巨大スイカ割りイベント
砂浜へ通じる広場の一角には、すでに大勢のプレイヤーたちで人集りができていた。
潮風が心地よく吹き抜ける会場には、『イベント特設会場:巨大スイカ割り一本勝負!』と力強い書体で躍る大きな横断幕が掲げられている。そして、木造の頑丈なステージの中央には、直径50~60cmの巨大スイカがデンと鎮座していた。青々とした皮にはくっきりと黒い縞模様が走り、見ているだけでも圧倒される存在感だ。
イベントのルールは至ってシンプルである。
参加者は目隠しをした状態で専用の『木製大棍棒』を持ち、周囲のギャラリー(プレイヤー)が「右!」「もっと前!」と口々に出す指示だけを頼りにスイカへと近づく。そして制限時間内に、どれだけ正確かつ強力な一撃を叩き込めるかを競うという趣向だ。
「さあさあ盛り上がってまいりました! 次の挑戦者求む! 見事スイカを真っ二つに叩き割った方には、『常夏甘熟スイカの切り身』を大量進呈だー!」
進行役のNPCが威勢よくマイクパフォーマンスを繰り広げ、会場の熱気を煽っている。その熱気と報酬の常夏の甘熟スイカという響きに惹かれ、レイはそっと列の末尾に並んだ。
「よし、俺の番だな」
「へいらっしゃい! おや、カッコいい羽織を着てるねえ! じゃあこの『目隠し帯』を巻いて……武器はこちらの公式木棍棒を使ってくれ!」
NPCから渡された木棍棒は、打撃武器としてはごく標準的な性能のものだ。レイは受け取った黒い目隠しをしっかりと目に巻き、視界を完全に遮断させた。
「はい、じゃあ回すよー! いーち、にー、さーん!」
暗闇の中、NPCの手によってその場で三回クルクルと回される。
VRの世界でも、三回転もさせられれば三半規管は誤魔化せない。目隠しによる暗闇も相まって、レイの視界だけでなく平衡感覚と方向感覚は一瞬で綺麗に吹き飛んでしまった。
(うわ、めちゃくちゃ目が回る……。今、俺はどっちを向いてるんだ……? 全然わからん……)
自力でスイカの位置を探るのを早々に諦めたレイは、周囲のギャラリーたちの指示に全面的な信頼を寄せることに決めた。
「よし、スタート! 制限時間は30秒!」
開始の合図とともに、ギャラリーたちから一斉に野次と指示が飛び交う。
「おーい! お兄さん、そこから左に二歩! いや、あと一歩前だ!」
「違う違う! ちょっと行き過ぎ! 半歩下がれ!」
「そこだ! ちょうどそこがスイカの目の前だぞ! 振れ、思いっきり振り下ろせーっ!」
目が回って完全に方向感覚を失っているレイは、親切に教えてくれる周囲の声を一切疑うことなく、指示通りに素直に足を進めた。
(なるほど……みんなが口を揃えて『そこだ』と言うってことは、ここがスイカの目の前なんだな。信じるぞ!)
心の中で周囲のプレイヤーたちに深く感謝しつつ、歓声が高まる中でレイは両手で木棍棒を固く握りしめた。
スッと深く息を吸い込み、吐き出す。
「……ふんっ!」
目隠しをしたまま、腰を鋭く回転させた。
持てる力の全てを木棍棒の先へと集中させた、手加減ゼロの一刀両断。
直後――ただの木棒がスイカに直撃した瞬間、ステージ上に「ドォォォォンッ!!」という大砲の破裂音のような不穏すぎる怪音が響き渡った。
「「「!?!?」」」
それは木が果肉を打つ音ではない。圧倒的な筋力によるフルスイングが生み出した一撃によってスイカが破裂した音だった。
レイの一撃を真正面から受け止めた巨大スイカは、耐え切れずに一瞬でペシャンコに押し潰され、次の瞬間には圧力によって内側から弾け飛んだ。
豪快な炸裂音とともに、赤い果肉と黒い種がステージ全体、そして観客席の手前までに爆風となって飛び散る。果汁が豪快に霧となって舞い上がり、ステージ上はまるで爆風が吹き荒れたあとのような有り様となっていた。
そして、レイの手元に残ったのは――あまりの風圧と衝撃の反動に耐え切れず、木片となって飛び散った『公式木棍棒』の柄だけであった。
「……ふぅ。目が回りそうだったけど、うまく当たったみたいだな」
一仕事を終えたレイは、満足げに目隠しを外した。
視界がクリアになると、目の前には鮮やかな赤色で染まったステージが広がっている。巨大スイカの姿はなく、手に持っていたはずの棍棒も綺麗さっぱり消え去っていた。
叩きつけただけで巨大スイカを木端微塵に粉砕した――そんな常識外れの光景を目撃したギャラリーたちは、開いた口が塞がらない様子で果汁まみれのステージとレイを交互に見つめている。あまりの衝撃に、静まり返る会場。
しかし、自分のパワーが原因だとは露ほども思っていないレイは、周囲の沈黙を「あまりに見事な一撃への圧倒」だと盛大に勘違いしていた。
レイはパッと晴れやかな笑みを浮かべると、固まっているギャラリーたちに向かって爽やかに爽やかに手を振った。
「みんな、本当にありがとう! 正直三回回されたときは目が回って完全にどっちが前かも分からなくなってたんだ。でも、みんなが『そこだ!』って完璧な位置を教えてくれたおかげで、迷わず思い切り振り抜くことができたよ。みんなの正確な誘導のおかげだな!」
「……え?」
「いや……俺たち、ちょっと指示出してただけだし……」
「ていうかあのスイカ木っ端微塵になるんだ……?」
「ただの一振りででスイカが叩き潰されたんだけど……?」
「俺たちの指示関係ある……? むしろ力技で全てを破壊しただけでは……!?」
本気で感謝を伝えてくるレイの純粋すぎる笑顔と、実際に起き破天荒すぎる現象のギャップに、指示を出していたギャラリーたちは引きつった顔でヒソヒソと困惑の声を漏らすしかない。
そんなカオスな静寂が広がる会場で、進行役のNPCは、震え声でアナウンスを流した。
「ターゲットの粉砕……! さ、最高評価『Sランク』達成……! ほ、報酬の『常夏甘熟スイカの切り身』を……進呈いたします……!」
「やった、Sランクだ! みんな、本当にありがとう!」
レイは満面の笑みでシステムウィンドウから大量のスイカの切り身を受け取ったのであった
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