第2話 チートを捨てた少年、最初の“王道”
森の奥。
湿った空気を押し分けるように、黒い影が這い出してくる。
低い唸り声に枯葉を踏み潰す音。
現れたのは、小さな牙を剥き出しにした獣型モンスターが二体。
その目は飢え、獲物を見定める獣のそれだった。
少女は涙で視界を滲ませながら、必死に逃げている。
「いやっ……来ないで……!」
足がもつれ、今にも倒れそうになる。
――その瞬間。
ガッ、と地面を踏みしめる音。
王土が前に出た。
剣を抜く。
鋼が空気を裂く音が、やけに澄んで響く。
「初陣か…腕が鳴るぜ!」
軽く言うが、その視線は鋭い。
「油断は禁物!いつだって、全力それが主人公だ!!」
胸の奥が高鳴る。
まるで、自分がずっと夢見てきた“物語の中”に立っているかのように。
――来る。
モンスターの1体が地面を蹴った。
土が弾け、一直線に王土の喉元へ――
「っ!」
王土は半歩引く。
紙一重で牙をかわし、そのまま剣を振り抜く。
ギィンッ!
金属と骨がぶつかる鈍い衝撃。
モンスターの体が弾かれ、横へ吹き飛ぶ。
「まずは、一匹!」
だが――
残った1体が低く唸り、怒りに任せて飛びかかる。
その動きはさっきより速い。
「よし、残るはお前だけだ!」
王土が飛び退き相手の攻撃を躱す。
靴底が土を削り、体勢を崩さずに着地。
間髪入れず、地面を蹴る。
――踏み込み。
「俺は……!」
剣を構える。
その瞬間、刃がわずかに赤く灯る。
心臓の鼓動と共鳴するように――
「勝利を信じるんだ!!」
言葉に呼応するように、炎が生まれる。
最初は小さく。
だが一瞬で膨れ上がり、刃に巻き付く。
螺旋が渦となり、まるで龍のようにうねりを上げる。
『烈魂龍斬!!』
振り下ろされた剣から、炎の奔流が解き放たれる。
空気が焼け、森の静寂を叩き割る。
そのままモンスターに直撃。
炎の渦に呑まれ、体が宙へと巻き上げられる。
「ギャアアアアッ!!」
断末魔を響かせながら、
森の奥へと吹き飛ばされやがて見えなくなった。
焼けた匂いだけが、ゆらりと残る。
王土はゆっくりと息を吐き、剣を下ろす。
「ふぅ……こんなもんか」
振り返ると。
少女が、震えたまま立ち尽くしていたが――
やがて我に返ったように駆け寄る。
「……あ、ありがとう……!」
王土は肩に剣を担ぎ、軽く笑う。
「いやいや、これぐらい当たり前だろ」
少しだけ照れくさそうに、頭をかく。
「困ってる人を見捨てないのが主人公だからな」
少女は一瞬きょとんとし、そしてくすっと笑う。
「あの……私は、白花セリア。神殿の見習い回復術師です」
セリアと名乗ったその少女は
白い神官服に長い銀髪と空にような青い目が特徴的な清楚な印象の少女だ。
「セリアか。いい名前だな、覚えたぜ」
まっすぐな返事。
セリアの頬がほんのり赤くなる。
「……あなたは?」
王土は胸を張る、どこか誇らしげに。
「俺か? 道行王土――王道を行く男さ!」
「王道……ですか?」
首をかしげるセリア。
「そうだ! 友情、努力、勝利――それが俺の信条だ!」
言い切るその姿に。
セリアは、今度ははっきりと笑った。
「……変わってますね」
「ははっ……よく言われるよ」
少しだけ照れた笑み。
やがて王土は周囲を見回し、ふと問いかける。
「それにしてもセリアは、なんで一人でこんな森にいたんだ?」
セリアは杖をぎゅっと握り、視線を落とす。
「えっと……神殿から、薬草を取りに来ていたんです」
「でも、その帰り道で魔物に襲われてしまって……」
「なるほどな」
王土は頷く。
「そりゃ油断できないな」
「……はい」
しばしの沈黙。
そして王土は、くるりと背を向けた。
「行くぞ」
「え?」
「町まで、俺が送ってやる。」
軽く手を振る。
「困ってる女の子を放ってなんておけないからな!」
セリアは一瞬驚いた顔をし――
やがて、嬉しそうに頷いた。
「……はい!」
二人の影が、森の中へと伸びていく。
その背中はまだ小さい。
だが確かに――物語の始まりを刻んでいた。




