26 大乱闘
山おじは、カルアの家の方向を探した。
カルアの家は知らないが、店で彼女の家の近くのスーパーの話をしていたのを思い出し、付近を探した。
山おじは山天キッチンのバイクで走っていると、川べりで人が動いているのを見た。
季節がこんなに涼しくなって、川遊びをしている人はあまりいないはずだった。
山おじは、ジッと人の姿を見ていると、太めの人影が、川の中に小さな人を沈めているような、そんな光景にしか見えず、山おじはバイクを置いて一目散に川に向かって走った。
犬たちはとても優秀だった。メイサにいろんな情報を与えた。
「ヨシとラクは、母親に川で入水させられているとのこと。すぐに警察を急行させるわ。私たちは、川へ急ぎましょう」
アレックスとドラゴンに乗り、カエデとメイサは川へ急行した。
ミヨコは買い物をしていると、スマホが鳴った。
見ると、山おじの弟、キミチカだった。
キミチカは弁護士をしていて、忙しいはずだ。どうしたのだろうか、とミヨコは嫌な予感がした。
「もしもし」
キミチカはテノール歌手のような低くよく響く声で話した。
「兄が、変な写真を送ってきました。川で、女が子どもを水に沈めている。姉さん、この川に覚えはありますか」
ミヨコは、同時に送信された写真を見た。
「知ってるわ」
「姉さん、急いで警察を呼んでくれませんか。僕も急行します」
「わかりました」
ミヨコは電話を切ると、すぐに警察に電話をかけた。
ミヨコは買い物の荷物を自転車のカゴに乗せたまま、知っている河川敷に急行した。
自転車をこぎながら、広い川のどこらだったかしら、と頭の中が真っ白になりながら必死に考えた。
自転車が交差点までくると、前輪に軽く何かがぶつかったような気がした。
そのせいで、自転車は自然と河川敷に近づいていく。
河川敷について、この長い川のどこかしら、と思ったとき、急に自転車の前輪に何かがとん、とぶつかったように感じ、ブレーキをかけた。
どうしたのかしら、と自転車の前輪をのぞきこむと、遠くの方から男女の怒鳴り合う声が聞こえてきた。
川べりに、山おじがいた!ミヨコは震える指でキミチカに電話をし、場所を伝えた。
それからわずかな時間が長く感じられた。
キミチカが警察と一緒にやってきた。
警官たちは争っている山おじとカルア、数名の男たちの元へ急行する。カルアの足元には、ぐっしょり濡れて力なく横たわっているヨシとラクがいた。
アレックスとドラゴンは、誰よりも早くカエデとメイサをヨシとラクのところまで運んでくれた。
カエデは水の中に力任せに押し込まれている二人にかけよった。ヨシとラクはもがいて暴れている。
「ヨシ、ラク!」
ヨシとラクが、ぴく、と動いたのをメイサが見逃さなかった。
「カエデ、この子たち、サカナタマリンを飲んでいるわ!水の中でも私たちの声が聞こえたもの!」
「ヨシ、ラク、聞こえるか!そのまま、ジッとするんだ。安心しろ。死んだまねをするんだ。僕とメイサにまかせろ!」
ヨシとラクは、暴れていた手足を止め、動かなくなった。
それを見たカルアは大きな呼吸をしながら、にやっと笑ってつぶやいた。
「やれやれ、生命保険を請求しなくちゃ」
カルアは水面にぷかぷか浮かんでいるヨシとラクを川の中に残して、ひとり川べりにあがった。
ほおに両手を置き、身もだえた。
「あら、大変だわ、私の子どもがおぼれている。川で遊んでいたら足をすべらせたの。私は必死に助けに入ったけれど、二人を助けることができなかったのお。うん、これでいこう」
カルアはわはは、と笑った。
「なんだ、こいつ。許せないな」
カエデは女をぶんなぐってやりたい気持ちをぐっと抑えた。
「カエデ、そんな奴は放っておきましょう、ヨシとラクが安全に暮らせるようにしなくちゃ。もうすぐ、ミヨコおばと警察とキミチカおじを、犬たちがつれてくるわ」
カエデが土手を見ると、山おじが走ってきた。
足もとにはオニオンがいて、山おじがこっちに走ってくるよう、小さな体を山おじの足にうまくからませて誘導していた。
「ありがとう、オニオン、賢いね!」
メイサはオニオンの全身をなでてやると、オニオンは小さな体中でうれしそうにメイサに甘えている。
山おじとカルアと男たちはすぐに大げんかを始めた。
そうするうちに、自転車に乗ったミヨコおばがやってきたのが土手の上に見えた。
自転車の前輪にボビーがいて、時々自転車に体を押し付けて誘導してきた。
「ボビー、こっちよ!」
ボビーはメイサを見ると、うれしそうに疾走してきてメイサに飛びついた。
「ボビー、賢かったね!牛を誘導するより、簡単だった?」
ボビーは賢そうな顔でメイサを見上げ、得意そうに尻尾を振った。
そうするうちに、パトカーが何台もやってきて、警察官たちとキミチカおじが走ってきた。その足もとにマイクとセロリがいた。
「マイク!セロリ!お前たちは天才ね!」
「まさか、メイサ、マイクとセロリがパトカーのハンドルを切ってここまで来たっていうんじゃないよね?」
「あら、そのとおりよ。私がそう命令したもの。運転手のひざの上に乗って、ハンドルを切ってここまで来るようにって」
「マジか」
カエデがあきれている間に、カルア、男たち、山おじ、キミチカおじ、警察官たちは大乱闘をくりひろげていた。
「ねえ、カエデ、メイサ、おれたちはいつまで死んだふりをしたらいいの?」
ヨシが言った。
カエデはバレやしないかとびっくりしたけれど、大人たちはケンカに夢中で、ヨシたちのことまで到達おらず、ヨシがしゃべっているのに気づかれていない。
「僕たちがいい、て言うまでがまんして」
「カエデが見えないよ。どこにいるの」
「すぐそばにいるよ」
「ヨシ、ラク、安心して」
「メイサ、いるんだね?」
ラクが泣きそうな声を出した。
「泣いちゃだめ、ジッとして。お願い。私がそばにいるから」
「わかった」
幼い二人は、がまんしてずっとジッとしていた。その間にカルアと男たちはパトカーに連れていかれ、ヨシとラクは救急車に乗せられた。
ヨシとラクはしばらく入院した。
検査上、体はすこぶる元気なのに、二人がずっと眠ったままなのは、精神的ショックが強いせいだ、と医師が判断してくれた。
もちろん、カエデとメイサがずっと二人につきそって眠っているふりをするように言っていたのだ。
カエデとメイサは大人たちには見えていないのだから、まさか幼子が演技しているとは夢にも思っていない。
病室に誰もいなくなると、ヨシとラクは小さな声でカエデとメイサに話をした。
カエデとメイサは、ヨシとラクに生き返っていることを伝えていた。
「メイサ、どうして生き返ったヨシとラクはサカナタマリンが飲めたのかな。すきま区の薬なのに」
「子どもだから?」
メイサも首をかしげた。
「ポケットにケースが入っていたんだもん!」
ヨシとラクは、得意そう。
「そうなんだ。生き返っても、僕たちと話をすることができるのかな?」
「そうみたいね。でも、おかげでよかったじゃない。ヨシとラクだけじゃ、不安しかないもの」
カエデは病室にメイサを残し、情報を求めてヨシとラクの担当医の詰め所に行った。
担当医は電話を受け、相談室にいくところだった。
カエデが担当医についていくと、相談室には、山おじ、警察、そしてキミチカおじがいた。
「こちらでも複数の証拠があがっています。前回、入院した際も、母親と同居の男がヨシ君、ラク君に乱暴をし、ラク君をヨシ君に投げつけたことにより二人とも生命の危機に陥っている。
今回も、生命保険金を受け取るために、ヨシ君、ラク君に殺人を犯そうとしていた。これ以上、この子たちを母親と接近させるわけにはいかない」
「ヨシとラクを僕が引き受けます」
山おじが言った。
「手続きをお願いします」
キミチカおじが言った。
「わかりました」
警察が答えた。
カエデは相談室から出て病室に戻った。メイサに今聞いた話を伝えた。
数日後、手続きが完了し、山おじの子どもとしてヨシとラクは迎え入れられることが確定した。
「ヨシ、ラク、もう起きてもいいよ」
「本当?」
ヨシとラクが、うれしくてパッとベッドから飛び起きた。
「よかったね」
メイサが涙をぬぐった。そのとき、カエデとメイサは強い力で吸い込まれるように体が宙に浮き、どこかに吸い込まれていった。




