王都までの道のり3
王都までの道のりはもう1話続きます。
王都までの道中に村が見えてきた。
【マップ】で見ると小さな村のようで、冒険者や旅人が泊まる宿屋はあるが、大きな施設や冒険者ギルドの支部はないようだ。
「今日は早めに切り上げて、あの村に泊まろうか?」
俺はアーレとローリアに話をふった。
「ご主人様がそういうのでしたら」
ローリアは大体俺の意見に賛同する。しかし、俺に被害が及ぶときにはちゃんと意見するので、大丈夫だろう。
「私も異存はありません」
アーレも賛同のようだ。アーレ自身に実害があるなら断るはずだから大丈夫だろう。
村に入ると村人は農業をしているが、旅人が珍しいのかこちらを見てくる。もちろん、馬車は魔法を解いて地面に着けているので可笑しなところはないはずだ。
俺たちは宿屋に向かった。小さな宿屋だが、馬車を入れる厩もあるようだ。馬車から降りて宿屋に入った。
「いらっしゃい!」
恰幅の良いおばちゃんが迎えてくれた。宿屋の内装はハーニカの街の宿屋【林檎の蜜】を小さくした感じで、食堂も併設している。
「2部屋取りたいです。空いていますか?」
1部屋は俺とローリアの泊まる部屋で、もう1つはアーレの部屋だ。
「ええ空いてるよ。久しぶりの客さね」
おばちゃんは嬉々として答えてくれた。小さな村なので客が少ないのだろう。
「じゃあ、1日お願いします。馬車もあるので馬の世話もお願いします」
「久しぶりかと思ったら大仕事じゃあないか。任せておくれ」
そういっておばちゃんは手早く勘定してくれた。
俺たちは宿泊する部屋にむかう。
「ユイトさん。この後部屋に来ていただいてもよろしいですか?お話があります」
向かう途中で真剣な眼差しのアーレから声がかかった。
お話とは何なのか?道中に何かまずいことをしてしまったのだろうか?
「わかった」
疑問がいくつか浮かんだが、俺は了承することにした。
俺は部屋にローリアを残し、アーレの部屋に向かった。アーレの部屋をノックするとすぐに返事が帰って来た。
「失礼します」
前にアーレの部屋に入った時を思い出して少し緊張する。前回と違って部屋にアーレの私物はないが、女性の部屋と思うと緊張するのだ。
ちなみに、アーレの私物はアーレの持つ魔法袋に入っている。
「どうぞ。椅子に座ってください」
ベッドに座ったアーレに椅子を促された。
特に気にすることはないので俺は促されるまま椅子に座った。
「話というのは私の魔法陣についてです」
アーレの視線はこちらを見据えている。その様子に俺も顔を引き締める。
アーレの魔法陣とは、身体に刻まれた魔法陣だろう。
「何か問題があったとか?」
アーレの魔法陣を修復したのは俺だ。すべてを魔法で吸い出して、再び魔法陣を刻んだ。もし、何か不具合があったら、俺の責任だろう。
「ユイトさんのお陰で魔法陣は完全に修復されています」
軽く首を振ってアーレは答える。
「ユイトさん。あなたは私の魔法陣を再び消せますか?」
「確信はないけど出来るとおもう」
俺が魔法で刻んだ魔法陣だ。やったことがないから分からないが、恐らく可能だろう。
「でしたら、私の魔法陣を書き換えることも可能ですね?」
俺に訴えかけるような目線だ。
「今ある魔法陣を、違う魔法陣に書き換えるということか?」
「そうです。必要な時に書き換えてほしいのです」
俺の質問に彼女は即答する。何か焦っているようなそんな感じがする。
「そもそも、何でそんなに魔法陣に拘るんだ?」
身体に魔法陣を刻むのは通常ではありえない。一時的に使う以外の場合、魔法陣を刻むのは魔法道具にすることだ。それは自分にすることは、自分を道具であると言っているようなものだ。
「私はエルフです。エルフは他の種族とは違って精霊魔法が使えます」
エルフが精霊魔法を使えるというのはハーニカの街にいた時に調べて知っていた。
精霊魔法とは、精霊に力を借りて行使する魔法だ。精霊によって属性が異なるため、人によっては複数の属性を使える魔法使いになれる。しかし、精霊との相性があるため、精霊魔法で複数の属性を使える人は珍しいそうだ。
そして、多くのエルフはその精霊魔法が使える。よってエルフは神秘的な種族と言われることもある。
「しかし、私は精霊魔法が使えませんでした。周りのエルフはたいてい1属性は使えたのです」
アーレの目は下を向いており、その様子だけで辛い思いしたのがわかる。
自分だけ出来ないのは悔しい。
俺も前世では、小学校の頃に自分だけ激しい運動が出来なくて悔しい思いをした。自分が運動できないで退屈なだけならまだ良い。クラスメイトはそんな俺を疎むのだ。一緒にいても身体を動かして遊べない。体育祭の時には貢献してくれない。そういった不満が俺を疎む要因になる。俺の悔しい気持ちは募っていた。
俺に同情してくれる人もいるが、俺を腫物に触るように扱って気まずくなる。俺と話すときはスポーツや体調に関する話は勝手にタブーになっていて、俺が申し訳なくなってしまう。
あの気持ちはひどく遣る瀬無いものだった。
「そうか……」
嫌なことを思い出した。思わず俺の声が低くなっている。
「だから、私は魔法陣の勉強をしました。魔法陣は魔力さえあれば発動が可能ですから」
彼女は自分のコンプレックスを克服しようとした。
簡単そうに聞こえるが、なかなか出来ることではない。それは自分が他より劣っていることを認めることで、1度自分に向き合う必要があることだ。
「魔法陣は理屈に適っていて分かりやすかったです。不確定な精霊に力を借りる精霊魔法とはちがいます」
精霊は前世での霊のような存在だ。見える人もいるし、信じない人もいる。そういえば、俺はスキル【精霊視】を持っているけど、見ようと思ったことなかったな。
「ある日、私が魔法陣について調べていると、昔の賢者の論文のようなものを見つけました。そこには身体に魔法陣を刻む禁忌が記されていました」
「禁忌……」
禁忌。
使用してはいけないこと。それは魔法、技術、魔法道具、魔法陣、呪いと多岐にわたる。
「はい。禁忌です。魔核を使った魔法陣を身体に刻むのは倫理的に考えてありえません。奴隷ぐらいです」
魔物の魔核を体内に入れるのは倫理的にありえない。魔物は忌むべき存在だからだ。
「私はその禁忌に手を染めました。初めは胸と腕だけに魔法陣を刻みました。そして、魔法を発動して私は驚きました。こんなにも簡単に魔法が使えるのかと」
彼女は知らないだろうが、簡単だったのは彼女に適性【魔法陣】があったからだろう。魔法陣の呑み込みが早かったのも頷ける。
「私は深みに嵌りました。刻める所には魔法陣を刻み、届かないところや刻み辛いところは姉に刻んでもらいました。最初姉は断りましたが、私の悩みを知っていた姉は引き受けてくれました」
アーレの姉はきっと嫌だっただろう。自分の妹を傷つけたい姉は普通いない。それが禁忌ならばなおさらだ。
「私には魔法陣しかないのです」
アーレの目はわずかに潤んでいる。顔を覆っていて分からないが、見えていればきっと悲痛な面持ちだろう。
アーレはきっと前世の俺と境遇が似ている。その結果、禁忌を犯すという結果になったのだ。完全には分からないが、少しは彼女の心情を分かる。
「わかった。書き換えるときは頼ってくれ」
出来るだけ頼りになる存在になろう。彼女には理解者が必要だ。前世の俺がそうだったように。
「ありがとうございます……」
アーレの声色には悲痛に満ちている気がする。
「アーレ、話が重いぞ?俺じゃなかったらドン引きだ」
そういって、俺はアーレの頭を小突いた。
「いたっ」
アーレは小さく痛がって、目を開いてこちらを見てくる。軽く手を当てただけだ。痛くはないはずだ。
「まあ、俺なら構わないけどな」
俺はそういってアーレの頭を撫でる。子ども扱いしているようだが、アーレはされるがままだ。
「じゃあ、何かあったら頼ってくれ」
しばらく撫でてからそういって俺は部屋を出て行った。アーレは俺が頭を撫でてから、一言も発しなかった。
俺の部屋に戻ると、ローリアに何をしていたのか質問されたが、今後の事と言ってお茶を濁した。アーレの秘密に関するから迂闊に話せないからね。
アーレの魔法陣について補足します。
今作の魔法陣には魔核を使用します(若干ネタバレかもしれませんが、使わない方法も存在する予定です)。魔核は魔物のから取れますが、魔物は人間と敵対していて、その魔核を取り込む(飲むなど)はとても汚らわしいことです。
なので、魔法陣を身体に刻むことは汚らわしいことで、忌むべき行為です。魔法道具か奴隷くらいにしか使われません。
こんな感じの設定です。




