イーニアさんとお買い物
「おはようございます!ご主人様!」
「……おはよう。ローリア」
ローリアが元気に朝の挨拶をしてきた。今までの様子から考えられなくて呆気に取られて返事が遅れてしまった。
いつも通り準備をしていると、部屋にノックの音が響いた。訝しんで扉を開けるとミナが立っていた。
「おはようございます!ユイトさん!」
今日もミナは元気だ。
「おはようございます、ミナ。朝早くどうしたんだ?」
目線を合わせて質問する。まだ、朝食をとれるかどうかという早い時間だ。
「1階にお客様が来ています。お会いになられますか?」
ミナがスラスラと話す。きっと、これは典型文として覚えているんだろう。
「誰かわかるかい?」
「えっと…確かイーニアっていう方です!」
イーニアさん?何か用だろうか?
「ありがとう、ミナ。すぐ降りるよ」
ミナとローリアと一緒に1階に降りた。降りるとイーニアさんが椅子に座って待っていた。
「よう。ユイト。朝早くすまないな」
イーニアさんはボーイッシュな格好をしていた。いつもは門番の鎧を着ているから新鮮だ。女性らしい細さをしているが、鍛えられた強さを感じる。
「おはようございます、イーニアさん。えっと、どうしました?」
朝早く来たことに疑問を持ちながら尋ねてみる。
「今日は休みでな。ユイトはまだこの街のこと知らないだろ?案内してやろうと思って来たんだ。」
この人は面倒見の良い姉御肌なのだろう。
「いいんですか?」
流石に何から何まで面倒見てもらっては申し訳ない。
「お前は素直に甘えておけ。したいからしてるだけだしな」
気を使わせない言い訳だ。男気があってまるで俺がヒロインだ。
「ありがとうございます。ローリア行くよ?」
俺は部屋に戻ろうとしたローリアを引きとめた。
「いいんですか?」
奴隷としては引き下がって主人の帰りを待つものだろう。俺としてはローリアに買ってあげたいものがいっぱいあるからついて来てほしい。
「もちろんだよ。一緒に回ろう。いいですかね?イーニアさん」
ローリアに微笑みかけて、イーニアさんに確認を取る。
「その子はお前の奴隷だな。もちろんいいぞ」
イーニアさんにはローリアのことをすでに少し説明している。というか、街を出ようとしたら質問攻めにあった。
「ありがとうございます。イーニアさん」
今日はイーニアさんに街を案内してもらうことにした。
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案内してもらうといっても街は広大だ。一日で回るとなると一瞥して通り過ぎるだけになる。
この街は商業区、住宅区、貴族区、城、スラム、ダンジョンと結構しっかり分かれている。俺はイーニアさんにお願いして、商業区と観光に絞った。貴族区なんて興味はないし、スラムは選択肢にないし、ダンジョンの周辺は知っている。商業区で買い物をしたい。所々にある観光もしたい。
「イーニアさん。どこに髪をきれるところ、ありますかね?」
商業区に着くと俺は尋ねた。
「ああ、そこの角を曲がったところだな」
「そうですか。ローリア。まずは髪を切ろうか?」
ローリアの髪は長い。長いだけではなくボリュームが多く、前髪が目元を隠してしまっているのだ。今までは髪を横に流していたが、切ってしまった方がいいだろう。
「いいんですか?」
この質問の真意は「奴隷なのに髪を切ることにお金をかけていいのか?」だろう。
「もちろんだ」
この子はもっと図々しくてもいいと思う。
ローリアを連れて行って髪を切ってもらった。奴隷の散髪なので俺に注文を聞かれたが、ローリアがしたいようにさせた。
「お待たせしました」
待っているとローリアが戻ってきた。背中まで伸びる髪はあまり変わらないが、ボリュームが落ちて前髪も短くなってよく顔が見えるようになった。小さな顔と大きな瞳が見えて可愛らしい
「うん。可愛いね。【コンディショナー】」
【コンディショナー】かけたのは、切った鋏の性能が信用ならないからだ。元の世界では髪を切るための鋏だったので、俺にとってはこの世界の鋏は性能が低い。
「ありがとうございます!」
素直にお礼の言える子はいい子だ。
「はい。これプレゼント」
俺はリボンを渡した。水色の鮮やかなリボンにヘアゴムが付いたものだ。ヘアゴムは俺が魔法をかけて伸び縮みするようにゴムにした。
「え。これって?」
「ローリアは髪が長いからね。これで髪を縛るといい」
魔法の練習するときなんかに煩わしそうだったもんね。
「あ、ありがとうございます!」
ローリアはそういって笑顔を見せた。髪を切って顔が見えるようになったので威力があるな。
ローリアが髪を結び始めた。低い位置で結ぶサイドテールだ。俺から見て、ローリアの左から髪が前に出ている。
「じゃあ次にいこうか。」
そういって、別の場所で買い物をしていたイーニアさんと合流した。
「次は服を見に行きましょう。」
イーニアさんに提案した。俺はともかくローリアの服が貫頭衣しかないのは問題だろう。
「服か……まあ、店はあるんだがなぁ……」
イーニアさんは煮え切らない様子だ。そして一軒の店に連れてきてもらった。雰囲気の良い大衆的なお店だ。
「あたしは服とかよく分からなくてな」
そういうイーニアさんはどこか後ろめたさがあるようだ。
「イーニアさんも選んでください。一着プレゼントしますよ。」
「本当か?といってもなぁ……何にしたらいいか」
ボーイッシュな彼女には女性らしい服は少なそうだ。
「これなんてどうですか?きっと似合いますよ。」
淡い色のロングスカートだ。俺にセンスがあるとは思えないが、ロングスカートならトップス次第で変わるだろう。
「少し可愛いすぎやしないか?」
少しひらひらしているが許容範囲だと思う。
「そうですかね?似合うと思ったんですけど」
「わかった。それをもらう。すまないな。」
結局そのロングスカートを買った。少し高かったがお礼だしいいだろう。
「ローリアは決まったかい?」
「ご主人様」
ローリアも思案していた。手に持っているのは淡い色のワンピースと冒険者風の服だ。
「迷っているのか?じゃあ両方買おう。普段着と冒険の時とで使い分ければいい」
奴隷としては両方買うという選択はないのだろう。俺の奴隷なのだから気にしなくていいのだが、両方購入するとローリアは茫然と固まっていた。他にも寝間着や小物を買った。
そして、観光をして案内は終わった。街の大きな広場の噴水や街を救った英雄の像など観光名所は意外と多かった。中でも鳴らない鐘などは実にファンタジーらしくて良い。
イーニアさんに丁寧にお礼を言って別れた。明日からは魔法の練習やダンジョンでアイテム探しかな。
ローリアの髪形を決めてみました。
作者はあまり髪型に詳しくないので表現があっているか不安ですが、少しでもキャラのイメージ補完に繋がれば幸いです。




