陰に隠れた真意【scene28】
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宰相が教授に視線を向けた。「『名もなき陵墓』だと? 魔侯の目的はあれらだと申すのか」
スライスが遠慮がちに手を挙げた。「申し訳ありません。『名もなき陵墓』とはいったい何なのですか? 私は存じ上げませんが……」
「『名もなき陵墓』とは、便宜上我々がそう呼んでいるだけで、実際には陵墓なのかもわからん遺跡群のことだ」
教授ではなく、ザバダックが説明を始めた。
「『名もなき陵墓』は半球体の土台に尖塔が載ったもので、大きさは直径5メルテほど。牛が二頭納められる小屋ほどの大きさかな。その形をしたものが王国内のあちこちにあるんだ。明文化されていないが、これらのものにはある禁忌が存在する。『立ち入ってはならない』、『中を暴いてはならない』。何世代にも渡って、これが守られてきたのだ。先ほども言ったが、我々は便宜上で『名もなき陵墓』と呼び、周囲に壁を築いて立ち入りを禁じた。さらに歴史学者の調査も許さなかったのだ」
「じゃあ、まるで正体不明の遺跡なのですね?」スライスはザバダックにさらに尋ねた。
ザバダックはうなずいた。「そうだ。まるでわかっていない。それが決まりだったからな」
「歴史書にも詳しいことは記されておらん」教授が話を引き継いで話し始めた。
「初めに『名もなき陵墓』について言及されているのは、およそ8百年前の魔導士が遺した手記の中じゃ。それには『勇者が魔王を滅ぼしたのちに造られた』という記述があった。さらに、『遺跡の秘密を守るため、それを口にすることが禁じられた』ともある。つまり、あの遺跡は意図的に記録に残されていなかったのじゃ。そのおかげで、現在の我らはあれが何であるかすらもわからん始末じゃ」
「そんなものを魔侯が狙った、と言うのですか?」質問したのはキーマン侯だった。今日は左大臣がよく発言していて、弟の出番はなかったのだが、このような学術的な話題になると、今度は兄が置物のように静かになる。弟は兄に代わって話を理解するべく、話題に参加したのだ。
「そんな推察ができるのではないかと思うのじゃ。現在、アングリア、ポラトリス、セルネド周辺は奴らの制圧下にあって、これら付近の『名もなき陵墓』がどうなっているのか、それをうかがい知ることはできない。しかし、ワシの推察通りであるなら、これより魔侯の進軍先に予想をつけることができるのじゃ」
「魔侯の進軍先がわかる?」キーマン侯は不思議そうな表情だ。
「今、チリンスの丘で展開している魔侯軍が、もし王国軍を撃破すれば、次の目標はメネアじゃ。理由はメネアの先に、もうひとつの『名もなき陵墓』が存在するからじゃ。コリントとアッチカの付近には『名もなき陵墓』がないからのう」
ヴィクトリアが魔法で描く地図に、黄色の星形がいくつか浮かび上がった。それは魔侯軍に制圧された3つの都市のそばにひとつずつ並び、別のものがメネアのそばで点灯した。さらにもうひとつが別の都市のそばで点灯する。
「我々が把握している『名もなき陵墓』は全部で5つ。メネアのそばにあるものを除けば、残りはドドナの地にあるもので最後じゃ。ドドナの地はメネアを抜け、スファクスを越えたところにある台地じゃ。あそこは交通の便が悪く、軍事的な要衝になることもなかった。ギデオンフェル王国の歴史でも、メネアとドドナが重要となる出来事は起きとらん。いずれも辺境の地じゃ。魔侯が軍事的な利用価値もない土地を目指すのであれば、その理由は……」
「『名もなき陵墓』にある、というわけか……」宰相は自分のあごを撫でながらつぶやいた。
「そうは言っても魔侯軍にチリンスの丘をくれてやって、メネアやドドナに向かうか確認するわけにはいかないでしょう? 我々は準備が整い次第、チリンスの丘へ向かうべきではないでしょうか?」
スライスがテーブルを見渡しながら言った。
「それは難しいな」ザバダックが首を振った。
「なぜです?」スライスがザバダックを睨んだ。
ザバダックは地図を指さした。
「チリンスの丘へは、王都メリヴェールからテヘナ街道をまっすぐ南へ進めばいいが、そのときアングリアの近くを通ることになる。そこを占領している奴らが、チリンスの丘へ援軍に向かう我々を通すと思うか? 奴らが動かないのは、王都からの援軍を見張るためじゃないのか? だからこそ、アングリアを占領してから、奴らの動きは鈍くなったんだ」
「テヘナ街道を通って援軍に向かえば、側面から攻撃される、というわけだな?」ケインが腕を組んだ。「たしかに、その進軍は無理がある」
「テヘナ街道を使わないで行けば良いのでは?」スライスが食い下がろうとする。
「その場合、王都を西へ進んで、イーザリス地方から南進することになる。ただ、パジェット教授が指摘したように、交通の便が悪いドドナの地を通らなければならない。それでは日数がかかり過ぎるだろう」
「じゃあ、どうするんです? 我々は王都で奴らが来るのを待ち受ければ良いのですか?」
「チリンスの丘に援軍を送りたいのは我々も同じ気持ちだ。それを実現させるには、アングリアの奪還が必要になるだろう。そこでだ」
ザバダックはそう言うと立ち上がった。地図のそばまで近づくと、アングリアを指した。
「君たちはアングリア奪還の任につくのはどうか? 同時に王国正規軍からチリンスの丘へ援軍を派遣するのだ。君たちがアングリアを占領している魔族と交戦している間に援軍が街道を抜ければ、チリンスの丘の戦局は我々に傾くことだろう」
「君は軍参謀になったつもりかね?」左大臣が呆れたような声をあげた。
「私はこの戦争に勝つためのことを考える。そして、それを口に出しているだけです」ザバダックは淡々と答えた。
「アングリアを奪還できれば、もし、チリンスの丘が突破されても、メネアへ向かう道ができる。アングリアからメネアに通じる道がありますからね。メネアで魔侯軍を迎え撃つことができる。そういうことですね?」
地図を眺めていたスライスが大声をあげた。ザバダックの考えが理解できたようだ。
「まぁ、そんなところだ」ザバダックはうなずいた。
「おい、待て。お前たちはこの学者の考えを元に戦略を組み立てるつもりか? さっきの話はあくまでこの学者の想像によるもので、魔侯の目的はコリントやアッチカの可能性だって残っているだろう? もし、結果がそうであれば、チリンスの丘への援軍もアングリア奪還も無駄なことになる。アッチカであれば、王都から伸びる運河で向かうことができる。見切りで戦略を決めるわけにはいかんぞ!」
右大臣が大声で反対意見を言った。
「無駄にはなりません。どちらにせよアングリアは奪還せねばなりませんし、チリンスの丘で陣を張っている友軍を見殺しにはできません。おっしゃるようにアッチカへの備えも必要なことでしょう。ですが、我々の力には限りがあるのです。そんな我々にできるのは目標を絞って戦力を集中させることです。下手な分散はかえって全体の敗北につながるでしょう」
スライスが説得するように説明した。さらに説明を続けようとするのを、右大臣は遮った。
「生意気を言うな! この戦争で誰が何をどうするのかを決めるのは我々であって、貴様たちではないんだ! 貴様たちは我々の決定に従えば良いのだ」
……だが、今日は何も決定できないんだろ? あんたたちは。
ケインは皮肉を言ってやりたがったが、ここは沈黙した。今、自分が発言しても右大臣の考えを変えることは無理そうだからだ。
がたり、と椅子が動く音がした。ケインが音のしたほうを見ると、リオンが立ち上がっていた。
「宰相閣下にお尋ねしたい。閣下はこの戦争をどのように終わらせたいとお考えなのか。この王都だけは死守して、魔侯の撤退を待つのか。それとも魔侯の討伐をお望みになるのか。どちらなのですか?」
「何を言い出すかと思えば……」右大臣が顔を真っ赤にさせた。宰相は片手を挙げて右大臣の発言を制した。
「私の考えを知りたければ答えてやる。魔侯は討伐しなければならない。確実にだ」
「それは、我々の出陣を遅れさせる右大臣殿とは意見を異にする、ということでしょうか?」
ケインは驚いてリオンの顔を見上げた。右大臣でなくとも『何を言い出すのかと思えば』と言いたくなる。
「右大臣殿の考えは事態が動いてから対応する、というものです。それだけを見れば、確実で堅実な考えだと思えます。ですが、事態は流動的に、常に変化し続けています。結果が見えてからの行動では確実に後手を踏むことになります。個々の戦力では圧倒的に劣る我々がそれでは戦局の打開は望めますまい。我々は敵に先んじた行動を取る必要があるのです。教授の推理は極めて理論的でした。王国の支配を望むはずの魔侯軍が、最短で王国を倒せる策を取らなかったのは不可解です。ですが、教授の説は部分的ではありますが、それに答えをもたらすものです。魔侯を討伐するために行動するのであれば、教授の説に乗っていくべきです。それが閣下の望む結末に通じる道だと考えます」
ケインは気になって右大臣に顔を向けた。先ほどまで顔を真っ赤にしていた右大臣は、今度は蒼ざめた状態でリオンを睨んでいる。もう、通常の怒りを通り越したようだ。
リオンの意見を聞いて、宰相はしばらく目を閉じた。まるで瞑想を始めたようだ。だが、宰相はすぐに目を開いた。
「私は軍事については諸君に判断を委ねようと思っていた。右大臣殿も左大臣殿も、心を砕いて事に当たってもらっている。で、あるから、私は今から口にするのは裁定でも意見でもない。私の心情の話だ。最終決定はやはり両大臣に委ねようと思う。それでも聞いてもらえるかね?」
宰相はまっすぐリオンを見つめている。リオンはうなずいた。「お話をお聞かせください」
「私がこの王国の宰相になって30年が経とうとしている。実に長期に渡るものだ。先代のダリウス三世からだ。王国は今回のような大規模な魔族の侵攻もなく、その意味では平和だった。しかし、国内がすべて平穏だったわけではない。陛下御即位までの経緯では、陛下の実兄を罪人として塔に幽閉せねばならなかった。経済危機には税制を大幅に変更することを余儀なくされた。そのたびに私は決断を迫られた。決して後悔が許されない決断を。そして、そのことに迷うことはなかった。今回の戦争に関して、私は初めて迷いが生じたのだ。私はすぐにでも魔侯の元へ飛んでいき、その首をはね飛ばしたい気持ちなのだ。これまで激することもなかった私だが、今は激怒している。そうだ、激怒だ。この煮えたぎるような気持ちを諸君に伝えられないのは不本意なことだ」
宰相は静かに語っている。それを聞く限り、「激怒している」などとは思えない。しかし、それが宰相にとって『不本意』ということなのだろう。
「私には常に戒めていることがある。『怒りで判断してはならない』とな。怒りは判断を鈍らせる。誤った思考に囚われてしまう。現在、魔侯の行動に対し、私は猛り狂っているところだ。とても正常な判断が下せられるとは思えんのだ。だが、怒りに対してはこういう考えもある。『敵と対するのに慈しみは不要。怒りの炎で焼き尽くすつもりでなければ、敵は倒せない』というものだ。私はこのふたつの考えのどちらに立って戦と向き合えばいいのかわからぬ。そんな状態の私がひとりで判断するわけにはいかぬだろう。この決断でひとの命を無駄に散らす恐れがあるのだからな」
宰相は右大臣に顔を向けた。
「だからこそ、この戦については諸君たちが合議して決定する流れでいきたいのだ。大勢の意見の上で決まったことなら、一方的なものにはなるまい。私が言いたいことはわかるかね?」
「は、はい。意見が偏らない、一方的なものにしない、ということですね……」
右大臣は自らの額から噴き出す汗を押さえながら言った。目が完全に泳いでいる。叱責を受けたわけではないが、それに近い強大な圧力を感じているのだ。
宰相はリオンに顔を向けた。
「私は大臣の慎重論にも、宮廷魔導士の敵の動きを予測して先手を打つ戦略にも賛成だ。そんな私が不甲斐なければ、君の部隊の戦略については君に委ねることとしよう。どうかね?」
「閣下、それでは……」さすがに左大臣が慌てた声をあげた。今の発言は、リオンに勇者の団の運用について、全権を委ねることと同じなのだ。つまり、右大臣たち首脳の意見に左右されずに軍を動かせることを意味する。
「宰相閣下に歯向かう意志はございませんが、さすがに今の言葉は看過できません!」
財務大臣が立ち上がって叫んだ。
「統制から外れた軍隊は、それ自体が危険なのです。彼らとは立場を異にする我らが手綱を握っていればこそ、理性的な戦が行えるのです。そんな道理がわからぬ閣下ではありますまい!」
「皆さん、落ち着いて下さい」リオンが両手で抑えるようにして言った。
「宰相閣下は本気で私に団の全権を委ねるつもりではありません。私を試しているんです。もし、この会議がいつまでも空転するようであれば、自らの判断で動くのではないかと。ただ、私が先ほどの質問に『こちらの判断で行動させていただきます』と答えれば、閣下は私を処刑するよう命じたのではありませんか?」
リオンの言葉に一同は再びざわめいた。当の宰相は涼しい表情で目を閉じている。再び瞑想の世界に入ったようだ。
……このじじい、恐ろしいことを考えてやがる。
ケインは背筋に強張ったものを感じながら、心の中でつぶやいた。
……王国を救うはずの勇者でさえ、自分たちの手に負えなければ殺すということか。この部屋はいったい何だ? 誰も本音で語ろうとしない魔窟か? 俺たちはいったい、何を信じて行動すりゃいい?
ケインはリオンの横顔を見つめた。
……こいつはこいつで、宰相の腹の内を読んで、次元の違う駆け引きをしてやがる。俺にはついて行けねぇぜ、こんな化け物じみた腹の探り合いなんて。
「……閣下の深謀遠慮には、我らまったく気づいておりませんでした。こちらの浅はかさに恥じ入るばかりです」
右大臣は頭を下げながら小さい声で言った。左大臣や財務大臣も頭を下げている。
「皆、誤解をしている」
宰相は手を挙げた。
「私は独断で決める意志がないことを知って欲しかっただけだ。皆が理性的な議論を重ね、最善の結論を出すことを期待している」
大臣たちは再び頭を下げた。
それからの会議は、まったく空気が異なっていた。右大臣の慎重論は取り下げられ、ザバダックの提案した作戦を元に細かな打ち合わせが行われるようになったのだ。さきほどまでの誰もが我を通すような議論は影を潜め、論理的な意見を戦わせる場となった。大臣たちが無私の立場で話し合いを行なえば、ここまで理性的な話が進むのだとケインは思った。大臣たちに取り憑いていた何かを落としたのは、宰相とリオンのやり取りである。改めてリオンは自分たちとは「別」だとケインは思い知らされた。
魔侯の目的が『名もなき陵墓』であるかは、パジェット教授に調査を依頼することとなった。勇者の団によってアングリアが解放され、周辺の安全が確保できれば、教授がアングリア近郊にある『名もなき陵墓』の状況を確認する。もし『名もなき陵墓』が破壊などされていたら、勇者の団はメネアに急行するのだ。
人事にも変更が加えられた。宮廷魔導士のザバダックが参謀として勇者の団に加わることになったのだ。
「何で俺がそんなことを」ザバダックは気乗りしない様子をあからさまにして言った。
「作戦の素案を出したのは君だ、ザバダック殿。あなたが勇者のかたわらで作戦全体を見てなければ、誰が見るというのかね?」
財務大臣が先日の仕返しとばかりに指摘した。
「勇者の団の参謀役は、すでにあの神官が務めているじゃないか」ザバダックはスライスを指さした。
「いえ、私のような若輩者には荷が重い話です。経験豊富で見識も広い魔導士様こそ、参謀に相応しいと存じます」
スライスが恭しく頭を下げると、ザバダックは呆れた表情でため息をついた。こうして話はまとまった。
会議が終わり、宰相と甥の秘書官はふたりで執務室に向かって歩いていた。宰相は厳めしい表情のまま、小声で話しかけた。
「お前はこの戦にどう関わるつもりだ? 下手に関わらぬよう申し渡していたはずだがな」
「その旨、充分承知しているつもりです。あの学者を招いたのは、最低限の役割を果たすためと考えてのことです」
「最低限とは恐れ入る。あれで、あの若造の部隊をどう運用するか、基本路線が固まったのだぞ」
「閣下は大臣どものぐずぐずに任せて、勇者をいつまでも城に留めおくつもりだったのですか?」
宰相はじろりと秘書官を睨みつけた。
「ずいぶん賢しいことを言う。私がそんなことを考えていると言ったか?」
「いいえ、ひと言も。ポラリス様」
宰相は足を止め、秘書官の顔に指を突きつけた。「貴様、その名をここで口にするな!」
秘書官は宰相の指をどけると、自分の顔を宰相に近づけた。
「ご心配ございません。我々の声が届く範囲には誰ひとり居りません。私の『個性』はご存じのはずです」
「……『広範囲索敵』だったな。いっそ、お前も勇者の団に入団すればよかったのではないか? 敵の位置がよくわかって、重宝されただろう」
「それが『陛下』の命であれば、喜んで従いましょう。ただ、私が命じられたのは、あなたの『甥』として、この城に潜入することです。この国の者に味方することではございません」
「だからこそ、学者を招いた件は出過ぎた真似だと指摘したのだ」
「『陛下』のご命令は、王国側、アルタイル様、どちらの陣営にも利することなく行動せよ、というものです。現時点では、アルタイル様が勝ちすぎの感がございましたので、釣り合いを取ろうと考えただけです」
「まったく、お前という男は……」宰相は不機嫌そうに顔をそむけた。
「閣下こそ、会議ではアルタイル様を討つべきだとおっしゃいました。あれは本音なのですか?」
「『陛下』は実の弟であるアルタイル様を殺すおつもりだ。あの文書を渡されたお前ならわかるだろう。私は『陛下』のお考えを代弁したにすぎん」
「私は『陛下』が本気でアルタイル様を殺そうとお考えなのかわかりません。本気であれば、閣下にも積極的に軍事に関わるようお命じになったはずです。『陛下』の目的は別にあるのでは?」
宰相は首を振った。
「私の凡庸な頭では、あの方の真意までは読み取れん。お前も変な忖度をして、『陛下』の妨げにならぬよう気をつけるのだな」
「気をつけるとしましょう」秘書官は神妙な表情でうなずいた。
「気をつけるのは、それだけではない」宰相は秘書官に背を向けて言った。
「この国の暮らしが長くなれば、この国の人間に慣れ過ぎてしまう。奴らの愚かさを愚かだと気づけなくなる。我々は奴らとは『別』なのだという意識を忘れてはならぬ」
「愚か……ですか。少なくとも、あのリオンという若者は違うようでしたが」
秘書官の言葉に、宰相はフンと鼻を鳴らした。
「先日こちらが送った刺客を全員返り討ちにしたとき、奴は何食わぬ顔で審議室に現れおった。あれは誰が刺客を送ったか探ろうとしていたのだろう。ことを荒立てずに行動するなど、たしかに奴は愚かではない。まぁ、あの程度で命を落とすのであれば、ただの偽物というだけの話だったがな」
「この間の件といい、今回の腹の探りようといい、油断できない相手なのではありませんか?」
「油断は禁物だが、まぁ、どうにでもなる。どこにでも数人は優れた者はいるものだ。だが、あの大臣どもは愚か者の部類だな。先日の会議で、ひとはハイクラスに似ているから潜入が可能だと言ったとき、逆の可能性に思い当たったのはひとりもいなかった。たとえば、ハイクラスの者が王国の宰相や秘書官として潜入する可能性などをな」




