再審査の行方【scene18】
18
昨日で多くの者の合否が決まったので、闘技場は閑散としていた。ここに集まっているのは、まだ合否の決まっていない者や、興味本位で様子をのぞきに来た物好きぐらいのものだった。ルッチとガイナスはその「物好き」の一群に混じっていた。
他人事ながら審査がいつ始まるのかとルッチは気をもんで貴賓席を見つめていた。そのルッチの背中をガイナスがつついた。「ちょっと、あれを見てよ」
ガイナスが指さす方角を見ると、通路に金髪の剣士が現れたところだった。ルッチでさえ目を奪われるほどの美男子だ。昨日、ちらりと見かけていたが、あれが勇者リオンであることをルッチは知らなかった。後でチェンに教えられて慌てたものだ。その勇者が再び闘技場に足を運んだのである。
「勇者だ」ルッチはつぶやいた。
「いいわねぇ。惚れ惚れするような男前じゃない」ガイナスはある意味、予想通りの反応を示した。
リオンはケインとエリスを引き連れていた。3人はルッチたちが集まっているところへ近づいた。
「君たちは再審査の予定者かい?」リオンが顔ぶれを確かめるように見回した。
「いいえ、違うわよ」ガイナスが代表するように答えた。
「アタシたちはただの野次馬。昨日と違って、再審査の者たちは控室に集められて、ここにはいないわ。スライスってひとの指示だったわよ」
「そうか」リオンは小さくうなずいた。
「スライスは真面目だからなぁ。昨日のごちゃごちゃした雰囲気での審査は良くないと判断したんだろうなぁ」ケインが呆れたように両手を上にあげた。「別に不正なんか起きるはずもないのに」
「審査の影響を考えたのかもな」リオンは貴賓席を見上げた。そこには、トルバたちが席に座るところだった。間もなく再審査が始まるらしい。
「野次馬と言ったが、君たちは気になる者でもいるのかい? 小隊の仲間がまだ合格できていないとか」
「小隊で来ている者は、小隊ごとの審査で合否が決まっています。俺は、最近知り合ったばかりの奴がどうなるのか見に来たのです」
「右に同じく」ルッチの説明に、ガイナスがうなずいて言った。
「わざわざ見たくなるような者がいるのかい?」
ケインの質問にルッチが答えた。
「身体は大きくないし、腕力があるわけでもない。でも、不思議と『強い』と思わせる奴なんですよ」
「ほう」
ケインとリオンは一瞬別々の反応を示した。ケインは興味を持ったような顔つきだったが、リオンは一瞬だが顔色を変えたのだ。その変化にルッチは違和感を抱いた。
「そいつが出てくるのが楽しみだな」
リオンの背後にいたせいで、ケインはリオンの表情が曇ったことに気づかなかった。のんきな調子で闘技場に視線を向ける。
闘技場には再審査を受ける者が現れた。体つきの逞しい男たちで、レトではなかった。
「まだのようだな」
ケインは腕を組みながら様子を眺めた。もしかすると、ケインもレトが出てくるのを楽しみにしているのかもしれない。そうであれば、レトは期待されているということで、入団が認められる可能性が高い。ルッチは他人事ながら、妙に気分が高まった。ケインと同じように闘技場を見つめる。
「右側の男は見覚えがあるわ」ガイナスがルッチに囁いた。
「昨日、小柄な若者を一撃で仕留めたのよ。あれは若者が弱すぎたかもね。実力が測れなかったのも無理はないわ」
「それじゃあ……」ルッチは急に不安になった。
「実力があり過ぎて再審査になった者もいるってことか?」
「審査は体格差など、条件を揃えて行なっていない。実力差があり過ぎる相手と当たると、かえって実力がわからなくなるわよね。でも、レトちゃんの実力は昨日の一撃でもよくわかるんだけどね」
「レトだって? あんたたちが楽しみにしているのは、そいつなのか」
ケインがガイナスに顔を向けた。
「あら、あなたもレトちゃんに注目なの? アタシたち、気が合うかもね」
ガイナスが腰をくねらすと、ケインはハハハと快活な笑い声をあげた。
「気が合う仲間が増えるのはありがたいな。ところで、あんたはレトって奴の一撃で実力がわかると言ったが、あの一撃に何かあるのか?」
ルッチもケインの疑問はもっともだと思った。相手をきりきり舞いさせた奇襲は鮮やかだったが、マジのあごを捉えた一撃に何かあるとまでは思わなかったのだ。
「あら、ルッチちゃんも同じ疑問を持ったのかしら? でも、レトちゃんの一撃を再現しようとしたらすぐわかるわよ。あのとき、レトちゃんはどう攻撃していた?」
「下からあごを狙う『突き上げ』だ。しかも、ありきたりの」
ルッチの答えにガイナスはうなずいた。
「そうね。ありきたりの突き上げ。それは間違いないわ。じゃあ、アタシがレトちゃんと対戦した大男だと想定して、レトちゃんの攻撃を再現してみて」
ガイナスは両腕をやや広げて、ルッチに向かい合った。ルッチは仮想の剣を構えて、下から突き上げるしぐさをやろうとした。
「あれ?」
ルッチの手が止まった。
「気がついた? そう、普通は相手の両腕が邪魔で、あごだけを打つなんてなかなかできないでしょ? 今のあなたの動きなら、剣があごに届く前に相手の腕に当たってしまう。レトちゃんは相手に踏み込みながら剣を正確に突き上げたのよ。相手の腕をかいくぐり、正確にあごだけを狙ってね」
「あいつ器用だな」
「あの子、特別な技は持っていないようだけど、基礎はかなりできているわ。そのうえで、体格の小さい者なりに戦う技術を磨いていたのね。変則的な動きに見えて、そのひとつひとつは基礎に忠実なのよ」
「あいつの強さは頭の機転だけじゃないのか」
「むしろ、それが活きる基礎力の高さ、と言えるかもね。体格差で劣る者が相手に勝つためには、不利な条件を覆すための策が必要になる。レトちゃんの場合は、頭脳戦で相手をかく乱し、一撃で仕留められるように急所を正確に狙うことね。一撃をはずすと、相手に警戒されて二撃目は狙いにくい。相手から慎重に構えられたら、奇襲は使えない。そうなると勝ち目がなくなるわね」
ルッチは妙に感心してしまった。ガイナスは他人をよく見ている。そのうえ、分析する力も高そうだ。
「そんな話をしてる間に終わったみたいね」
ルッチは慌てて闘技場を見ると、ガイナスが覚えていると言っていた男が地面に両手をつけていた。どうやら、彼は敗北したようだ。
「この審査には、こういうこともあるようね」
ルッチはガイナスの言う意味がわかりかねて振り返った。
「つまり、あの彼も昨日対戦した若者と同じように弱かった。昨日の対戦は弱い者同士のものだった、ということね。それって、対戦相手の運で合否が決まりかねないってことじゃない?」
「そんなことはねぇよ」
ケインが即座に否定した。
「この審査は勝者が選ばれるってわけじゃない。大した強さでないと判断されれば、勝っていても不合格の判定を下すし、見込みがあるなら敗北した者も仲間に入れる。そういう方針なんだ。それに、俺の仲間は腕利きぞろいだぜ。敵の力量を見誤ると死に直結するからな。この審査でも見誤るなんてことはしていないさ」
ケインは自信たっぷりだった。審査を担当している仲間を信じ切っているようだ。
「それなら、いいんだけど」ガイナスはそれ以上話そうとしなかった。
それからも、審査のための対戦は次々と行われた。見物に来ている者たちからは、ときおり歓声があがり、対戦者たちに声援を送っていた。それはひとつの見世物となっていた。
「けっこう盛り上がっているな」
ルッチは辺りを見回した。
「最初はともかく、後の試合は見ごたえあるのが多かったからな」
ケインがうなずいた。ふたりは初めて顔を合わせてそれほど時間が経っていないが、だいぶ打ち解けていた。ウマが合うというより、ケインの気さくな人柄のせいだろう。ケインは誰ともざっくばらんに話していた。一方、リオンは硬い表情のまま、誰とも口をきいていなかった。その雰囲気を読んでか、誰もリオンに話しかけていない。
「レトの試合は終わっていたのか?」
ケインがルッチに尋ねた。ルッチは首を横に振った。
「いいや。俺たちは最初からここにいたんだ。まだ、出番じゃないみたいだ」
「そうか……。ってことは、この対戦か」
ケインが入場口を指さした。すると、ちょうど計ったようにレトが木剣を携えて入場した。
「レト、ついに出番だ」ルッチが嬉しそうな声をあげた。
反対側の入場口からも対戦者が現れた。昨日、レトが対戦したマジよりも大柄の男だった。
「またデカい奴が相手かよ」ルッチが顔をしかめた。
「ダイダロンだ」どこからか驚いたような声がした。ルッチは声がしたほうを向いた。
「知っているのか、あのデカい奴?」
声をあげた者はうなずいた。背の高い、若い男だった。
「ああ。あいつは俺たちの地元じゃ有名さ。決まった小隊に所属せず、臨時に参加する雇われ冒険者さ。壁役も攻撃役も器用にこなせる汎用型だよ。俺たちも重宝したよ」
「基本はひとりで行動しているのか?」
「まぁな。あいつは病気の妹がいるとかで、地元をあまり離れたくないそうだ。それで地元近くの依頼に絞って冒険者をやっているそうだ。小隊に正式に加わると、依頼によっては地元を離れなきゃいけなくなるからな」
「それだと変よね」これまで無言だったガイナスが口を開いた。
「この義勇兵に参加したら、妹さんのそばにいられなくなるわよ。何せ、この団は遠征が前提で編成されるんだから」
若い男はうなずいた。「そうなんだ。だから、俺も驚いているんだ」
ダイダロンは木製のハンマーを手に、レトの前に立ちはだかった。大きさといい、雰囲気といい、立ち上がった熊のようだ。
「レトちゃんの昨日の戦いぶりを見るか、聞くかしたようね」ガイナスがつぶやいた。
「あの構えは、下から駆けこまれるのを警戒しているものよ」
「じゃあ、昨日のような奇襲は使えないのか」
ルッチはレトを見つめた。レトの表情からは何もうかがえられない。奇襲が封じられているが、焦っていないようだ。静かな表情だった。
「まぁ、これなら、間違いなく真価を量ることができるわね。あれだけ油断なく構えている相手と戦うんですから」
ルッチは背後でひとの動く気配を感じて振り返った。リオンが少し進み出て、闘技場の中を見つめていた。しかし、相変わらずの無表情だ。
「始め!」
審判の合図とともに、レトはダイダロンの懐近くに飛び込んだ。ダイダロンはハンマーを正面に向けた。レトはすばやく後ろへ下がる。
「やっぱり警戒されているわね。レトちゃん、どう動くかしら?」ガイナスは腕を組みながらつぶやいた。
レトは数歩下がると、ダイダロンの左に回り込もうとした。そこへダイダロンのハンマーが唸りをあげて飛んできた。レトは床に伏せてそれを避けた。さらに、すばやく身を起こすと、振り下ろされたハンマーもかわした。
「うまい!」ルッチは叫んだ。
「でも、避けるだけしかできなさそうね」ガイナスの表情が曇った。
体勢を整えたレトは、今度は右側に走り出す。レトの動きにダイダロンは冷静に合わせて構えを変えた。レトから繰り出された一撃をハンマーで弾き返す。カアンという武器のぶつかり合う音が場内に響き渡った。
「あのチビ、うまく距離を取っているな」ケインが楽しそうにつぶやく。
「もう少し間合いを詰めると、ダイダロンの攻撃が先に当たる。ギリギリのところで仕掛けて、相手のミスを誘うつもりだな」
「でも、相手は冷静だぜ。ミスなんか期待できるのか?」ルッチは心配顔でつぶやいた。
レトはダイダロンの攻撃を後ろへ下がりながら避けると、前へ詰めて剣を突く攻撃を繰り返していた。レトの攻撃はことごとくダイダロンに防がれている。
「ダメだ。このままじゃ……」レトよりもルッチに焦りの表情が浮かんだ。当のレトは相変わらず素の表情のまま、同じ攻撃を繰り返している。
「あなたはダメって言うけど」ガイナスがルッチの肩に手を置いた。
「少し前から様相が変わってきてるわよ」
「どこが?」
「あのデカいひとの表情よ。苦しそうな表情になっているわ」
見ると、ダイダロンの表情がゆがんでいる。口の端が大きく曲がり、額には大粒の汗が浮かんでいる。実際、ダイダロンは苦しんでいた。
……なんだ、こいつ? 俺の攻撃は当たらない。こいつの攻撃はさっきから危ないところばかり飛んできやがる。これは俺の間合いのはずだ。なのに、俺自身の攻撃がまるでできねぇ!
ダイダロンは胸元に突かれた剣の先をハンマーの柄で弾いた。
……まただ! 俺が攻撃を仕掛けようとした瞬間に奴の攻撃が飛んでくるんだ。それで、俺は防戦一方になっている。
ダイダロンは無理やりハンマーを振り上げようとした。そこへすかさずレトの剣が打ち込まれる。ダイダロンはよろめきながら、それをかわした。
……なぜだ? 俺の身体が思うように動かない。一体、どうなってる?
「……なんてこと、今、考えているかもしれないわね」
ガイナスが不敵な笑みを浮かべてつぶやいた。
「どういうことだ?」ルッチが尋ねた。
「いわゆる『崩し』よ。あの子、さっきからデカいひとの動き出す寸前に攻撃をしているの。まぁ、すべてが反撃みたいなものね。相手は防御態勢を取るしかないけど、最初のような前かがみの、すぐ反撃できる構えになっていない。棒立ちの状態ね。当然、攻撃は出遅れるし、威力もない。どんどん押される形になっているわけ」
「あいつ、相手の構えを崩しながら戦っているのか」
「あの子、かなり目がいいと思うの。相手の動きをよく見て、クセや戦う体勢を見抜いているんだわ。観察眼に、分析力。ともにレトちゃんのほうが上回っている。あの洞察力は剣士をやらせるにはもったいないかもね」
「洞察力……」
ルッチは信じられない表情でレトを見つめた。力と技の世界で、レトはまったく違う概念で戦いを挑んでいるのだ。
ダイダロンは苦痛の表情を浮かべた。レトの攻撃が腿とわき腹に連続で入ったのだ。しかし、審判はまだ手を挙げない。
レトはくるんと身体を回転させると、今度は反対側に剣を打ち込む。ダイダロンはハンマーを盾にして防いだ。しかし、その剣はダイダロンの手に当たった。ダイダロンは思わずハンマーを落とした。
「小手打ちだ。あいつ狙ってやがった!」
ルッチが叫んだ。
「相手の胴まで距離があるから、どうしても胴に一本決められない。そこで狙いを変えたのね」ガイナスは目を細めた。
「どう攻撃すればハンマーを盾に構えるか、それはもう完全に見切っていたということね」
レトはぐっと間合いを詰めると、ダイダロンの喉元に剣の切っ先を突きつけた。審判がさっと手を挙げる。
「勝負あり! そこまで!」
ダイダロンは膝を落とすと、床に両手をつけた。「ちくしょおおお!」床に向かって大声をぶつける。
「俺は、俺は、戦場に出なけりゃいけないのにいいい!」
「なんだ?」ルッチはダイダロンを見つめた。
ダイダロンはキッとレトを睨みつけた。
「お前は、お前は戦場に出なければならない理由はあるのか? あの魔族どもを皆殺しにしてやりたい気持ちは持っているのか?」
レトは首を横に振った。「戦う理由はありますが、彼らを皆殺しにしたい気持ちはありません」
「そんな奴が!」ダイダロンは床を殴りつけた。「俺の邪魔をするな!」
「一体、何に興奮しているんだ。なぜ、ああまで戦場に執着する?」ルッチのつぶやきが聞こえたわけではないだろう。しかし、ダイダロンはそれに答えるように話し出した。
「先月、ポラトリスの街が陥落した。あそこの病院には俺の妹が入院していたんだ! 地元じゃ治療できないから金を貯めて、ようやくいい病院に入れてやれた矢先にだ! ポラトリスの住民は、ほとんどが逃げることができずに殺されたそうだ。妹は足が不自由だ。這うぐらいしかできない妹が助かるわけがない!」
ダイダロンの両目から涙があふれた。
「たったひとりの家族なのに。俺はあいつらを許せない! 必ず、一匹残らず駆逐するんだ! そのために志願したんだ、俺は!」
ダイダロンの目は血走っていた。
「あいつらと本気で戦う気のないのが志願してるんじゃねぇ! これは、あいつらを皆殺しにするためのいくさだ。ほかの理由なんざ必要ねぇ! お前は何で志願したって言うんだ!」
「まずいな」
ルッチは顔をしかめた。ここへの入団をきっかけに、戦後は駐屯兵にしてもらうつもりなどとレトが正直に答えたら、この場は非難で炎上すること間違いない。そして、レトは純朴な男だ。本当に答えかねない。それによって非難渦巻く状況になれば、誰もレトの入団を認めたりはしないだろう。
「戦う理由はひとそれぞれだと思います。僕だって、この国の平和を願う者です。その平和を乱すものを好きにさせる気なんてさらさらありません。ただ、僕は殺すために剣を振るうのではなく、守るために振るいたいのです」
レトは落ち着いた表情でダイダロンに答えた。ルッチはぐっと握りこぶしを作った。
「よし! 無難!」
「何言ってるの、あなた」ガイナスが冷ややかな表情でつっこんだ。
「守るために振るう。その考えで、この戦いに通用すると思うのか?」
レトは声がしたほうを向いた。いつの間にかリオンが闘技場内に入って、レトたちに近づいているところだった。
「おい、リオン」ケインが声をあげると、リオンは振り返らずにさっと右手を挙げた。ケインは二の句が継げなくなって口をつぐんだ。
レトは少し放心したようにリオンを見つめている。勇者が自分に話しかけてきたことに信じられない様子だ。
「ダイダロン、君の気持ちはよくわかった。俺も同じ気持ちだ。あいつらは許せない。全員、地獄に送ってやらないといけない。君となら一緒にやれそうだ」
リオンはそう言うと、貴賓席に視線を向けた。そこに座っていたラリーたちは、互いを見やると肩をすくめて両手を挙げた。今のやり取りで、ダイダロンの入団が決まったのは確実だった。
「さて、君だ」
リオンはレトに視線を移した。
「君は冷静で、優秀な剣士のようだ。でも、さっき言っていた気持ちで戦えるのかな? 君は敵の悪辣さを知らなすぎるのではないか」
「戦えます」
レトはきっぱりと言った。
「それに感情だけでいくさに勝てるとは思いません。勝つためのことを考えて行動できなければ、僕たちより腕力や体力が上回る連中に勝つのは難しいでしょう。戦場には柔軟に対応できるよう幅のある人員で臨むべきです」
「君は俺の軍に『厚み』をもたらす人材だと言いたいのか?」
「そうなるよう努めます」レトはうなずきながら答えた。
「あの子の考えには一理あるわね」ガイナスはつぶやいた。
「でも、皆があの子ほど戦略的に考えられるものではないわ。あの説明で皆が納得するとは思えないわね」
「君の言葉を、俺は簡単に受け入れられない。君がどこまでの者か、俺はまだわからないからだ」
リオンの言葉は冷たく響いた。
「だが、俺も剣士だ。剣を交えれば、相手がどんな者か、たいていのことはわかる」
リオンは腰の剣をベルトごと外すと、闘技場の選手入場口で控えている者に投げてよこした。
「替わりに木剣を渡してくれ」リオンが指示を出した。「そして、彼には盾を装備させてくれ」
「リオン、こいつとやるのか?」ケインが驚いて声をあげた。周囲も一斉にどよめく。
「これまで審査した者に、戦場への意気込みなど聞いていない。その点で、彼への審査には雑音が入り過ぎている。審査の結果がどっちに転んでも、納得のいくものにならないだろう。だから、俺と直接剣を交えさせて、改めて彼の真価を問う。俺から一本取れれば文句なしだが、俺を焦らせるほどの者であれば、実力を認めてやってもいいのではないか」
リオンは再び貴賓席に目を向けた。トルバは自分の手を頭の後ろで組んだ。
「リオンがそう考えるなら構わない」周りに座っている者も一様にうなずいた。
「決まりだ」
リオンは係りの者から木剣を受け取った。レトは鋼鉄の丸い盾を渡された。軽くて扱いやすそうだが、それだけ面積が狭いものだった。レトは初めて盾を手にしたようで、戸惑った表情を見せた。しかし、気を取り直したように盾を構えた。
この、あまりの急な展開に、外野のルッチが目を丸くしていた。
「何、この展開?」




