魔法の練習
「まずは身体に魔力を循環させることから始めよう」
魔力を操るための練習だ。魔法の本に書いてあった訓練方法だ。魔力量を増加させて、魔法の制度を上げると書かれていた。ローリアに教えるついでに、本の内容が正しいか確認するつもりだ。
俺は自分の身体に魔力を循環させる。外見に変化はないが、ローリアにはスキル【魔力応用】があるから感じ取れるだろう。ローリアは難しい顔をして首を傾げている。感じ取れてもできるわけではないか。
「ローリア、魔力は胸の辺りから生まれるんだ。胸から右手へ、右手から足先へ、足先から左手に魔力を流すといい」
難しい顔をしながらローリアは魔力を流し始める。俺は【アナライズ】をローリアの状態を意識して発動した。
俺の脳裏にはローリア内の魔力が見える。どうやら右手から魔力が漏れているようだった。少し魔力が循環しているが微々たるものでしかない。
俺は直ぐに出来たけど、きっとスキルのレベルが高いからだろうな。人に教えるのって難しい。俺は方法を変えることにした。
「ローリア。両手を前に出して」
ローリアは素直に両手を前に出した。俺は屈んでその両手を取る。
「じゃあ、一緒に魔力を流してみよう。集中して」
俺はゆっくりとローリアに魔力を流し始める。少し抵抗を感じるがそこはスムーズに流れるように調整した。
「んっ…くっ…あんっ…」
艶めかしい声が聞こえるが気にしてはならない。ローリア?7歳のふりをしているならその声は駄目だよ?
「はい。こんな感じかな?次は1人でやってみて。手や足の先から漏れないように意識してね」
そう言ってローリアの手を放した。ローリアは1歩距離をとると魔力を循環し始めた。嫌われていないよね?
さっきよりも魔力の循環できている。比べると雲泥の差だろう。
「どう?うまくできているかな?」
「よくわかりませんが、さっきご主人様と行った時と似たような感覚がします」
魔力を循環できているし、感じられているみたいだから大丈夫だろう。
「よし!じゃあ次は魔法を使ってみよう。【ウォーター・ボール】」
俺の掌の上にふよふよと水の玉が浮かぶ。ローリアは魔法の発動と出来上がった水の玉を繁々と見ていた。
「手に魔力を集めて、それを水にするって感じかな?前も言った通り空気中から水を集める感じでもいい」
明確にイメージ出来なければ魔法は発動しない。ローリアはやる気はあるが、魔法を信じていない節がある。ここからが難しいだろう。
「……ウォーター・ボール」
ローリアは掌を精一杯広げて呪文を唱える。何も起こらず辺りには嫌な静寂が流れる。ローリアからは明らかな落胆を感じる。
「ローリア、魔法にはイメージが大切だ。呪文はイメージを補完するためのものだから、それほど重要じゃない。だから魔力とイメージに集中してくれ」
アドバイスを聞いてローリアは試してみるが,上手くいかない。
そのあと、何度か練習しているとローリアがふらふらと崩れてしまった。俺には潤沢な魔力があったから魔力の枯渇をすっかり忘れてしまった。
俺はローリアを抱え上げて宿屋に戻ることにした。宿屋でゆっくりと休ませてあげよう。まだ昼だし、昼食もかねて休憩にして夜に練習しよう。
俺は宿屋でローリアを寝かせて、屋台を回って昼食を購入し、ローリアと一緒に食べた。魔力枯渇しているローリアの調子は悪そうだ。今夜の練習はなしにして違うことにしようかな。
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「おはよう、ローリア」
ローリアが目を覚ましたので様子を窺ってみる。顔色は良くなっており、魔力もある程度回復しているだろう。
「……あ。すみません!私勝手に寝ちゃって!」
「大丈夫。調子はどうかな?」
慌てて起きようとするローリアを静止する。
「はい……大丈夫です。」
表情は暗いけど勝手に寝た罪悪感からだろう。奴隷だからって気にしなくてもいいのに、疲れているときは寝るのがいい。
「気にしないでね。まだ夜だし、俺はその間やりたいことをしていたからね」
ほとんどローリアに付いていたけど、実際に買い物をしていた。タオルとか栄養に良さそうなものとか。
「ローリア、動けるかな?出かけたいところがあるんだ」
「はい。いけます。……どこに行くんですか?」
ローリアは少し迷った後に質問してきた。
「ふふ。内緒だよ」
俺は右人差し指を口にあてて、内緒のポーズをする。ローリアは困惑した顔をして何か決心した顔をした。何か勘違いしてないかな?
「その前にご飯にしようか?今ならまだ1階で食べられるだろう」
ローリアがこくりと頷いたので、手を引いて1階に降りた。
1階に降りてニーナさんに食事をお願いした。食事はパンとシチューとサラダだった。シチューはパンと一緒に食べると美味しい。
バターを入れるとコクが出てもっと美味しいかな?十分美味しいからペロリと食べてしまった。
ローリアは昨日よりもよく食べていた。シチューが好きなのか、それとも空腹なのか分からないがもう1つずつ注文して食べた。ローリアは表情にあまり出ていないが満足そうだ。
食事を終えて、俺とローリアは街の外に向かった。正門が閉じていたので、魔法ですり抜けた。
「な、何が起きたんですか?」
「魔法だよ」
ローリアが困惑していたので、俺は簡潔に秘密のポーズをして答えた。あまり答えになっていないけどいいだろう。
指先に光魔法で明かりをつけて南の海の方向に向かった。あそこは拓けていてちょうどいいだろう。
到着すると俺は空を見上げた。この世界で初めて空を見上げた時と同じく星が瞬いていた。元の世界では一等星や二等星までしか見えなかった。この夜空を見るたびにうっとりと溜息が出る。
ローリアは空を見ている俺を見つめている。ローリアにとってはただの夜空だ。特別なことはない。
「ローリア、君をここに連れてきたのはね、ここで魔法を見せようと思って連れてきたんだ」
俺は移動してローリアに向き合った。
「俺が冒険者と曲芸師をしていることは話したよね?これから曲芸師としての魔法を見せようと思ってね。俺が曲芸で魔法を見せるのはローリアが2人目だ。しっかり見ていてほしい。それじゃあ、始めるよ?」
ローリアが頷いたのを見て、俺は曲芸を始めることにした。




