだって。
1人は、学校大好きで、正義感が強くて、駆け引きベタな勉強バカ。
もう1人は、遊び大好きで、駆け引きできるけどスキャンダルしか興味なくて、一介の騎士様と恋愛したいお子様な勉強ができないバカ。
そのうちの勉強ができないバカ妹がちょっとマシな事言い始めて、とても嬉しいんだって。
お兄様って、キラキラ笑顔で毒はくよね。純白100%笑顔でのイヤミが貴族のたしなみなのかしら。
「ビアンカ、人を信用しろとは言わん。逆に信用するな。だが、エリザベートが言ったように味方をさがす事は必要だ。特に交渉ごとにはな」
お父様がギロリとお姉様をにらむ。お姉様が下唇をかんでくやしそうに下をむいた。
「エリザベート、2つって言ってたわね。もう1つはなあに?」
お母様がデザートを食べながら質問する。そんなゲロ甘なもの、よく食べれるな。
「もう1つは、みんな一番肝心な事を言っていないと思うの」
「肝心な事?」
「どうして学校に残るのがダメなのか。もちろん貴族の娘が魔術師になるのは珍しいことかもしれないけど、反対の理由は違うでしょう? 家になんの利益もないからではない?
だからお姉さまは、自分の望みばかり言うのではなくて、自分が学校に残ることがどうアルデール家にどう貢献できるのか説明しなくては」
お父様が虚をつかれた顔をした。
「む、確かに。当家に何らかの益があるなら考えなくもないが、、、」
「家への利益、、、、」
お姉様が困った顔をした。考えたこともなかったんだろうなー。
あれがしたい、したい、したいって言っても誰も耳を貸さないよ、子供じゃないんだからさー。
「じゃあ、ビアンカが言っていない肝心な事ってなんだ?」
「お姉様は、研究したいから学校に残りたいって言ってるけど、どうしてそう思うようになったの? 何をしたいのか、なぜしたいのか、いつまでしたいのか、もう少し詳しくはなさいないと、人を説得なんてできないし、妥協点も見つからないと思うの」
「どうしてって、そ、それは、好きだからよ!」
「研究が好きなの? 学校にいるのが好きなの? 教授のお手伝いが好きなの? 一番の望みは何?」
「えっ」
あら言葉につまった。考えてなかった? それとも言うつもりなかった? 言いたくない? どれだ。
「研究よ! 研究がしたいの!」
「じゃあ、学校じゃなくてもいいのね? 研究ができればどこでもいいのね?」
「! ち、違う! が、学校は一番設備がととのってるの。王都一よ。他にも同じ目的の人がたくさんいるし! とてもはげみになるのよ。学校で研究するのが一番効率がいいのよ」
「・・・ビアンカ、それは違うぞ」
お兄様がちょっとだけ不思議そうな顔になったが、また純白100%笑顔になった。
「一番環境がいいのは、王立魔術研究所だ。国の中でも優秀なものしか入れないし、世界一とも言われている。そうか、優秀なもの達と一緒に研究したいなら、王立魔術研究所ですればいいんだ。
あそこに入所となれば、当家にも箔がつく。ねえ、お父様」
「ふーむ。その通りだ。あそこは縁故を使っては入れないからな。
ビアンカ、お前はそこまで優秀なのか? 最初から王立研究所への入所をあきらめているから学校なのか? そんな事はゆるさんぞ。入所試験を受けることができるか、まずは学校長と話し合ってみよう」
「えっ、、、、、」
お姉様が下を向いた。おっ、本音を言うかな?
「疲れているので今日はもう下がります」
しおしおと退室した。
あっらー。反論なし? あっという間にお姉さまの将来が決まりました。いいの?
「ビアンカ、学校でしたい事があるみたいだわねえ」
お母様、やっぱりそう思いますか。
「だねえ。ちょっとつっついたけど言わなかったね」
・・・・お兄様は意地悪だ。意地悪決定。
「何も言わんのなら決まりだ。自分の道は自分で開け。ただし池に飛び込むのはやりすぎだがな」
あっはっは、おっほっほと3人に笑われた。こんちくちょう。
「周りが見えなくなるのがどんなに無様なことか充分勉強しましたわ」
自分でも苦笑いだぜ。
「エリザベートはもう大人だな」
お兄様がにっこりと笑う。笑顔の後ろに何かあるんじゃないかと勘ぐっちゃうぜ。
「あとはビアンカだわねえ」
ふうとお母様がため息をついた。
確かに。少なくとももう17歳。
お姉様、ちょっと子供過ぎます。