王都までの道のり2
「ローリア、ちょっといいかな?」
「はい?」
御者しているローリアに話しかけた。
王都まで順調に向かっている。天気も良好で、見晴らしもいい。
「俺に馬の操り方を教えてくれ」
御者をしているのはローリアだけだ。アーレと俺には経験がない。出来るだけ代わってあげたい。
「ご主人様は休んでいてください。御者は奴隷の務めですから」
ローリアは当然といった様子で答える。
一般的に、奴隷の仕事は御者をすることを含む。なので、奴隷がいるなら御者は奴隷の仕事だろう。
「ローリアにばかり負担を掛けられないからな。そもそも、俺はローリアを奴隷扱いするつもりないし」
俺も当然といった様子で答える。
ローリアは俺の曲芸の相棒になるかもしれない。そんな彼女を奴隷扱いなんて出来ない。
「……はい、わかりました」
ローリアは少し迷った風に言った。
奴隷の彼女にとっては、仕事がなくなるのは存在意義の消失に繋がるのかもしれない。彼女と接するには、そこのバランスに気を付けないといけないな。
こうして俺はこの王都への道中で馬を操る練習をすることにした。
俺はローリアの場所に代わって御者台に座る。2頭の馬が前に見えて、顔を上げると見通しが良い。ローリアは俺の横に座っている。彼女は横から教えてくれるようだ。
「早く走ってもらいたいときは叩いて、止まるときは手綱を引いてください。曲がるときは……」
ローリアは丁寧に教えてくれる。基本操作は簡単に覚えられた。しかし、手綱を引く力加減など微妙なところがわかり辛い。
「結構難しいな」
「そうですね。私もよく間違えて叩かれました」
ローリアの表情に影が差した。ローリアの地雷を踏んでしまったようだ。出来るだけ彼女には笑顔でいてほしい。
「ローリアも手綱を握ってくれればいいんだがな……」
力加減を知るなら俺の握る手綱に直接力を加えてもらうのがいいだろう。俺も力を感じられる。
「そうなんですよね。私も手綱を握れたら教えやすいです」
ローリアも同じことを考えていたようだ。
ローリアと俺が手綱を握って、そして教えやすい状態となると……
「ローリア。俺の膝の上に乗ってくれるかな?」
俺は膝をポンポンと叩いていった。
ローリアも俺の考えがわかったようで頷いて答えた。
「失礼します」
そう言ってローリアが俺の膝の上に乗った。軽い。
小人族のローリアが俺の膝の上に乗ると、胸の辺りに彼女の頭がきて、手綱を持つ俺の腕がローリアを包み込む体勢になる。
「ごめんな。この体勢がわかりやすいんだ」
奴隷とはいっても、女性を包み込むように抱えるのは申し訳ない。
この体勢ならば俺にもローリアにもやりやすい。俺も前世では箸の持ち方や料理を教わるときはこの体勢だった。もっとも、その時は教わる側は前だったが。
「いいえ。私も教えやすいですから」
どうやら、ローリアも教えやすいので構わないみたいだ。ドン引きされないで良かった。
「ご主人様。手綱を引く力はもっと強くてもいいです」
ローリアはそういって手綱を引いた。俺の手にも引いた力が伝わって、ローリアの力加減がよくわかる。やはりこの体勢はわかりやすい。
俺もローリアに倣って手綱を引いた。すると、馬が嘶きいきなり走り出してしまった。
しまった!俺のステータスを考えずに、思いっきり力を加えてしまった。
「と、止まってください!」
ローリアが慌てて止めてくれた。ローリアは操り方がうまい。馬は依然として興奮しているが、興奮前の速さで走っている。
「ありがとう。ローリア」
「いいえ。お怪我はありませんか?」
自分よりも俺のことを心配してくれる。いい子だ。
「うん。大丈夫。ローリアは?」
「大丈夫です。ご主人様が支えてくれましたから」
俺の手は手綱を放して、ローリアの腹部に回っている。馬が走り出したので、ローリアの身体を支えるためだ。ローリアの体重は身体が小さい分軽い。もしかしたら、飛ばされていたかもしれない。
「あ、ごめんね」
俺はローリアを抱えていることに気づいて腕を解いた。いつまでも女性の腹部に腕を回しているわけにはいかない。
「少し私が操るので、ご主人様はさっきみたいに支えていてください」
ローリアは平然とそんなことを言う。ローリアが操るのを見て勉強するか。
さっきみたいに支えるということは……
俺は再びローリアの腹部に腕を回す。俺の胸にローリアがぴったりとくっついて、とても収まりが良い。ローリアの体温と麗らかな陽気が心地よい。
「上手いな。ローリアは」
馬は素直に従うし、それだけ的確に操作できているということだ。この子が役立たずと言われるとは思えないほどだ。
「同じ奴隷のお姉さんに教えてもらいました。奴隷は色々できたほうが幸せになれるそうです」
ローリアの表情が暗くなってしまった。またローリアの地雷を踏んでしまっただろうか。
その言葉を受けて俺は右手でローリアの頭を撫でる。出来るだけ安心させてあげたい。
「大丈夫ですよ。ご主人様」
そう言ってローリアは言葉を続けた。
「お姉さんのいう通り、私は今幸せですから」
そういってローリアは俺を見上げて微笑んだ。表情の変化の少ないローリアの微笑みは威力が高い。きゅん死するかもしれない。
「そうか。良かった」
釣られて俺の頬も緩む。ローリアが幸せに思ってくれるなら俺も嬉しい。今まで不幸だったローリアにはいっぱいの幸せをあげたい。
「……暑いですね」
アーレの呟きは俺たちに聞こえることはなかった。
今回はユイトとローリアにイチャイチャしてもらいました。
最近少しずつですが,ブックマーク数が増えてきて嬉しい限りです。




