仮面の綻び13
「……」
弘海は当時のミキについての心情を考えてみる。
だが、それはまるで深海の奥底に潜む、二枚貝の中に真珠が入っているのかどうかを確認せよ、というほどの無理難題だった。
なにせ、弘海に推理力はないのだ。
出てくるのは月並みな考えばかり、しかし、期待に満ちた瞳を向けてくる未可子を前に、口を開かないわけにはいかなかった。
「ミキさんは、沈黙をすることによってクラスメイトたちの尊厳を守ったんじゃないかな?
……事件のあらましを話さないことで」
未可子は不思議そうに弘海を見ていた。
そんな未可子の瞳が不意に揺れる。
「お姉ちゃんがね……」
弘海には、どこか納得のいってないという仕草に見えた。
「事件の真相からしてみても、ミキさんは、クラスメイト思いだったったのは確定している。
自分が言葉を飲み込めば、それで全て丸く収まると思ったんじゃないかな」
その後に続く、『自らを犠牲にして』という言葉は弘海が飲み込んだ。
この先、未可子と付き合いが続いていったとしても、この言葉を吐き出すことはきっとないだろう。
「そうだったのかな……」
「矢野さんはそうは思えないって言うの?」
「うん。お姉ちゃんが優しいってことは私も知っているよ。────でもね、たまに見せる怖い部分があったんだ」
「怖い部分……?」
「うん。うまく、言葉では表現することはできないんだけど」
「例えば?」
「……小さい頃からお姉ちゃんは私のことを助けてくれたんだけど、どうもそれが本心からの行動には見えなかったったいうか……」
未可子の言葉は曖昧だった。
夕闇に染まる直前の夕焼けとの境界線みたいに────
「でもさ、実際そうなっているわけじゃない」
弘海は、そう言いながら高橋の方に視線を向けた。
もはや、高橋は観察をする対象にすらなり得ない。なにせ、ミキの心情を知る由もないのだから。
弘海の興味は高橋には微塵も向けられていない。
弘海が見ようとしているのは、その過去。
山川と高橋はミキに救われて、きっとなんのお咎めもなかったはずだ。それは事実として存在している。
総勢何人いるのかは推察のしようもないけど、そうやってミキに救われた人間は多いはず。
だから弘海は自信を持って言葉を紡ぐ。
「君のお姉さん────ミキさんは立派な人だ。普通の人間にはできない自己犠牲を払ったんだ。
それを未可子は誇りに思っていいと思うよ」
「……うん」
どこか未可子は納得していないようだった。
でも、本人がこの場にいない以上、どんな議論をしようとも事実が判明することはない。
弘海の類まれなる観察眼が役に立つことはないのだ。
「もう、出ようか。もうここに用はないし」
「うん」
未可子は弘海の提案に頷き、席を立った。




