第五章「異端の天使」 12
どうも、お久しぶりです。シノと申します!!
ここしばらく更新が滞ってしまっていて大変失礼致しました。
昨年から良き創作メンバーに恵まれ、サークル活動を開始するなど、なかなか体験できない貴重な経験をさせていただいていました。
本作品の事に関しましては、当時から連載を止めてしまうことはないと明言してはいましたが、ここまで期間を空けてしまったことについて、自分の力不足だな、と痛感致しました……。
とはいえ、こうしてまた私も『天使と術者の永遠機構』を再開出来て嬉しく思っていますので、長い間お持たせしてしまった皆様、これから読んでくださるといった方々の期待に応えられるように、改めて精進していきたいと思います。
それでは長くなってしまいましたが、本編の方をお楽しみくだいませ!!
※お知らせ※
活動当初は毎週金曜日更新の作品として投稿をさせていたのですが、この度、サークル活動とこちらのなろうでの活動を両立させるための調整が済みましたので、毎週金曜日23時前後の更新とさせていただくこととなりました!!
久しぶりであったり、用語や設定など忘れてしまったと、いう方のために、設定欄の方も随時更新をさせていただきますので、定期更新楽しみにしていただければ幸いです!!
「随分と待たせちまったな……もう、大丈夫だ。リンネは必ず――――俺が守る!」
そこには、《焔刀―ヒノカグツチ―》を構えながら、力強く佇む天枷時雨の姿があった。
「……時雨……なんで……」
リンネは敵地の真っただ中に颯爽と現れた時雨を前に、微かに声を潜めながら言葉を漏らす。
それは、危険を踏まえた上でどうして来たのか、という意味なのか、はたまた、どうしてこの場所を特定することが出来たのか、という意味なのか定かではなかったが、時雨がこの場に立つ確固たる理由――――そんなものは、聞かれるまでもなく、初めから決まっている。
「なんでって……そんなの、リンネの事を大事に想っているからに決まってるだろ。誰かを頼っても良い、俺はリンネにそう言った。でも、これは俺の自己欺瞞だ。お節介でも何だっていい、頼られようが頼られまいが、リンネが本当に辛い時、苦しい時はお前の隣に立って、味方になってやる。だから、帰るぞ、一緒に」
「――――時雨」
「なんかいい感じの雰囲気のところ、申し訳ないけど、私もいるんだからね~」
「……えっ、エレナまでっ!?」
リンネが声のする方に視線を向けると、時雨の影が歪曲したように揺れ動き、ジト目を浮かべたエレナが顔を半分だけ覗かせた状態でこちらの様子を窺っていた。
リンネは一瞬、思わず肩をびくっと震わせて驚いた様子を見せるが――――、
「エレナ……その、身体は大丈夫なんですか?」
「やはは、さすがに完治とは言えないけどねぇ……でも、アイツにやられた分はしっかりとお返ししてやらないと、ね?」
影から顔半分しか現していないとはいえ、その表情には心なしか、禍々しいまでの怨恨のような強い気迫が感じられる。
エレナ自身も突如の襲撃を受けたことで、奏夜には相当ご立腹なのだろう。
基本、やられたら数倍にしてやり返すという信条を掲げる『影居エレナ』という人間は胸の内を影のように真っ黒に染めながら、密かにその熱をじりじりと燃やしていた。
リンネはそんなエレナの底知れない迫力に一瞬悪寒のようなものを感じながらも、ひとまずエレナの容体に大事がなかったことにそっと胸を撫で下ろす。
「まぁ、そういうわけだ。正直、その『片翼』のこととか、聞きたいことは色々あるが、今はみんなで学院に帰るために、目の前の敵に集中するぞ」
「おーけー、シグレ」
「はい。私も、やられてばかりはいられません」
時雨の呼び掛けにリンネとエレナも短めに返事を返すと、態勢を盤石なものへと立て直すため、敵の出方に細心の注意を払いながら間合いを取り、神経を研ぎ澄ませていく。
まだ調子が万全とは言えないエレナは、一度、時雨の影のなかへと身を潜め、あくまで無理はせず、二人のサポートに徹する構えだ。
「ヒヒッ。やっぱ、駆けつけてきやがったかァ、天使様の騎士さんよォ。まぁ、もっとも、あの街に仕掛けた爆弾はほんの挨拶変わりみたいなもんだ。あんな小細工すら対処できネェほど、魔術特区もさすがに無能じゃネェだろ? 折角だ、派手にやり合おうゼェ‼」
両の腕に霧の膜を渦のように発生させながら、奏夜は不敵に口の端を吊り上げ、ギラギラと瞳を滾らせた。
敵の動きに警戒し、迎撃の構えを取る時雨たちの手にも思わず力が入る。
「おい、TOD―Ⅲ‼ いつまで寝てやがるつもりだ。あんな攻撃で伸びちまうほど、軟な出来じゃねぇだろ‼」
「肯定。このくらいの衝撃で淘汰されるほど、私は贋作ではありません。改めて、敵の殲滅を開始します」
TOD―Ⅲはリンネの攻撃によって吹き飛ばされた瓦礫の山から静かに立ち上がると、変わらぬ平淡な表情で自身の核力と人工翼の同調を計り始める。
「時雨、あのTOD―Ⅲという少女は私に任せてください」
「ん? 何か秘策でもあるのか?」
「秘策という程ではないのですが、実際に相手をしてみて少し気になることがあったので、私に任せてもらいたいんです。これは私の我儘ですが、ダメ、ですか?」
時雨も彼女――TOD―Ⅲとは、一度、魔術街の『フェリシダ・アーチェ』で顔を合わせている。
だが、その時の彼女は平淡な無表情ではあったものの、可愛いものに興味を示す、それこそごく普通の女の子に見えた。
だが、今回の件を踏まえて鑑みるに、魔術街の入口で椎名たちが交戦したという少女は紛れもなく、眼前に姿を構えるTOD―Ⅲに違いないだろう。
ただ、時雨にも、そういった何処とない違和感のようなものに覚えはあった。
それについての真意がどうかなど、一時顔を合わせたに過ぎない時雨に分かる由もないが、ここは《天使》であるリンネを信じて任せるとしよう。
それに――――、
「わかった。そっちはリンネに任せる。俺もアイツに魔術街の時の仮をきっちり返さないといけないからな」
自分が不在だったとはいえ、幼馴染のエレナを傷付けられ、魔術街の関係のない人たちを危険な目に巻き込んだ罪は重い。
時雨は対面に佇む敵の姿を凝視しながら、姿勢を低く落とし、居合の構えで様子を窺う。
「ヒヒッ! いいぜェ。まさかオレの毒霧を喰らっても尚、この研究所に殴り込んでくるやつもいるとはナァ? 精々、オレの実験の踏み台になってくれヨォ?」
両者は互いに睨み合い、緊迫した空気が場を支配する。
しばらくの沈黙の後、最初に動きを見せたのは――――、
「速攻。敵を殲滅します」
人工翼との同調を終え、《破壊》の力をその身に宿すTOD―Ⅲだった。
彼女は地面を強く蹴り出して爆発的な勢いでリンネとの間合いを詰めに掛かる。
それに対して、リンネは袖口から数枚の式札を取り出し、TOD―Ⅲに向けて投擲した。
「《式札―閃光の裁き―》‼」
投擲された式札は一直線に飛んでいくと、膨大な光量を放って周囲に四散していく。
式札と式札を互いに衝突させることによって生まれる、単なる目くらましに過ぎないが、《破壊》を扱う彼女に直接ぶつけるよりは効果的と言えるだろう。
時雨もその光の爆発に乗じて、地面を蹴り――――動き出す。
「焔刀滅ノ相! 薙ぎ払え、《焔ヶ一閃》‼」
時雨は焔刀に核力を集約させて居合の構えから素早い動作で抜刀し、刀身を勢いよく横に薙いで焔の一閃を放つ。
横薙ぎに放たれた一閃はTOD―Ⅲをも巻き込み、衝突と同時、大きな爆発と爆風が吹き荒れる。
対して、奏夜はリンネの目くらましに特別動じた様子もなく、絶対的信頼を持つ自身の科技術の結晶《絶対防壁》を展開して、時雨の攻撃を糸もたやすく防いで見せた。
「ケッ! この程度の目くらましじゃ、奇襲にもなりゃしねぇヨォ。もっとも、そいつはうちの《人工天使》に関しても言えることだがナァ?」
奏夜がそう言うと、爆発の影響で立ち込める粉塵は次第に晴れていき、そこには右腕の装甲を前に突き出しながら、悠然と佇むTOD―Ⅲの姿があった。
まるで、羽虫を片手で握りつぶすかのような手軽さで、時雨の攻撃は相殺されたのだ。
本当に出鱈目なまでに暴力的な《術》である。
TOD―Ⅲは埃を払うかのような仕草で、人工翼で浮遊した高さから時雨たちを見下ろした。
「――《破壊》。奇襲を想定して備えていれば、この程度の攻撃は造作もありません」
「ヒヒッ! だと、サァ? じゃあ、今度はオレから行かせてもらおうかネェ」
奏夜は霧の渦を纏った両の腕に核力を集約させて、霧の物量を両腕全体が覆いつくすまでに拡大させる。
その膨大に膨れ上がった質量の霧は一度放たれれば、ここにいる全てを巻き込みかねない程だ。
「はっ……敵味方、関係ねぇってのか」
「いんヤァ? TOD―Ⅲの事を言ってんなら、発想力が足りねぇゼ、天使の騎士様ヨォ? TOD―Ⅲ、構えろォオオオオオオ‼」
奏夜の命令に従い、TOD―Ⅲは両腕に装着された装甲を前面に構えながら、奏夜の方を向くようにして振り返る。
そして、その直後――――、
「霧の波に飲み込まれちまいナァ‼ 《霧津波》‼」
奏夜の両腕に渦巻いていた膨大な質量を孕んだ霧は勢いよく解き放たれた。
濃度の濃い霧を限界まで圧縮していた故に、強大な圧力を持って時雨たちに襲い掛かる。
魔術街の時にも奏夜の戦闘スタイルは目の当たりにしているが、その暴力的なまでの破壊力は言うまでもなく、目的を果たすためであれば他の犠牲を微塵も考えない辺り、非常に厄介である。
本来、味方であるはずのTOD―Ⅲもまた奏夜の放った霧の波に飲み込まれそうになっているが――――ただ、それは奏夜が無謀な策に走るような愚直な考えの持ち主であればの話だ。
なぜなら、彼女には――――、
「――《破壊》」
あらゆる物質をただ触れるだけで《破壊》してしまう《術》がある。
先程、時雨が敵に対して放った焔の一閃も無残に飛散してしまったように、奏夜の放った霧も例外ではない。
ただ、《破壊》の特性、本質はあくまで触れた物質の破壊に過ぎない。
つまり、TOD―Ⅲの周囲の霧は飛散しても、離れた位置にいる時雨たちに襲い掛かる霧に至っては、まったく効力を発揮しないのだ。
奏夜は最初からこれが狙いだったのだろう。
狂気に満ちた残忍な性格が判断を鈍らせるが、霧雨奏夜という男はそういった計算高さを持ち、一番効率的な手段を見逃さない冷徹かつ冷静な輩だった。
眼前に迫りくる霧の高波を時雨はキッと鋭い眼光で見据えて、もう一度、姿勢を低く下げ、居合の構えを取る。
だが、時雨が手に掛けた焔刀の刀身を抜こうとした、その瞬間――――咄嗟に傍に駆け寄ってきたリンネが右腕を広げて、それを制止させた。
「……リンネ?」
「ここは、私に任せてください」




