第九話 ユキとネル
「エメラルド。ネルくんは?」
「例のきのこのシチューを食べてもらったので、欲には忠実かと。それにユキ様の魔法は効きやすくなっていると思いますよ」
「ありがとう。予定通りね」
ユキは貴方達は森に探索でも行ってきなさいと、小人達に命じると、夜着に上着を羽織ってリビングに入って行った。
「ネルさん身体は温まりましたか?」
「……はい」
「熱もあるようですし辛いようでしたらベッドで少し休んで行きますか?」
シチューと魔法で既にネルの目に生気がない。
ユキはネルに人を操る魔法をかけることができたようだ。
ユキは魔法にかかっていることを確認すると、ネルから濡れた服を脱がし、ガウンを着せた。
そしてユキが自分の部屋へと移動し始めると、ネルも後ろからついてくるよう指示した。
「生憎小人用のベッドばかりで、大きいのは私のベッドだけなんです」
2階のユキの部屋に入り、2人でベッドに腰掛ける。
部屋は林檎のような匂いがして、洗脳されているネルの脳がチカチカした。
「ネルさんは髪の毛をこうした方が綺麗な顔が良く見えますよ」
「……はい」
ユキがネルの髪をかきあげ、愛おしそうに眺めた。
そのまま、頬に触れ、唇を指でなぞる。
「ねぇネルさんお願いがあるの」
「……なんですか」
「私にキスし……きゃああああああ!!!!」
突然のユキの叫び声に、ネルの目に生気が戻った。
ネルの頭に激痛が走る。
「ゔっ!!……ど、どうしたんですか?」
ユキは自分の顔の周りや肩をしきりにはたいていた。
「なっ!なんか顔の横にいたのよ!!?」
ユキが立ち上がってしきりに動いているとぽてっという音を立てて、1匹の小さなネズミが床を走り去って行った。
ユキはよく見るととても薄い夜着を着ていたし、自分もガウン一枚になっていて今の状況にネルは焦った。
「ネズミ……。ユキさん、パティはどこですか?」
「怖かったー」
そう言うとユキはネルに抱きついたが、すぐさまネルに肩を持って引き剥がされた。
正直、ネルはユキの吸い付くようなもちもちの肌に正気を保つのが精一杯だったし、この状況が怖かった。
「そうですね。で、パティはどこの部屋ですか?っていうかそんなに薄着だと風邪をひきますよ。僕は薬草をパティと一緒に探すので部屋を教えてください」
「パティさんは薬草見つけた後、少し休みたいって言って別の部屋で寝ているわ。今起こしたら可哀想よ」
パティに会う方が悪いという理由を作ってユキがこの状況を正当化しようとしてくる。
さらにネルさんも少しベッドで休んだ方がいいわなんて、ユキが誘惑してくるからネルは困った。
「でも早く帰らなければいけないので、パティを起こします。パティの部屋に連れて行ってください」
ネルの記憶はシチューを食べた時から曖昧である。
その時から今の状況を考えるに、今すぐここを離れた方が良さそうだと判断した。
「せっかく勇気を出したのに……そんなに私のこと嫌いなの?」
ユキが目に涙を溜める。
魔法は解けてもネルのきのこの効果は残っている。
「お願い……。一回でいいから私に思い出をちょうだい」
ネルもいい歳だからその意味がわからないわけではなかった。
いつもありがとうございます。