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24 ヨシとラク、がんばる

「ヨシ、ここどこ」


「どこだろう」


 ヨシとラクは、隣あわせのベッドにいた。いつもなら、公園みたいに緑に囲まれた部屋でベッドに寝ていたはずだ。ここは、壁も天井も白い。


 「クローバー」


 ヨシが呼ぶ。


 「ダイヤ、スペード、カエデ!」


 ラクも呼ぶ。誰も来ない。二人は不安になり、泣き始めた。


 「あら、泣いているの?大丈夫よ」


 白衣を着た女性がヨシとラクにかけ寄ってくる。緊張した表情でベッドの枕元にあるボタンを押している。


 「いい子、いい子、泣かなくていいのよ」


 白衣を着た女性は、ちょっと引きつったような表情だが、にこにこしながらヨシとラクを励ましてくれる。


 「この人、いやだ。もっとかわいい方がいい」


 かなりの美人に囲まれて生活していたせいで、ラクは普通の美人を見て拒絶した。


白衣の美人は苦笑した。


 ヨシは「カエデ!」と呼びながら泣いている。


 すぐにたくさんの白衣を着た男女が部屋に飛び込んできて、ヨシとラクに優しく笑いかけながら体のあちこちを触りはじめた。


 「やめて!触らないで!」


 ヨシとラクは嫌がった。


 「ごめんね、私は医師の石田です。ヨシ君、ラク君、痛いところはない?」


 石田という女性が、にこにこしてヨシとラクに寄ってきた。


 「カエデ!カエデ!」


 ヨシとラクは泣き続けた。


医師と看護師たちは、手際よくモニターを見、何気なくヨシとラクに触って診察を行い、一人だけ看護師を残して部屋を出て行った。


残された看護師は泣いているヨシとラクを一生懸命なぐさめ、落ち着かせた。


 毎日、毎日、いろんな男女看護師がやってきて、おもちゃを持ってきたり、手遊びをしたり、ヨシとラクを落ち着かせ、楽しませた。


おかげで、幼い二人は普通の人の優しさに慣れてきて、泣くのをやめた。そんなとき、石田医師がやってきた。


 「ヨシ君、ラク君、経過は順調で、おうちに帰れるんだけど、どうするかな?パパ、ママに会いたい?」


 「嫌だ!」


 ヨシとラクは声を揃えて即答した。


 「そうだね、でも病院にずっといれるわけじゃないんだ。誰か、行きたい人のおうちはある?」


 「カエデ!」


 二人は即答する。石田医師は苦笑いする。


 「山天さんはどうかな」


 「誰?」


 「山天キッチンの山天おじさんは、覚えているかな?山おじって呼んでいた人だけど」


 「山おじ!」


 「行く!」


 ヨシとラクは即答した。石田医師はにっこり笑った。


 「じゃあ、山おじさんのところへ行くで、いい?」


 「いい」


 石田医師は、にこにこして部屋を出て行った。


 退院の日、山おじとミヨコおばが病院にやってきてヨシとラクを強く抱きしめたのは言うまでもない。


ヨシとラクは、山天キッチンで飛び跳ねながら接客をし、元気に毎日を暮らしていた。




 そんなある日、ミヨコおばは買い物に、山おじはキッチンの奥で仕込みに忙しかった。


ヨシとラクは店の前で遊んでいた。


ふと、山おじが大きな窓から表を見ると、小さい二人の姿が見えなくなっていることに気が付いた。


 ヨシとラクは自転車の子どもカゴに乗っていた。


ヨシは、運転手の後ろのカゴだから、飛び降りようと思えば飛び降りることができたのかもしれない。


だが、運転手の胸のところにあるカゴに乗っているラクを見捨てて自分だけ逃げるわけにはいかない、と子ども心に思っていた。


自転車は風を切ってびゅんびゅん進んだ。


 自転車は、川べりを進んでいく。河川敷で自転車はスピードを緩めた。


 「お前たち、退院してたんだね。ママは心配していたよ、すぐに帰ってくればよかったのに」


 自転車の運転席に乗った、むっちりと太った女がヨシとラクに明るい声で言う。


ヨシとラクは黙っている。自転車は古いアパートについた。


ヨシとラクは自転車から降ろされ、アパートの一室に連れていかれた。部屋に入ると、カビ臭が鼻についた。一間の部屋は玄関から部屋全体が一望できた。


 「あれ、帰ってきたの?」


 見知らぬ男がしきっぱなしの布団に寝転んだままヨシとラクを振り返ってきた。


 「こんなのでも、手当の対象だからね。死なない程度にいてくれたらいいんだ」


 女が男にすりよりながら言う。


幼い二人は一間で繰り広げられる不道徳な様子を玄関にしゃがんで目をつぶり、耳をふさいでジッと我慢した。


男と女が不道徳に夢中になりすぎたころ、ヨシとラクは、そっと玄関の扉を開け、外に逃げ出した。


 ヨシとラクは、一生懸命走った。


河川敷まできて、はあ、はあ、と荒い呼吸をおさめ、噴き出る汗をぬぐった。


 「ヨシ、これ、飲む?」


 ラクがズボンのポケットから小さいケースを出した。


 「あ」


 ヨシもズボンのポケットをさぐると、ラクと同じ小さいケースが出てきた。


 二人はケースに入っていたきれいな粒を、一気に飲んだ。シュワっと口の中で粒たちは消えていった。


 「山おじのところへ行こう」


 二人は、道もわからないまま、川べりを歩きはじめた。


 しばらく歩いていると、キー、と自転車が止まる音がした。


ラクが振り返り、ヨシの手を強くにぎった。ヨシは驚いて振り返り、ハッと息を飲んだ。


 幼い二人は力の限り、走った。


しかし、むっちり太った女は余裕で自転車をこいで追いかけてくる。女はにやにやしながら幼い二人を追い立てる。


 「ラク、こっち」


 ヨシはラクの手をにぎり、土手を降り、川の方へ走った。


草が生えている河川敷だが、早く走れる気がした。


むっちりした女は、自転車を置き、余裕で幼い二人を川に追い詰めていく。


幼い二人は、恐怖で足がすくむ。

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