5-4 かっこつける男たち
夕飯の場所は考えてあるとヒロシが言うので、ホタルはおまかせすることに。
仲見世通りを戻って鳥居の前を右に曲がる。
以前にミーコのいるお店である『いろまる』に行ったときにも通った道を歩く。
島の公民館と神社の参拝路をつなぐ赤い橋の下をくぐると、くねった道がある。
木々に囲まれ、道沿いに作られた柵の向こうには橋向の街が見下ろせる。
「ここからの景色も良いですね。
ちょっとした登山みたいです」
「地元民からは『下道』って呼ばれてる。
この道は観光客は知らないから、こうしてのんびり歩くときにはおすすめだ」
くねった道を歩き民家の裏の狭い道を出る。
そして左の階段を上り、灯台を目指すように進んだ。
「お夕飯はここにしようと思うんだけど、いいかな」
「ええ。でもここってお食事ってありましたっけ?」
「要要約でね」
そう答えてヒロシは入り口のカラス戸を開ける。
「やあ、よく来たね」
「ミーコさん?」
つけ場で腕を浮くんでいたミーコ。
だがその声はチャコを愛でるときのような猫撫で声でもなく、自分と話をするような軽い声でもなかった。低く作っているような声と、凛々しさ演出するような表情にホタルは首を傾げた。
「席を用意しておいたよ」
「おう、ありがとうな」
(なんでミーコさんもヒロシさんも、こんなに芝居かかった顔してるんだろう?)
ふたりのやりとりが不自然に思えたが、とりあえず案内された席へと座る。
そこにミーコはすかさずお冷を持ってきた。
「食事はもうすぐできるから、少し待っててくれ」
「おう。頼むぞ」
ヒロシがそう言うと、ミーコの犬耳がぴくっと動いた。
最初はヒロシの声に反応したのかと思ったが、視線が外を向いている。
するとビクッと動いた白黒の猫のしっぽが見えた。
「チャコちゃあああああああああああああああああああああああああああああん」
「ふにゃああああああああああああああああああああああああああああああああ」
歓喜の声と悲鳴が同時に聞こえたと思ったら、ミーコはいきよいよく店の外へ。
外に居た悲鳴の主に飛びかかった。
「いらっしゃ~いよくきまちたねぇ~。
いいよいいよ~、今日もあたしのおごりだから珈琲いっぱい飲んでいくにゃ~」
「か、神様?」
ミーコはそう言いながらチャコを抱きかかえて戻ってきた。
それを見てホタルは驚きの声をあげる。
「こ、珈琲なんて苦いもの飲まないにゃ!
っていうかひっつくにゃあ!」
チャコはじたばたと抵抗するが、暴れる赤子と同じでミーコにはまったく通じていない。
どうしてチャコがここにいるのだろうか。
通りかかったところを捕獲されたのだろうか。まさか、自分たちのあとをつけていたのだろうか。
「よ、よう……」
そしてその後ろからワダチが右手でうなじを掴み、間が悪そうな顔をしてやってきた。
「ワダチぃ……」
ヒロシはワダチに恨めしそうな声を上げながら睨む。
まるでその声は自分たちのデートを邪魔された彼氏のようだった。
だがそれは比喩ではなく文字通りだったかもしれない。
そう思うとホタルは恥ずかしくなりうつむく。
(スキャンダルされる芸能人ってこんな気分だったんだ)
「あ」
ヒロシが大きな目でワダチを睨みつけるのを見たミーコは、チャコに抱きついたままはっと我に返った。
「やあやあ、ヒロシくんにホタルさん、特製のお夕飯を用意したけど……」
つけ場の奥から背広姿のジャックが、ごきげんな声で言いながらやってきた。
「なんで神様たちまでいるの?
来る予定だって昨日話したっけ」
すると状況を見て、自分が思ってたのと違う光景に目を丸くする。
「昨日話した?」
「ち、違うんだホタルさん!
昨日お祭りの打ち合わせのあと、ここで飲んでね、そのときについでに店の予約をして、それで」
「そ、そうだったんですね。じゃあみんなでお夕飯にしましょう」
「はい……」
ヒロシはうつむいてあまりにも残念なそうな返事をした。
「み、みゃ~は悪くないにゃ」
チャコは静まり返った店内でそうつぶやいた。




