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チートだらけの異世界で、俺だけ少年漫画の主人公です  作者: 小鳥遊 千夜
第一章 冒険は始まった!転生した世界で憧れの勇者を目指して。

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第10話 朝を破る訪問者――リリカ・エルフェル

 

 翌朝――宿屋。


 柔らかな朝日が、木枠の窓から斜めに差し込んでいた。

 夜の冷気を残した空気が、少しずつ温もりに溶けていく。


 木造の部屋。

 簡素な机と椅子。壁に掛けられたランタン。

 どこか懐かしい、静かな朝の匂い。


 ベッドの上で――王土(おうど)がゆっくりと目を開ける。


「……ん……」


 一度、瞬きをして。


 ぐーっと大きく背伸びをした。


「ふあぁ……よく寝たぜ。」


 寝癖のついた髪をかきながら、体を起こす。


 窓の外からは、町の音が流れ込んでくる。


 商人の呼び声。通りを行き交う人々の足音。

 どこかで笑い声。


 “日常”の音だった。


 その中で――


「おはようございます、王土さん」


 落ち着いた声。


 振り向けば、すでに身支度を整えたセリアが立っていた。


 朝の光を受けて、淡く輝く髪。


 静かに微笑んでいる。


「おう、早いな!」


 王土は軽く手を上げる。


 セリアは小さく頷いた。


「習慣ですから」


 その言葉通り、乱れのない所作。

 けれどその表情は、どこか柔らかい。


 昨日より、少しだけ距離が縮まったような。


 王土はベッドから立ち上がり、軽く肩を回す。


「今日もクエストだな!」


 戦うことを前提にした言葉。

 だがその声色は、どこか楽しげだった。


 その時――


 ドンッ!!


 部屋の扉が、勢いよく叩き開けられる。


 空気が一瞬で張り詰めた。


「失礼します!!」


 飛び込んできたのは――少女。


 青みがかった黒髪のボブ。

 知性を感じさせる鋭い瞳。

 そして、きっちりとかけられた眼鏡。


 整った顔立ちに、焦りの色が浮かんでいる。


「え……?」


 セリアがわずかに目を見開く。


 王土は眉をひそめる。


「いきなり、誰だ?」


 少女は息を切らしながらも、まっすぐ王土を見た。


「あなたが……昨日、ゴブリンを討伐した冒険者ですね?」


 声は震えていないが、急いでここに来たのは明らかだった。


「まあな」


 王土はあっさりと答える。


 すると少女は、一歩、踏み出した。


 距離を詰める。


「助けてください。」


 その一言。


 部屋の空気が、ぴん、と張り詰めた。


 冗談も余裕もない。

 ただ、真っ直ぐな“依頼”。


「あっ…申し遅れました。私は魔導学者見習い、リリカ・エルフェルです。」


 少女が名乗る。

 背筋を伸ばし、理性的に。


「調査のため、この町の周辺を回っていたのですが、その途中――」


 一瞬、言葉を区切る。


「ゴブリンの群れに襲われました。」


 セリアの視線が鋭くなる。


 王土は腕を組む。


「昨日の奴らは倒したはずだが…?」


「それはおそらく…」


 リリカの表情が変わる。


 研究者の顔。


 分析と警戒が混ざった、冷静な目。


「昨日のはただの斥候、今度の群れは規模が違います。」


 その一言は、重かった。


「規模……?」


 王土が眉を上げる。


 リリカは頷く。


「はい、それに統率も取れていました」


「個体ではなく、“部隊”として機能している」


「明らかに“指揮官”がいます」


 部屋の空気がさらに冷える。


「昨日のは本隊じゃなかったんだな。」


 セリアの指が、杖を強く握った。


「ええ…つまり…」


「まだ……ボスがいる。」


 王土の言葉に、リリカは小さく頷く。


「はい。それも、おそらく魔王軍の小隊長クラスです。」


 その言葉に――


 セリアの表情が、一瞬だけ強張る。


 “何か”を知っている反応。


 しかしすぐに、いつもの静かな顔に戻った。


 リリカは続ける。


「このままでは町が襲われるのも、時間の問題です」


 一歩、下がる。


 そして――


 深く、頭を下げた。


「だから――力を貸してください」


 静寂が流れる。


 王土は、少しだけ目を閉じて――


 そして、笑った。


「勿論だ。」


 あっさりと。


 まるで迷いなど最初からなかったかのように。


 リリカが顔を上げる。驚きと、わずかな安堵。


 王土は剣を手に取る。


「まだボスが残ってるなら、まだクエストは終わってないからな。」


 剣を肩に担ぐ。


 その仕草は自然で、軽い。


 だがその目は――真っ直ぐだった。


「それに困ってる人が居るんなら……行く理由は十分だ。」


 その一言は、理屈じゃない。


 “そういう人間だから行く”。


 それだけ。


 リリカは一瞬、言葉を失い――


 やがて、静かに頭を下げた。


「……ありがとうございます。」


 セリアが一歩前に出る。


「それなら、私もお手伝いします。」


 迷いのない声に王土は軽く笑う。


「おう」


 短い返事。


 だがそれで十分だった。


 リリカはセリアの方を見て、ほんの一瞬、考える。


 だが――


「……ありがとうございます。

 私も多少の戦闘は心得ていますので、道案内は任せて下さい。」


 三人の視線が交わる。


 新たな仲間に、新たな敵。


 そして――


 次の“戦い”の気配が、静かに幕を開ける。


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