第2話 ナイスアシスト
「えーっと……ここはどこでしょうか?」
気づいたら椅子に座っていた。
周囲は真っ暗で、目の前にはテーブルを挟んで美しい女性が座っている。
銀髪の、透き通りそうな程肌の白い女性だ。
その女性は素肌にド派手な金色のスーツを身に纏い。
背中からは白い羽が生えていた。
コスプレだろうか?
「コスプレではありませんよ。モブ太さん」
女性は俺の考えを読んだかの様に、コスプレである事を否定する。
ていうか、モブ太ってなんだ?
「おっと、本音がポロリしちゃいましたね。まあそれはさておき――」
女性がパチンと、親指と中指で音を鳴らすと、突然空中にモニターの様な物が浮かび上がった。
その画面には、何か器具を色々と取り付けられ眠っている俺の姿が映っている。
「えっと……あの……これは?」
指パッチンで急に謎のモニターが現れた事もそうだが、何故そんな物が映っているのか分からず、俺は恐る恐る女性に尋ねた。
「貴方はトラック事故で現在、意識不明になっています。付け加えるなら、もういつ死んでもおかしくはない状態だったりもします」
「はっ!?」
この女性は何を言っているのだろうか?
俺は今、この場にいる。
意識不明所か、思いっきり目の前でしゃべっているというのに。
「これは……何かの冗談ですか?ドッキリ的な?」
「いいえ。信じられない話だとは思いますが、今の貴方は意識だけの霊体です。その証拠に」
突然女性の手の中に丸い皿の様な物が現れる。
彼女はそれを俺に向かって投げつけて来た。
「うわっ!?……って、あれ?」
だがその皿は、何の感触もなく俺の体に吸い込まれてしまう。
そして背後からガチャリと何かが割れる音が。
振り返って確認してみると、離れた場所で皿が割れているのが見えた。
「貴方が魂だけの状態だから、私の投げた皿はすり抜けたんです」
「……」
全身から血の気が引く。
そして思い出す。
自分がトラックで人をはねる事故を起こした事を。
「思い出されましたか?」
「貴方は……誰なんですか?」
羽が生えている事から、何となく相手が何者かは想像がついた。
そして自分の運命も。
だが尋ねずにはいられなかった。
「私はご想像の通り、女神です」
俺の質問に、女性はにっこりと笑顔で答える。
それは優しい笑顔だったが、女神という返答は俺にとって最悪の物だった。
死んで女神との邂逅。
小説なんかだと、チートを貰って転生するのが鉄板の流れだ。
だが、それは不慮の事故で無くなったりした場合の話。
事故を起こして人を死なせた人間が、そんな恩恵を行けられる訳もない。
態々女神が俺をこの場に呼んだのはきっと――
「俺、地獄に落とされるんですよね?」
人を殺しておいて、天国には行けないのは明白だ。
きっと地獄送りをつき付けられるに違いない。
「ふふ、大丈夫ですよ。貴方は地獄に落ちたりしません。だいたい、死にませんから」
「へ?死なない?でもいつ死んでもおかしくないって……」
「そうですね。このままだと貴方は死にます。ですが……貴方は偉大な功績を残しているため、特別に今回は延命をして差し上げましょう」
「ほ、本当ですか!?」
絶対に『この人殺しが!地獄に落ちろ!』って言われると思っていた。
それがまさか延命までして貰えるなんて、これも普段日頃の行いという奴だろうか?
いや、悪事なんかは確かに働いてないけど、俺別に善行なんか積んでいないぞ。
ましてや偉大な功績なんて、微塵も達成してない筈だ。
「功績に関しては、ナイスアシスト賞って所でしょうか」
「は?ナイスアシスト賞?」
女神様の言っている意味が分からない。
何かをアシストしたって事なのだろうが、偉大な功績扱いになる様な事は一切思い浮かばなかった。
「実はある異世界が今、邪悪な魔王によって滅ぼされかけていたんです」
「はぁ……」
女神様は、いきなり良く分からない事を話し出す。
異世界の危機と、俺の功績に一体何の関係があるというのだろうか?
「その世界を救うため、ある人物に私は目を付けていたんです。誰だかわかりますか?」
「いえ、全く」
一瞬俺かとも思ったが、なんか違う気がする。
俺の功績はアシストらしいし。
「ふふふ。貴方がひき殺した、あの坂崎裕也さんですよ」
女神様が、何故か口元を手で押さえて嬉しそうに笑う。
何が嬉しいのだろうか?
取り敢えず、俺がひき殺してしまった青年の名前だけは分かった。
意識が戻ったら、まずは遺族の方に謝罪に行かないとな。
俺が殺してしまった訳だし。
自分でやらかしてしまった事とは言え、死ぬ程憂鬱だ。
「ああ。彼は天涯孤独の身でしたから、遺族への謝罪とかは大丈夫ですよ」
「そうですか……」
天涯孤独。
そんな不幸な生い立ちの人物をひき殺したのかと思うと、ますます憂鬱になる
「まあ話を戻しますと。異世界を救うために、私はさっさと坂崎裕也さんには死んで欲しかったんですよね」
さっさと死んで欲しかった。
その言葉に俺は頬を引きつらせる。
なんちゅう神様だ。
「生きたまま送るのはタブーですし。かといって、神が直接人を殺すのもはばかられます。で、そこに登場したのがあなたという訳ですね。貴方が彼を轢き殺してくれたお蔭で、無事坂崎裕也さんを転生させる事が出来ました」
「えっと……ひょっとしてアシスタントって……」
「そう、貴方が私のアシストをしてくれたお蔭で異世界はもう安泰です」
女神様が此方を見つめ、嬉しそうにニッコリと微笑む。
個人の命と世界の運命どちらが重要かと聞かれれば、まあ世界の運命だろうとは思う。
けどそれを笑顔で嬉しそう語るのは、流石にどうだろうか?
そもそも、人を殺した事でナイスアシストとか言われてもなぁ……
「別に消えてなくなるわけでも無し。異世界でチート無双が出来るんですから、きっと坂崎さんも御満悦ですよ」
「はぁ……」
異世界で無双して世界を救う。
小説や漫画の中なんかだと楽しそうではあるのだが、それはあくまでフィクションだからだ。
異種族とは言え、現実での殺し合いなんて、本人に余程強い願望でもない限り唯々苦痛なだけだろう。
まあでも女神様は自信満々だし、その辺は大丈夫……なのかな?
「という訳で……貴方にはナイスアシスト賞として、蘇生を。更に、レベルシステムとアビリティシステムもオマケで授けましょう」
「え?」
それって、ゲームみたいにレベルが上がったりアビリティを習得出来る様になるって事か?
まさか蘇生だけでなく、人を殺してチートまで貰えるとは……
「じゃあ、貴方の魂を体に戻すわね。レベルアップなり、アビリティ取得なり、楽しんできてちょうだい」
女神様が立ち上がると同時に、俺の視界が歪む。
まるで白と黒の絵の具をぐちゃぐちゃにかき混ぜたかの様な光景。
やがてそれ等は完全に混ざり合い、全てが灰色になる。
――そこで俺の意識は途切れた。
俺が意識を取り戻すのは、ここからさらに8年後の事だ。
後で知った事だが、直ぐに目覚めずにずっと意識不明だったのは、どうもチートを体に埋め込まれた影響らしい。
体を8年かけて、作り替えたって事だろう。
そして8年ぶりに目覚めた俺は、以前とは全く違う世界を目の当たりにする事になる。
ダンジョンが発生し、魔法を扱う選ばれし存在。
ソーサラーと呼ばれる新人類が持て囃される世界を。




