出陣の日【scene30】
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勇者の団の出陣は一週間後だと伝えられて以降、レトはルッチたちと剣の練習で日々を過ごした。ルッチはもちろん、ガイナスもレトの吸収力の良さを認めるしかなかった。レトは自分に何ができて、何ができないのかを正確に理解できた。そこから、相手の動きにどう対処すべきかを自分の身体に合った捌き方や返し技を編み出したのである。単純にルッチやガイナスの技を真似ることをしなかった。それがレトに「できないこと」だからだ。小柄なレトには、ルッチやさらに大柄なガイナスの間合いでの戦い方ができない。そんな戦い方をいくら真似しようが自分のものにならない。誰かに教えられるわけでなく、直感的にレトはそうしたことを理解して剣の腕を磨いたのだった。レトは数日でさらに手ごわい剣士へと成長していた。
出陣までに時間がないが、城内で軍事訓練も行われた。勇者の団は急ごしらえの軍団である。命令伝達の練達や、連携の取り方などが訓練の中心になった。小隊を組んでいた者は、こうした訓練にすぐ慣れた。ひとと組んで戦ったことのないレトは戸惑うことが多く、なかなか苦労していた。ルッチも苦手にしているのが気休めだった。訓練を前に、レトはルッチとガイナスとともに8番隊の「カイル班」に組み込まれた。勇者の団は百名ごとの中隊に分けられ、さらに10名ごとの小隊に分けられている。中隊は順に1番隊、2番隊と呼ばれ、小隊はその代表者の名前に「班」をつけて呼ばれる。つまり、レトたちはカイルをリーダーとする班に入れられたのである。カイルは身体の大きい壁役の戦士だ。彼はもともと小隊を率いるリーダーだった。カイルとその仲間4名に、レト、ルッチ、ガイナスとほかのふたりを加えた10名で「カイル班」となったのである。チェンはカイルの小隊の一員だった。偶然で同室の4人が同じ班になったわけではなく、できるだけ気心の知れた者同士で組ませようという配慮が働いたようだ。それがルッチには不満だったようで、「また、こいつと一緒か」とガイナスの顔を見ながらため息をついていた。ガイナスは一向に気にする様子もなく、「ホホホ、これからもよろしくね」と笑顔を見せた。それを見てルッチはさらにため息をついた。
「君は勇者と一戦交えていたね。見せてもらったよ」
ペックと名乗る青年がレトに握手を求めた。カイルの仲間のひとりだ。背中にツヴァイハンダーを背負った剣士で、敵を薙ぎ払う攻撃役を担っていた。身体はカイルと同じぐらい大柄だが、顔つきはいたって優しい美男子だった。
「お前が粘ってくれたおかげで、俺たちは聖光十字撃が拝めたんだ。感謝するぜ」
横から顔を出したのは同じくカイルの仲間のノギスだ。彼はファルシオンを腰に差している。ペックと同じ攻撃役だ。カイルの仲間では唯一の女性であるハイデラは射手だ。アーチャー帽を目深に被り、顔を見せないようにしていた。話の輪に加わろうともしない。
「しかし、あの技喰らって、よく生きてこられたなぁ。魔王を葬った技だぜ、あれ」
代わりに話に加わったのはオーギュストだ。隣に立っているデュプリと同じように単身の冒険者だ。依頼に応じて様々な小隊に加わって活動をしている。オーギュストはチェンと同じく小型剣やナイフで戦う汎用型の戦士だが、小型の弓や簡単な魔法も扱うなど、冒険者の中でも異色の存在だった。デュプリは全身を鎧で固めた典型的な壁役である。
「勇者が手加減してくれたからこそです、生きていられるのは。本気だったら死んでます、本当に」
レトはペックの手を握り返しながら答えた。自分がこれほど注目されていたことは意外だった。それだけ勇者との立ち合いはすごいことだったのだと改めて認識した。また、思いのほか周りから受け入れられたことも意外であった。レトは人付き合いが不得手なほうだ。こうもあっさりと仲間の輪に入っている自分が信じられなかった。
「この子はねぇ、いわゆる剣士の基礎知識を頭に入れることなくここに来ちゃったのよ。だから、アタシ達とは考え方そのものが違うわけ。既成の考え方に縛られていない分、面白いことを思いつくわよ。アタシ、そういうところに期待しているの」
ガイナスがポンとレトの頭に手を置いた。細い目をさらに細くしている。
「何はともあれ、互いに命を預ける仲間だ。協力し合って戦い抜こう」
カイルがまとめるように言った。勇者の団8番隊、カイル班の船出である。
勇者の団は軍の編制を整え、出陣の日を迎えた。
城下に集結した団員を前に、リオンは壇上からひとりひとりの顔を見つめていた。緊張した面持ちの者がいる。表情は静かだが目から闘志が溢れている者がいる。気持ちが昂るのを抑え、唇が震えている者がいる。表情はさまざまだが、皆同じ気持ちでここに立っている。
リオンは深くうなずくと、一歩前に進み出た。奥に立っている者にも届くよう、リオンは大声をあげた。
「諸君! 我々はこれより城塞都市アングリアへ向かう。目的はアングリアを占拠している魔族どもを排除し、アングリアを奪還することだ。同時に、チリンスの丘へ救援に向かう王国軍が無事にアングリアの前を通過できるように守るためでもある。これが我ら勇者の団の最初の任務になる」
リオンは拳を顔の位置まで挙げた。
「今話したように、アングリア奪還は今後の作戦にもつながる大事な作戦だ。この重要な作戦を、まだ実戦での成果を上げていない我々に託して下さった。だが、勝算はある。私が進軍の道を開く。諸君はその道を突き進めば良いのだ。それで我々が勝つ。魔族に支配され、恐怖に震える街の人びとを解放するのは我々だ!」
リオンは拳を天に突き上げた。リオンに注目していた者たちは一斉に雄叫びを上げると、同様に拳を高々と挙げた。8番隊の先頭にはウィル・フリーマンが立っている。彼はウィル班のリーダーと8番隊の指揮を任されていた。彼の後ろにはウィル班に編入されたダイダロンが大地を踏みしめて雄叫びを上げていた。ウィルはちらりと後ろを見やって苦笑いを浮かべた。
雄叫びを上げているのは団員だけではない。勇者の団は補給物資や武器の修理などを担う非戦闘員も百名ほど随行することになっていた。その中からバンダナを頭に巻いた若者が目を閉じて叫んでいた。彼はレトとルッチが防具職人の小屋ですれ違った若者だった。
勇者の団は極めて高い士気を持って出陣した。勇者の団を構成しているのは、ほとんどが20代の若者で、次いで30代と10代が続く。最高齢は参謀を務めるザバダックの50歳である。
こうして千人を超える若者たちが使命感を胸に戦場へと向かった。後に『討伐戦争』と呼ばれるこの戦いで、生きて帰ってきたのはその半分ほどだった。
第一章 戦場に集う者たち (終)
第二章 アングリア奪還作戦 (予告)
反撃の嚆矢とするため、チリンスの丘へ援軍を送るため、『勇者の団』の最初の任務は城塞都市『アングリア』の奪還と決まった。『勇者の団』千名に対し、アングリアを守る敵勢力は二千以上。数に劣る状態で城塞を攻めるという非常識な作戦だった。その前哨戦となるアングリア周辺の町や村の解放戦でレトは初陣を果たす。1対1の戦いとは異なる「戦争」というものに、まったくの新兵であるレトは戸惑いを隠せない。一方、この戦いで自身の存在意義を高めたい勇者リオンは、親友ケインの心配をよそに突出した戦いぶりを見せるのだった。ついに勇者リオンと魔侯アルタイルとの戦争が始まる。




