トウヨウ灯籠区
アストロは扉の前に来た。外からは何やら物音がする。アストロは物音が消えたことを確認し、扉を開けた。扉の前には一枚の紙が、小石の下に置かれていた。
アストロが紙を拾い上げる。同時に、バイクが勢いよく走り去る音が聞こえた。おそらく、この紙を置いた人物だろう。
「…逃げられたか。」
アストロは紙を見つめる。紙は小さく折りたたまれている。中には文字が書かれている。
「手紙か。」
アストロは手紙の内容を確認した。そして、小さくため息をつき、アジトの中へ戻っていった。
部屋に戻ると、ポラリスが銃を構えていた。アストロを侵入者だと勘違いしていたのか、安堵の表情を浮かべて銃口を下した。
「なんだ、アストロか。大丈夫だったか?」
「あぁ。大丈夫だ。それよりも、これを見てくれ。」
アストロは机の上に手紙を置いた。ポラリスは手紙を手に取った。
「…なるほど。そういうことか。」
手紙には、こう書かれていた。
『Night Watchへ。
貴様らの行動は把握している。
旧ルミナイト採掘場について、話し合いの場を設ける。
拒否は認めない。
場所は我々、夜刀衆のアジトだ。』
ポラリスとアストロは直感した。この話し合いというのは罠だと。
「場所を夜刀衆のアジトと指定してくるあたり、罠だろうな。」
「おそらくな。日時の指定はなく、拒否は認めない、か。どうする、ポラリス。」
「…行かなければならないのは確実だろう。だが、対策は万全にしていこう。」
二人はそう言って、再び席に着いた。そのまま時間が過ぎるまで、この一件について話し合った。
やがて、メンバーの全員が起きてきた。ポラリスは昨夜起きたことを報告し、手紙を見せた。
「夜刀衆か。また厄介なことになったね。」
アルタイルはほとほと疲れたように、手紙を回し、ソファーへ寝転がった。手紙が全員へと順番に渡されていく。誰もが驚く様子はなく、ため息をつくだけだった。
「はぁ、またなのね。」
カペラも呆れた顔で手紙を読む。Night Watchはこれまで、多くのチームと衝突してきた。その多くが資源や土地の奪い合いだ。今回のような手紙が届くのも、珍しいことではない。
「ということで、俺とアストロ、それからオリオンが夜刀衆へ行く。内容を見る限り、今日中の方がいいだろう。」
「え?ちょっと待って?ポラリスも行くの?ここに残った方が良くない?」
オリオンが驚いて、飲んでいたドリンクを吹きこぼしそうになった。
「確かに、オリオンが言うことは当然だろう。しかし、俺はNight Watchのリーダーだ。リーダーが交渉に行かなければ、後々舐められるだろう。それは、夜刀衆に限った話ではない。」
ポラリスの言うことも間違ってはいなかった。しかし、指令役が現地へ行くことは何かと不都合がある。
「ということで、レイヴン。臨時の指令役を任せる。お前のドローンや情報技術があればなんとかなるだろう。」
「…了解した。」
こうして、ポラリス、アストロ、オリオンが夜刀衆のアジトへ行くことになり、レイヴンが臨時の指令役。残りのメンバーは待機となった。作戦会議はこれで終了し、三人はバイクで夜刀衆のアジトへ向かった。
◇◇◇
三人は、夜刀衆のアジトへ到着した。夜刀衆はトウヨウの中心に近いところにアジトを構えている。規模は中規模で、構成員の多くが剣術を身に着けている。人数が多く、戦力もある。そのため、近隣の店に用心棒として雇われている。
夜刀衆のアジトはNight Watchのように地下にはない。トウヨウ灯籠区の地上に存在する。アジトの入り口は神社の境内のようになっている。大きな鳥居があり、桜のホログラムが舞っている。そして、提灯がとても多く吊るされている。
トウヨウ灯籠区は数少ない和風の街だ。わずかに残った、この国の文化の一つである。この治安の悪い世の中でも観光地として有名だ。遠くから訪れた人々が酒を飲み、桜のホログラムを見て花見を楽しむ。観光客ではあるのだが、海外からではない。国内の観光客だ。
ポラリスはアジトの鳥居をくぐる。鳥居の前には写真を撮る人が数名いた。アジトの入り口に立つ二人の見張りが、腰のレーザー刀に手を添える。この時、アストロとオリオンはバトルスーツを着ていた。見張りが警戒するのは当然だった。
「…何者だ。」
「我々はNight Watchだ。旧ルミナイト採掘場についての話し合いに来た。手紙はここにある。」
ポラリスは見張りに手紙を渡した。一人が受け取り、中身を確認した。
「…承知した。よくぞ来られた。歓迎しよう。」
見張りは手紙をポラリスへと返し、門を開けた。門は木材でできていて、人力で開ける仕組みだった。門がゆっくりと開き、夜刀衆のアジトが露になった。
「この先に我らが長がおられる。真っ直ぐ進んだあの塔だ。」
見張りは奥にそびえたつ大きな塔を指さした。ポラリスは軽く頭を下げ、門をくぐった。ここから先が、夜刀衆のテリトリーだ。
「…気を引き締めろ。」
ポラリスは小さく呟いた。アストロとオリオンも小さく頷き、ポラリスの近くを歩く。ポラリスは軽装備を着けてはいる。しかし、レーザーを防げるほどではない。




