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Ragnarok of braves ~こちらメリヴェール王立探偵事務所 another story~  作者: 恵良陸引


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再審査の朝【scene17】

17


――兵士になるだと?

――今、国は大変なときなんだ。今はひとりでも戦力がほしいんだよ、父さん。

――王国はそのために兵士を置いている。わざわざレンガ職人が兵士になる必要はない。いいか、戦争というものはいつか終わるものだ。戦争が終われば、復興が始まる。戦争では多くの建物が破壊されることだろう。建物の復旧にはレンガが必要になる。レンガ職人はその日に備えて、レンガを焼いておればよい。レンガ職人が戦場に行ったら、誰が復興のためのレンガを焼くというのだ?

――でも、国が滅ぼされたら復興どころじゃなくなる。建物に住む人間がみんな死んでしまったら、そもそもレンガは必要とされない。今はみんなで魔族を追い払わなければならないんだ。復興は戦いに勝って、生き残ってから考えればいい。それに戦場に出るのは父さんたちじゃない。僕だけです。僕が勇者の盾になって、この戦争を早く終わらせるお手伝いをします。いいえ、そうしたいんです。

――お前、レンガ職人になりたくないから、戦争を口実にするつもりか。


 「レト、どうした?」

 ルッチに声をかけられ、レトは我に返った。

 「ああ、すみません。ちょっと考え事してしまって……」

 レトは慌てたようにスープを口に運んだ。

 あの入団審査から一夜明けた朝の食堂だった。レトはルッチとともに朝食をとっていたのだ。ここにガイナスの姿はない。彼は朝からどこかへ出かけてしまっていた。

 「まぁ、ぼうっとしてしまうのも無理はない。まさか、お前だけ再審査になるなんて思わなかったからな」

 ルッチは勝手に解釈してうなずいている。レトは苦笑いした。故郷の父とのやり取りを思い出していたとは予想もできまい。それに、その話はルッチにしたくはなかった。

 「きっと、あれだ。あっさり勝ちすぎて、実力がまったく判断つかなかったんだ」

 レトはうなずいた。「一撃で勝ったのは、ひょっとするとまずかったのかもしれません」

 「今度はいろんな技を見せて審査している者の印象に残るように戦うんだ」

 「それは難しいです」

 「どうして?」

 「僕に技なんてありません」

 ルッチはスープを口に運んでいるところだったが、その手が止まった。「技がない?」

 「はい」レトは素直にうなずいた。

 「そういや、お前は誰から剣を習っていたんだ? 昨日の構えを見る限り、どこかの騎士流だと思ったんだが」

 「この間に話した村の駐屯兵士からです。僕の命を救ってくれた、あの兵士です。僕は彼からは基礎だけを学び、後はひたすら剣を振って基礎を磨き続けました」

 「基礎だけ?」

 「彼から学ぶ時間が少なかったのです。基礎を学んでいる途中で、彼は任期を終えて村を去ったんです」

 「駐屯兵から学んだということは王国剣士流か。しかし、基礎を磨いたっていうわりにはずいぶん型が違うように見えたぞ」

 「当時は、もっと身体が小さかったので、正規の構えではどうしようもなかったんです。普通の中段の構えでは、僕の剣先は相手の胴より下に位置する状態だったので。逆に相手は僕の頭部に剣がすぐ届くような位置にありましたからね。あのときでしたら、僕が相手から一本取るなんてありえないことでした」

 「体格差と間合いの差か」

 「それは今でも変わりませんね。こういう『戦う』ことに関して言えば、身体が大きいのはそれだけで有利です。言い換えれば僕のような者は不利だということです。格闘技で体重別の階級制があるのは知っていますが、剣での勝負に階級制はありません。身体が小さい者は、この条件で勝つ方法を編み出さなければなりません。それも自分より身体が大きく、腕力も上の相手に対してのです。僕はただ剣を振るだけでなく、どう『戦えるか』を考えて、自分なりの動きを作り上げたのです」

 「それが昨日見た独特の構えと動きか」

 「身体が大きくなるまで待ってられませんからね」レトはスープを口に入れた。

 「しかし、技のひとつも覚えていないのに、よく志願なんてしたな。家族からは止められたんじゃないのか」

 レトは苦い表情になった。しまった。結局、このことに触れられてしまった。

 「もちろん、反対されました。でも、最後は説得できたというより、むしろ追い出される形で村を出たんです」

 「追い出された?」

 「お前のような奴はさっさと出て行け、です」

 「なるほど」

 レトはほぼ空になった皿にスプーンを回し続けていた。

 「きっと、僕の腹の中を見透かしたんだと思います。最後に言われたのは、『お前、レンガ職人になりたくないから、戦争を口実にするつもりか』でしたから」

 「駐屯兵になりたいことは言わなかったのか」

 レトは首を横に振った。「まさか。父は絶対に許しませんよ」

 「でも、出て行けと言ったんだろ?」

 「僕はこれまで村を出たことがありませんでした。父は、ああ言えば怖気づいて諦めるか、仮に一度村を出たとしても、すぐ逃げ帰ってくると思ったんでしょう」

 「ところがどっこい、お前はこれ幸いと王都までやって来たわけだ」

 レトは苦笑した。「そういうことです」

 ルッチは持っているスプーンの先をレトに向けた。

 「なら、いい機会だ。義勇兵になって活躍して、見事、駐屯兵になるんだ。そして、頑固親父にぎゃふんって言わせるんだ」

 「父は絶対言いませんよ。僕は生まれてから父が慌てたり、動揺したりするところを見たことがありませんから」

 「……そりゃ、ご立派な父君で」

 レトは皿の中を見つめていた。

 「昨日、ガイナスさんに『甘い夢を持っている者はさっさと落とされたほうがいい』と言われたときは、正直どきりとしました。他人から見れば、僕の夢はずいぶんと甘いものでしょうから」

 ルッチは苦い表情になった。それは自分自身にも思い当たる話だったからだ。

 「正直なところ、僕はガイナスさんが恐いです。自分の見られたくない内面も見透かしてしまうんじゃないかって思えますから」

 「……そう思うのはお前だけじゃないよ。俺だって、あのオカマが苦手だ。昨夜だって、俺は剣を抱いて寝てたんだから」

 「……僕が恐いと思う部分と、ルッチさんが恐いと思う部分は違う気がしますが……」

 「違わない、一緒だよ」

 ルッチは残りのスープを口に流し込んだ。

 「何が一緒なの?」

 ルッチはぶううっとスープを吹き出した。吹き出したスープは、正面に座っていたレトの顔面に直撃した。ルッチが恐る恐る振り返ると、ガイナスのにたっとした笑顔がそこにあった。

 「どっから湧いてきた? ……っていうか、いつからそこにいた?」

 「いやあね。たった今よ。それより、何? あなたたち、アタシの陰口でも言っていたのかしら?」

 レトは顔を拭いながら首を振った。

 「いいえ。僕はガイナスさんが何でも見透かしそうなひとで恐いって言ったんです」

 「あらあら、アタシ、あなたたちを怖がらせてしまっていたの? それは悪かったわね。でも、アタシの趣味は人間観察なの。悪く思わないで」

 「……昨日は剣の流派研究が趣味だって言ってなかったか?」ルッチは不審顔で尋ねた。

 「もちろん、それもアタシの趣味よ。でも趣味がひとつだなんて言ってないわ。アタシはとっても多趣味なの」

 ルッチは首をすくめた。もう、どうとでも言ってくれと言わんばかりだった。

 「レトちゃんは午後から再審査よね。今度はうまくいくよう祈っているわ。だって、アタシ、あなたと一緒に戦いたいもの」

 レトは頭を下げた。「僕もそうなるよう頑張ります」

 「楽しみにしてるわ」ガイナスは目を細めながら言った。

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