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Ragnarok of braves ~こちらメリヴェール王立探偵事務所 another story~  作者: 恵良陸引


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魔侯の目的【scene27】

27


 「魔侯の軍事目的だと?」右大臣は不機嫌そうにつぶやいた。「そんなもの、我が国への侵略以外に目的などなかろう」

 教授は会議のテーブル近くまで歩み寄ると、宰相に向けて頭を下げた。

 「宰相閣下、貴重なお時間を我々に賜り、感謝申し上げます。これから申し上げることが、この国難に対処できる手掛かりになれば幸いにございます」

 宰相は手を軽く振った。「社交辞令などよい。早く説明するのだ」

 「かしこまりました。では、ウスキ君。始めてくれたまえ」

 ヴィクトリアは目を閉じて小さく呪文を唱えると、大きな白いものが空中に出現した。長方形のもので、そこには地図が描かれているようだった。

 「これは空中映像エア・ビジョンの魔法! 最近開発された新魔法じゃないか」宮廷魔導士のザバダックが驚きの声をあげた。

 「開発者は彼女じゃ」教授は誇らしげに自分の口ひげを撫でた。

 「さて、今、展開されているのは、『魔の森』ミュルクヴィズの森とその周辺の地図じゃ。地図の上部3分の1を占める緑のものがミュルクヴィズの森じゃ。残りがギデオンフェル王国領になる。お皿のように丸い円は都市を指している。赤い矢印が魔侯アルタイル軍を示している。まず、アルタイル軍じゃが……」

 全員が見つめている前で、赤い矢印がすうっと動いて森の中へ移動した。矢印は3つに分かれ、それぞれが下を指して止まった。

 「アルタイル軍は大きく3つに分かれ、森から王国内に侵入した。奴らは森に近いアングリア、ポラトリス、セルネドの3つの都市を襲い、占領した。セルネドを陥落させた一軍は、そのままパガセを攻めているところじゃ」

 赤い矢印は地図の上を動き出し、3つの円を通過した。矢印と接触した円の上には大きなX印がつけられた。ひとつの矢印がさらに進み、ひとつの円の前で止まった。その円がパガセを示しているのは間違いない。

 「現在、アングリアには目立った動きがなく、ポラトリスを陥落させたものはチリンスの丘で王国軍と対峙した状態じゃ。噂では、アングリアからチリンスへ増援が向かっているという話がある。援軍の力を得て、魔侯の軍がチリンスの丘を突破すると、コリントかネメア、あるいはアッチカの都市が攻められることになる」

 動きのなかった矢印のひとつが動き出したが途中で停止した。赤い矢印に向かい合うように青い矢印が表示され、青い矢印の背後には3つの円が現れた。これら3つの円が教授の説明するコリント、メネア、アッチカを表していた。ヴィクトリアの魔法は、地図に『動き』を加えることで、視覚的に状況がわかりやすくするものだった。一同は彼女の魔法に感心しながら教授の説明に耳を傾けた。

 「……さて、これが魔侯軍の動きと現在の位置に関する説明じゃ。軍の動きを視覚化しているので、奴らがどう動いたかわかってもらえたと思う」

 「たしかに、よくわかりました」スライスがうなずいた。

 「しかし、勘の良い者はもう気づいたかもしれんが、魔侯軍のこの動きはおかしい。そうは思わなかったかね?」

 教授は部屋の中を見渡した。教授の問いかけに席に座っている者は互いの顔を見やった。

 「魔侯軍の動きがおかしい?」左大臣が首をかしげた。見当もつかないようだ。しかし、ケインはそれを咎める考えにならなかった。彼もわからなかったのである。

 「教授。我々には見当つかないようです。おかしいとは、いったい何のことでしょうか?」

 ケインは教授に話しかけた。

 「ふむ。さきほど右大臣殿が魔侯の目的はこの国の侵略とおっしゃった。だが、本当にそれが目的じゃと、この行軍は理に適っておらん。かなり非効率な戦略をとっているのじゃ」

 「理に適っていない?」

 「もし、ワシが魔侯だとして、この国の侵略を目論むとしよう。ならば、軍を森の南側から展開せず、北から進軍を始める。目標とするのはアルデミオンじゃ」

 地図がするすると左へずれると、森から新たな矢印が現れた。それはまっすぐひとつの円に進んでいった。

 「アルデミオンを落とせば、そのまま進軍しブライス郡を抜ける。そしてイオルコスを落とせば、王都メリヴェールは目と鼻の先じゃ。ここ最近は魔族の侵攻がなく、誰もが油断しておった。その油断をついて一気に王都を目指せば、王都陥落までひと月もかからんかったじゃろうな」

 「貴様、なんてことを!」右大臣が顔を真っ赤にして立ち上がった。しかし、宰相が右大臣を静かに制したので、右大臣は無言で腰を下ろした。

 「王都が落とされれば、王国は大混乱じゃ。そうなれば、この国は奴らが切り取るまま奪われるじゃろう。他国の救援など間に合うこともなかろうな。どうかね? この作戦に比べれば、実際の奴らの動きはずいぶん悠長なものとは思わんかね?」

 「教授のお考えは、魔侯の目的は侵略ではない、ということですか?」

 これまで沈黙してきたリオンが口を開いた。教授はうなずいた。

 「ワシはそう睨んでおる。若き騎士殿よ」

 「リオンと申します」リオンが名乗ると、教授の片目が大きく開いた。「ほう、君があの……」

 「教授にお尋ねする。奴らの目的が侵略でないなら、本当の目的は何だと言うのかね?」

 ザバダックが尋ねると、教授は地図を指さした。

 「そうじゃな。改めて問題を出してみるかの。アングリア、ポラトリス、セルネド。これら3つの都市にはある共通点がある。おわかりかな?」

 「共通点……だと?」ザバダックは地図に目をこらした。やがて、口が大きく開く。

 「まさか、奴らの目的はこれらの都市を抜けた先にあるのか」

 「ほう、宮廷魔導士殿は気づいたようじゃな」教授はいたずらっぽく笑った。

 「アングリア、ポラトリス、セルネド。これら3つの都市の共通点とは、いずれも『あるもの』がそばにある、ということじゃ。現在の我々が『名もなき陵墓』と呼ぶ、謎の遺跡がそばにある、という共通点がな」

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