第5章:革装丁の埃
第5章:革装丁の埃
冷たい夜気が、招かれざる影のようにアパートの正面玄関からケンジの後を追ってきた。外の吹き荒れる強風ですれ違ったのだろう、暗い色のズボンには薄茶色の泥が筋状にこびりつき、スーツジャケットの生地には細かい砂塵がまとわりついている。狭いエントランスに立ち尽くした彼は、冷たく震える手で無造作に長い黒髪を掻き上げ、コンクリートの床へと小さな埃のシャワーを振り落とした。
心臓が肋骨を激しく叩いていた。胸の内ポケットに潜ませた古代の羊皮紙の焼けた熱が、呼吸をするたびに胸郭を圧迫している。
使い物にならないエレベーターを待つ余裕などなかった。ケンジは二段飛ばしで階段を駆け上がり、湿った壁に重いブーツの音を鋭く響かせる。アパートのドアの鍵を開け、勢いよく押し開けて中へ滑り込むと、背後で荒々しく扉を閉めてデッドボルトをガチャリと下ろした。
部屋の中は凍てつくように寒かった。ケンジは考えなしに重いオフィスバッグを床板の上に放り投げた。コートも脱がない。ネクタイを緩めさえもしなかった。
彼は部屋の隅に置かれた古い木製のトランクの前に両膝をつき、錆びついた金属の留め具に爪を引っ掛けた。ジャラリと大きな金属音を立てて蓋を跳ね上げる。
褪せた毛布、使い古した冬用のコート、そして役に立たない古紙の束を、両手で必死にかき分けていく。埃が空気に舞い上がり、彼は自分の袖に向かって小さく咳き込んだが、手を止めることはなかった。さらに深く、チェストの底の剥き出しの床板をまさぐっていく。
――何も無い。
ケンジは下唇を噛み締め、膝をついたまま振り返った。暗い瞳が、散らかり放題の薄暗い部屋を鋭く見渡す。彼は床を這うように壁際に積み上げられた段ボール箱へと飛びついた。蓋を引き裂き、古い台帳の束、ひび割れた万年筆のケース、何年も前の教科書を次々と引きずり出す。それらを床板に放り投げ、自分の周囲にガラクタの混沌とした円を作り上げた。
「どこだ……」
別の箱に手を突っ込み、歯を食いしばりながら呟く。
「ここに、あったはずだ……」
彼はガバッと立ち上がり、薄いマットレスを布団から引っぺがして木製のフレームの下を覗き込んだ。壊れたサイドテーブルの腐った脚の裏も見た。小さな洗面所の近くにある高くて狭い棚さえも確認し、指先を煤と蜘蛛の巣で真っ黒に汚した。
必死の捜索は、あっという間に二十分が経過した。
ケンジの胸が激しく上下する。完全に荒れ果てた部屋の真ん中に立ち尽くす彼の制服は、狂気的な捜索で舞った新しい汚れと埃で台無しになっていた。両腕は力なく体の脇にぶら下がり、疲労でかすかに震えている。
彼をここまで突き動かしていたアドレナリンが引き潮のように引き去り、代わりに胃の腑が抉られるような空虚な痛みが襲ってきた。
腸がねじれるような鋭い痛みに、彼の体が折れ曲がる。ついに足の力が抜け、彼は壁にもたれかかるようにずりずりと座り込み、剥がれかけた壁紙に頭をもたげた。アパートの静寂が、重く息苦しく戻ってくる。
ゆっくりと、ケンジは脱ぎ捨てたコートの近くに置いてあった紙袋に手を伸ばした。中から、あの老婦人の店で買った硬いライ麦パンの残り半分と、水の入ったガラス瓶を取り出す。
指先で硬いパンの端をパキリと割り、大きな塊を口に放り込んで力強く咀嚼した。パンはパサパサして味気なく、硬かったが、飢えた体には命綱のように染み入る。乾いた喉を潤すように、ガラス瓶から冷たい水を長く、必死に飲み干した。
数秒でパンの半分が消えていた。胃袋は残りを要求して叫んでいる。残りの半分に伸びかけた彼の指が、パンを強く握りしめた。
ケンジはピタリと動きを止めた。手のひらに乗った白っぽいパン屑を見つめ、ゆっくりと荒い息を整えていく。
彼は無理やり手を引き戻した。目を閉じ、深く息を吸い込むと、残りの半分のパンを茶色い包装紙へと丁寧に包み直した。
弱った足でよろめきながら立ち上がると、ケンジは数十年物の小さな冷蔵庫が弱々しく唸りを上げる部屋の隅へと歩み寄った。扉を開ける。中の電球はずっと昔に切れ、薄い霜に覆われた裸のワイヤー棚を照らすだけだ。食べ物の欠片すらなかった。
彼は一番上の棚に半分のパンを置き、静かに扉を閉めた。
(明日の朝まで……)
奥歯を噛みしめる。
(これを持たせないと……)
空腹がいくらか収まると、朝のシフトの前に目を通すよう持ち帰っていたオフィスの仕事を思い出した。ため息をつきながら、彼は入口の近くに放り投げていた重い革鞄へと手を伸ばした。
真鍮のストラップを外し、メインの収納スペースをガバッと開ける。
――ケンジは凍りついた。
空白の行政用紙の厚い束の下、鞄の一番底に鎮座していたのは――一冊の巨大な、革装丁の本だった。
信じられないという目でそれを見つめる。数日前に昼休みの読書用に鞄へ入れたものの、日々の圧倒的な業務の重さにすっかりその存在を忘れていたのだ。
ゆっくりと、ケンジは鞄の中に手を伸ばし、その重い本を持ち上げた。使い込まれた革の表紙には厚い灰色の埃が積もり、タイトルを完全に隠し隠している。
ケンジは本を自分の膝の上に平らに置いた。右手で優しく手のひらを粗い革の表面に滑らせ、長年の汚れを払う。
埃が舞い散る中、ちらつく天井の裸電球の光の下で、深い金の箔押し文字がかすかに輝きを放った。
『佐藤家の言語(Languages of the Satos)』




