第3話 祖父母
眠りから目覚め、視界に入った天井は俺の知らない清潔な白い物だった。
俺の住んでた祖父母の家は古い建物なので、天井は茶色の木目である。
つまり、此処は俺の住んでいる家ではないという事だ。
「ここ……は……」
何処か分からない。
その疑問符を口にしようとすると、喉が痛み、軋んだかすれ声だけが漏れ出す。
「うっ……」
取り敢えず体を起こそうとするが、力を入れた瞬間軽いめまいが襲って来た。
俺はそのまま寝ている状態で、首と視線だけを動かして、何とか自分の置かれた状況を確認する。
周囲は白のカーテンで囲われており、腕や胸には色々なものがくっついていた。
どうやら俺は、病院のベッドで寝ている様だ。
……なんで病院?
ああ、そうか。
俺、事故ったんだっけ。
それと女神様と……
ぼんやりとだが、自分の身に何が起こったのか思い出す。
トラックの運転中、黒い靄が突如前方に前に現れた事。
それを躱そうとして、一人の青年を轢き殺した事。
そして何故かナイスアシストと言う事で、女神様からチートを貰った事を。
頭の中で自分の状況を整理していると、「シャッ」という音と共に、室内を区切るカーテンが開いた。
「え!?目が開いてる!?意識が戻った!?」
1人の女性――白衣の看護師さんが俺を見て驚きの声を上げる。
「山田壮太さん。私の声が聞こえますか?」
「は……い」
看護師さんの問いかけに、俺は絞り出す様に返事を返した。
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俺が目覚めたのは、事故から8年経っての事だった。
事故での重体の後、奇跡の回復を見せたものの、その後8年間意識不明だったそうだ。
何で8年後なんだよと女神様に問いただしたい所ではあったが、残念ながらその術はない。
まあ助けて貰っただけ良しとするしかないだろう。
目覚めた俺は、真面に体を動かす事も出来なかった。
何せ8年間も寝たきりだった訳だ。
そりゃ体も弱り切るよな。
日常生活に戻るにはまずリハビリが必要だ。
弱り切った体の状態を考えると、軽く1月以上はかかると思われていたが、俺はそれをたった1週間で終わらせる。
「前代未聞だよ。この回復速度は」
退院が決まった時に、医者に言われた言葉である。
なんで医者が驚く程の速さでリハビリを終えられたのか?
その理由は至って単純。
女神様から貰ったチートのお陰だ。
経験値を稼ぐとレベルが上がって、能力が上がる。
それがゲーム等で言う所のレベルアップな訳だが、俺が授かったレベルシステムはまんまこれに当て嵌まっていた。
但しゲーム等と違うのは、別に敵を倒さなくとも、何らかの努力をするだけで経験値が入って来る点だ。
当然リハビリは努力に当たるので、経験値が入って来る。
そのお陰で俺はレベルが3つ程あがっており、レベルアップ時のステータス上昇効果で大幅に身体機能が向上していた。
更にもう一つのチート、アビリティシステムも早期のリハビリ終了に一役買っている。
これは行動に対して、特殊な能力が付与されるという物だ。
これの効果で、俺はリハビリ効果アップのアビリティを取得している。
アビリティによるリハビリ効果アップ。
それにレベルアップによる基礎能力の向上。
この二つのチートのお陰で、俺は本来1月以上は掛かるであろうリハビリをたった1週間で終えてしまったという訳だ。
「さあさ、たんとお食べ」
退院した俺は、祖父母と一緒に暮らしていた家へと帰宅する。
両親はいない。
ああ、死んだって訳じゃなく、母親は俺が幼い時に男を作って蒸発。
ギャンブル狂いの父親は、これまた子供の頃に俺を残して夜逃げしてしまっていた。
ぶっちゃけ、俺がコミュ障になったのはこの両親の影響が大きい。
ろくでなしの両親が揃って消えた子供なんてのは、周囲の子供からすれば格好の攻撃目標となる。
俺もその御多分に漏れず、子供の頃から虐められてきた。
祖父母には心配を掛けたくなかった俺はそれを相談できず、その状況を何年もずっと我慢し続けた。
けど中学の時、ついに我慢できなくなって手を出したら、逆に俺が悪者に仕立て上げられてしまう羽目に。
周りは全部敵。
唯一信じてくれた祖父母が俺の為に頑張ってはくれたが、孫を信じるなんて理由だけでどうにか出来る訳もない。
世の中の理不尽に、もう何もかもがどうでもよくなって、俺はそれ以来学校には行かなくなる。
以降、何年も引き籠っていたせいで、親しい人間以外には上手く話しかけられない見事なコミュ障になってしまったという訳だ。
だがまあ、ずっと引き籠っている訳にもいかない。
俺は祖父母の強い勧めを受けて、取り敢えず免許だけでもと18歳で車の免許を取得しに行く。
更に22歳の時に大型免許を取って、コミュ障気味の自分でも出来そうなトラックの運転手になった。
のだが……
それも3年ちょっとで大事故を起こして、以降8年間昏睡状態。
我ながら祖父母には迷惑をかけっぱなしである。
俺が意識不明の際の入院費用だって、二人が出してくれていた訳だし。
「へへ、病院食は不味かったからなぁ。久しぶりのばあちゃんの飯は最高だよ」
祖父母の前には煮物やおひたし、年寄り向けのメニューだが、俺の方には唐揚げやポテトサラダなんかが並んでいた。
全部俺の好物だ。
俺は『美味い美味い』と言いながら、食卓に並べられたおかずをごはんと一緒に掻きこんでいく。
「お風呂の用意もしてあるから、食べたらゆっくり浸かってきなさい」
「うん」
腹いっぱい飯を腹に詰め込んだ俺は、勧められた通り風呂に入って体をサッパリさせる。
そして入院中からずっと気になっていた事を、祖父母に尋ねた。
「なあ爺ちゃん。俺が寝てる間の入院費って、どうやって稼いでたんだ?風呂も綺麗になってたし」
入院中は祖父母から答えを濁されていた。
入院費は決して安い物ではない。
祖父母の年金だけでそれを賄おうとすれば、相当大きな負担になっていた筈だ。
だから2人が生活レベルを下げて、そう考えていたのだが……
どうも違うっポイ。
家に帰ってきて最初に驚いたのは、見違えるほど綺麗になっていた事だ。
外見こそ変わりなかったが、内部は俺の記憶の中にある物よりもずっと綺麗に変わっていた。
風呂もだ。
俺の入院費を出しながら、家までリフォーム。
そんな余裕が年金ぐらいしの二人にある訳もない。
貯金だってそれ程なかったはずだ。
「ふむ……それなんだが」
爺ちゃんが、困った様な顔で婆ちゃんの方を見る。
「いつまでも隠しておける物じゃありませんし、もう話してしまいましょう」
「うむ、そうだな。隠しておいても、逆に壮太に心配をかけるだけだしな」
婆ちゃんの言葉に爺ちゃんが頷く。
一体どんな秘密が二人にあるというのだろうか?
「実はのう……わしらはソーサラーなんじゃ」
「ソーサラー!?」
ソーサラーって、魔法使いって事だよな?
俺が8年間眠っている間に、世界には大きな変化が起こっていた。
それはダンジョンの出現だ。
そしてそれと同時に、異能者が人類の中から出現しだした。
魔法という未知の力を扱う異能者。
それがソーサラーだ。
「それじゃ爺ちゃん達は……」
「うむ。わしと婆さんは覚醒者じゃ」




