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第1章 01

雨音。


目を覚ました譲は、冷たい地面の感触で我に返る。


(ん……、俺、どうして……?)


朦朧とする頭でさっきまでを振り返ると、譲は慌てて自分の腹部を触る。

あれだけ深く切り裂かれていたはずの傷が跡形もない。

ただ、着ていたTシャツは大きく切り裂かれて、泥と、赤黒いもの……おそらく血で汚れている。


(夢じゃ、ない)


ゆっくりと身を起こし周囲を見回すと、周りには散らばった瓦礫、折れて破裂した街灯。

そして何かが焼け焦げた様な匂い。


どれも現実としてそこに存在する。


ただ、先ほどまでのことが現実のことだとして、あれだけの大けがを負って、

自分がなぜ、どうやって生きているのかが分からない。


「ーー目覚めたか」


ふと頭上から。妖しく澄んだ声が雨の向こう側から降ってきた。


声の主を探そうと譲が視線を上げると、対面のビルの非常階段、

おおよそ二階程の高さの手すりに、中性的で妖しい雰囲気の神秘的な少女が座っていた。

長い銀髪が降りしきる雨を弾いていて、壊れた街灯の残り火がかすかに明滅し、少女を照らしている。


「……誰だ、お前?」


思わず声が漏れるが、少女は譲の質問を無視するように、興味深げに譲を見下ろしている。


「死にたくない、と言ったな」


少女の声は、雨音の中でも不思議とよく通った。

譲の耳に、その響きが妙に鮮明に残る。

街灯の火花が大きく爆ぜ、雨粒が橙色に照らされた。


譲は息を飲む。

少女の肌は恐ろしいほどに白く、濡れた肌は冷たく光を照り返していて、

現実に溶け切っていないかのように、存在感を主張していた。


「……は?」


かろうじて、それだけが口から漏れた。


「だから、生かしてやった」


淡々と告げる声。

まるで、息をするのと同じくらい当たり前のことを言っている様に。


譲は一瞬、何を言われたのか理解できなかった。

雨が頬を叩く音がやけに大きく聞こえる。

次の瞬間、譲は少女の顔を見て背筋に冷たいものが走った。


少女の、深く紫にゆれる双眸はーー

確かにあの時、意識を失う前に闇の中でみた光だった。


「お、お前は、いったい何なんだよ……!これはどうなってる!?」

譲が声をあげる。

雨の中、銀髪の少女は静かにこちらを見下ろし、


「ーーアヤ」


「アヤ?……名前か?」


銀髪の少女ーーアヤは一瞬だけ口角を上げ、肯定するように小さく頷いた。

その瞳は、冷たくもどこか好奇心を宿している。


「お前、何者なんだよ!あの化け物は何なんだ!」

焦りと苛立ちが混じった声で怒鳴る。

それを聞いたアヤはただ、小さく首を傾げた。


「説明しても、今のお前には理解できん」


短く、淡々とした口調。

その声音にはまるで感情の起伏というものが無かった。


ふと、アヤが大通りの方へ視線を向ける。

雨の帳の向こうで、赤い光がわずかに瞬いている。


「ーー人が来る。お前も、その恰好を見られれば、色々と面倒だろう」


言われて譲はハッとし、自分の今の恰好を思い出す。

ボロボロに裂けたTシャツ、さらに血と泥で汚れた格好。

どう考えても事件沙汰だ。


「今しばらく、身体が『慣れる』まで、大人しくしているがいい」


そう言うアヤに譲が何か言い返そうとした時には、

その姿は既に闇に溶けるように消えていた。


静寂。

残ったのは雨音と火花が弾ける音だけ。


譲は唇を噛み、揺れた地面を見つめながら呟いた。


「……なんなんだよ、本当に……」



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