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イロ島の猫神様  作者: 雨竜三斗
第四章 灯台とかお風呂とか
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4-1 灯台の一つ目小僧一目惚れ

 次の日も仕事を紹介してくれることになり、ホタルたちは神社を出る。


 灯籠で照らされる石畳の道をカランコロンとふたり分の下駄の音と、ペタンと靴の音が常闇の世界に鳴り響く。


「今日はどこへ行きます?」

「灯台です」

「あれにゃ」


 チャコが指差した先に、は火のついたロウソクのような形をした建物があった。

 灯台の頂上からは赤みかかった黄色の光線がグルグルと回っている。


「灯台の中に入れるんですか?」

「当然にゃ。ここも手入れをしているひとがいるんだにゃ」


「イロ島の灯台は象徴でもあり、イロ島の平和を守る守護神のようなものでもあります。

 そこを守るのは、大切なお仕事なので常にひとでは欲してますし、お給料もいいですよ」


「なるほど……」


 少し責任の強そうな仕事だとホタルは感じ両手を軽く握る。


「そんな灯台を建てたのはこの島の猫神にゃ!」


 チャコはとても偉そうに胸を張りながら言った。


「初代のですけどね」

「しょ、初代猫神の功績はみゃ~の功績も当然にゃ」

「はいはい」


 灯台を目指して階段を登りながらも、ワダチとチャコは軽口をぶつけ合いながら登る。


「でも灯台を守るなんて大切な仕事、わたしにできるでしょうか?」


 給料がよければそれなりに責任も増える。

 それに島の守護神のような建造物で、さらに初代猫神が建てた大切な存在を、島の外から来た人間が手入れをして良いものなのか。

 ホタルは不安になり表情に影を落とす。


「できないと思ってたら紹介はしません」

「それに向かないと思ったらそう言えばいいにゃ」


 チャコはホタルを元気づけようと明るく声をかけ、

「ワダチは冬の海のように冷たいが、不向きな仕事を無理やりやらせるようなやつじゃないにゃ」

 そしてワダチをにらみあからさまに嫌味だと分かる声でそう付け加えた。


「お褒めいただきありがとうございます」


 だがワダチはわざわざ足を止めて、神事の前に神々に頭を下げるがごとく礼をした。


「褒めてないにゃ!」

 嫌味に対して嫌味が返されて、チャコは不機嫌な猫の鳴き声をあげる。



 灯台が近づいてくるとその大きさが分かる。

 本当に大きなロウソクなのではないかとホタルは思い、ホタルはぼーっと口を開けながら灯台を見上げる。


(そいえば島に来たときもあの灯台に向かって歩いてた気がする)


 数日前、なにかに取り憑かれたような朦朧とした意識の中、ホタルはこの島にやってきた。

 どうしてこの島を選んだのかと言えば、記憶にあった一番いい場所というのもあるが、頭のなかに見えていたのはは明るいロウソク。この灯台だ。


 灯台は船に島や大陸の位置を知らせるために存在してる。

 まるでホタルはその灯台に導かれたように、イロ島へとやってきたことを思い出していた。


 直ぐ側の事務所のような建物にチャコもワダチも遠慮なく入っていく。

 ホタルもそこでハッと我に返り、ふたりの後を追う。


「ヒロシ、来たぞ」


 そう呼ばれた男性は机の上で書類とにらめっこをしていたようだ。

 椅子から立ってこちらへやってくる。


 ヒロシと呼ばれた男性が振り向くと、その種族が分かる。

 人間とは違う大きな一つの目が特徴の妖怪、一つ目小僧だ。


 小僧という種族名ではあるが、身長はワダチと同じくらいあり、作業用のつなぎを着ている体格はガッチリとしている。

 それを見ると、灯台で力仕事をしていることが容易に想像できた。


「ようワダチに猫神様と……」

「ああ、イロ島で仕事を探してるホタルさんだ」

「よろしくお願いします」


 ホタルはきれいにお辞儀をする。


「あ、ああ、それはありがたい」


 豆鉄砲で撃たれた後のようにヒロシの顔は驚いた形で固まっていた。

 ホタルを確認するように、一つ目を何度もパチクリさせる。


「なんにゃその反応」

「な、なんでもない。ホタルさんだな、よろしく頼む」


 ヒロシは気を取り直すように咳払い。


「それで見学とか一日体験とかできるか?」

「いきなり仕事をやらせるのはホタルが可哀そうにゃからな」

「そ、そうだな……じゃあまず施設を案内するよ……」


 だが動揺は収まっていないようで、ガクガクの動きでヒロシは歩き出した。



 事務所を出て灯台の方へと歩くと、神社の境内のような空間が広がっていた。


 ご神木のような立派な木々が立ち並び、足元の砂利もきれいな石ばかりだ。

 参道とも言える道には石灯籠が灯台までの道を明るく照らしてくれる。


 さらに池もあり、その周囲には色とりどりのあじさいが明るく咲いている。


「なんだか落ち着きますね」


 仲見世通りや人通りの多いイロ島の道と違い、静かな空間にいるとホタルはそう感じた。

 聞こえるのは自分たちの声や、竹ほうきで掃き掃除をする音くらいだ。


「灯台は神社の分社みたいなものにゃ。

 そんなこの辺は、神社の境内も当然なのにゃ」

「なるほど」


「だからここにいると、ホタルの瘴気や厄もだんだんと落ちていくにゃ」

「神様のご加護があるってことですね。いいかもしれません」


「うぬ!」

 ホタルの安心しているような声に、チャコは嬉しそうな返事をする。


「あと今度の祭りもここでやることがあるにゃ」

「お祭りですか」

「島の外からも屋台を出しにくる店があったり、別の世界からもたくさんの観光客が来るにゃ」

「賑わうんですね」

「当然にゃ! イロ島はみゃ~たちの島だからにゃ」


 静かな境内にチャコの偉そうな声が響き渡る。

 ホタルはうるさくして良いのかと思った。

 だが、うるさくしているのはここの主であろう神様なので、苦笑いして無理やり良いものだと解釈する。




「おいおいワダチ。彼女は一体なんなんだ」


 ホタルとチャコが話しているのを遠目に、一つ目をぐぐっと近づけてヒロシはワダチに聞いてきた。


 そのヒロシの表情はまさに信じられないものを見てしまった、鬼気迫るような、あるいは女神の降臨を見たような顔だった。


「掃除なんて汚れ仕事をさせたくないほどキラキラしてるぞ」

「何だよその表現」


 恋に落ちて夢見がちな人間になってしまったように、ヒロシは目を輝かせながらホタルを表現した。


「いいから教えろ」

「ホタルさんは、別の世界で『偶像』の仕事をしていた」


「まじかよ。

 話には聞いていたが初めてみたぞ……。

 あれが『偶像』をしていたひとなのか……。

 まじで神様みたいだな」


 大きな目をさらに見開くヒロシの表現が、あまりにも大げさだとワダチは思って目を細める。


 だがこの話題をひろうとうるさそうだったので、

「うちの猫神様の前で言うなよ。またうるさくなるからな」

 とチャコの悪口で流す。ホタルたちの方から豪快なくしゃみが聞こえた。


「『していた』ってことは今はしてないのか」

「ああ、もしかしたら島に住むかもしれないから、働き口を探している」

「そっか……」


 ヒロシは期待に満ちた顔をして、ホタルとチャコが話をしているのを見ている。


「なあなあ、今から彼女の案内、俺に一任してくれ」

「そのつもりだったが」


 なのにヒロシはこちらにやってきている。

 ワダチは細い目でやる気になっているヒロシを見て答えた。


「あと神様をどけてくれ」

「俺に恋愛の支援をしろと」


 ワダチはもしかしてと思って当てずっぽで、そんなことを言ってみる。


「そうだ。なぁワダチ、友達を助けると思って頼むよ」

「分かった分かった」


 ずいずいとさらに顔を近づけてくるヒロシがウザく感じたワダチは、投げやり気味に返事をする。

 ホタルを雇ってもらえるようにお願いする立場にあるワダチは、あまりヒロシの頼みを断れなかった。


 ヒロシはこう見えても灯台の管理責任者だ。


「く~、こんなことなら背広を来てくればよかったぜ」


 悔しそうにヒロシは歯を噛んで顔をしかめた。


「それじゃ仕事できないだろ」


「するときは着替える!

 ホタルさんをおもてなしするのにこんな格好はダサくて仕方がないからな」


「さいですか」

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