アーレの実家
あけましておめでとうございます。
少し遅くなってしまいましたが、ご挨拶申し上げます。
アーレの実家は里の少し外れに建っていた。他の家と同様に大樹を利用して作られていて、木のぬくもりを感じる造りになっている。
アーレが家の呼び鈴を鳴らす。リリリンッと軽快な音が響く。
「はい?」
「ただいま帰りました」
出てきたエルフの女性にアーレがいう。
女性は時間が止まったようにぽかんとしている。
「うそ?アーレ!?」
女性は口元を抑えて驚きを露にした。まるで信じられないものを見たような驚きだ。
「アーレ!」
女性がアーレに抱き着く。女性の目には少し涙が見える。
「良かった~もう戻ってこないんじゃないかと思った~」
「姉さん……」
どうやらアーレの姉のようだ。両者とも目元しか見えないから似ているか分からないけど、背丈は同じくらいだな。
しばらく姉妹の暖かな再会シーンを眺めていると、アーレの姉がこちらに気づいた。
「だれ?」
軽い喋り方をする人だ。アーレの硬い喋り方と対照的だ。
「この方たちは私の仲間です」
「うそ!アーレに仲間が!?」
アーレの姉にとってはアーレに仲間がいることが珍しいみたいだ。俺が会った時はすでにパーティを組んでいたから、あんまり1人でいるイメージがないんだけど。
「どうも、ユイトっていいます。人族です」
「ローリアです。小人族です」
「メリー!獣人族です!」
「アイリです。一応、人族かしら」
「ユア、ドワーフなの」
エルフの長老のアルノルトさんの時と同じように自己紹介すると、なぜかユアまで名乗った。
「あら、ユアちゃんじゃない。無事で良かったわ」
ユアを見たアーレの姉が安堵した様子をみせる。ユアも攫われたから里のみんなは心配していたのだろう。
「私はフェル。アーレが世話になってます」
アーレの姉はフェルというらしい。声質もアーレとなんとなく近いな。
「そうだ!お父さんとお母さんも呼んでくるね!」
「あ、姉さん!」
バタバタとフェルは戻っていった。
「姉さんはそそっかしいですね。どうぞ中に入ってください」
呆れているアーレに導かれて家に入る。
「へぇ、広いな」
中は外から見るより広かった。一目見れば空間魔法だと分かる。明らかに外観よりも空間を押し広げられている。
「精霊魔法だよ。精霊は気まぐれだから、少しずつだけどね」
両親を連れて戻ってきたフェルが説明してくれた。
「精霊魔法って便利だな」
「あんまりいっぺんにはできないけどね」
フェルは肩をすくめる。そうなのか。
「久しぶりだな。アーレ」
「久しぶりね」
「久しぶり、父さん、母さん」
両親との感動の再会だ。少し黙って見ておこう。
「彼らは誰かな?」
そう思ったらアーレのお父さんから声がかかった。
「彼らは私の仲間です」
「ほう」
「まぁ、アーレの?」
やっぱり、アーレの仲間だと分かると驚かれるな。
またフェルにしたように自己紹介する。
「いろんな種族がいるんだな」
「人族……」
自己紹介したら、アーレの両親の反応はこんな感じだった。アーレのお母さんが人族に難色を示す。
「この方は信じられます」
すかさずアーレがフォローを入れてくれた。俺の傍らに立ってくれている。
「ほう」
「まぁ」
自分の娘のいうことなので信じてくれたようだ。
「まあ、立ち話ではなんですから、どうぞ座ってください」
あまり長居する気はなかったんだけど、せっかく勧められたら断れないな。
チラリとアーレに目線をやると、アーレも頷いて答える。アーレもいいみたいだし、少しお邪魔させてもらおう。
「では、お言葉にあまえて」
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「アーレは冒険者としてしっかりやっているんだな」
アーレについて俺が話せることは、冒険者として働いていることくらいだ。よく考えたら、出会ってからあまり月日が経ってないんだよね。
「ええ、ランクB冒険者としてダンジョンで活躍していました」
アーレはランクBだから、冒険者の中では強い。かなりの活躍があってBランクになったのだ。これぐらい褒めてもいいだろう。
「アーレはエルフで滅多にいない魔法使いだからね。活躍して当然だよ」
フェルはとても誇らしそう。
エルフには魔法使いはほとんどいないらしい。精霊使いならいるみたいだけど、精霊魔法と普通の魔法は違うからな。
「そうですね。アーレの魔法には助けられます」
俺がそういうとアーレは何か言いたそうな目線でこちらを見る。
魔法使いの俺、その弟子のローリア、勇者で魔法も使えるアイリ、よく考えたらうちのパーティには魔法使いが多すぎるな。元いた世界のテンプレのラノベではそうでもないんだけど、この世界の魔法使いは珍しいのに。
「アーレは里を救った英雄だからね!」
更に誇るようにフェルがいう。
「英雄?」
アーレを見ると、今度は目線を逸らした。
「昔、里で病気が流行ってね。精霊魔法じゃ治せなかったんだ。それでね、それを治せたのはアーレだけだったんだ」
フェルは思い出すように話す。弾むような声色だ。
「里の危機なら私の危機です。当然のことをしただけです」
「それがすごいからみんな尊敬しているんじゃないか~」
アーレは謙遜しているけど、確かに凄いことだ。
アーレが目線を逸らしたり、謙遜したりしているのは魔法陣を使ったからだろう。魔法使いだと言っているが、本当は魔法陣によるものだから負い目を感じているのかもしれない。
「なかなかできることじゃないよ」
「そう……でしょうか」
「ああ、そうだ」
俺が断言すると、アーレは少し恥ずかしそうに目を伏せた。
「そろそろ、出ましょう。ユイトさん達が滞在する家まで案内します」
話を逸らすようにアーレが立ち上がる。
それに倣って俺たちも立ち上がる。
俺たちは滞在する家に向かった。
アーレの実家に到着しました。
現時点ではアーレの両親に名前を付ける気はありません。
姉はフィルです。




