第十話 パティとネル
「ネルーーーーーーーーーー!!!」
「ぐぁっ!!!」
地下室の壁からどこからともなくネルが投げ込まれてきて、ネルを呼んでいたパティは驚いた。
「ネル!!えっ!!私が呼んじゃったから来ちゃったの!?ごめん!ネル大丈夫!?」
「いたた……。僕は大丈夫。ただあいつに捕まっただけ。ユキは魔物だったよ」
ユキの要望をなんとか突っぱね続けたネルは、怒ったユキに地下室に放り投げられた。
「やっぱり、あの人魔物だったんだ。見た目が人間だから全然わからなかった。ごめんねネル。私が薬草を探しに来なければこんなことにはならなかったのに」
パティの目からぽたぽたと涙が溢れる。
「いや。彼女を置いていかなかった僕が悪いし、元はと言えば僕が君をネズミにしてしまったのが元凶だから。……泣かないで」
パティの手には血が滲んでいて、ドアをどうにかしようとし続けていたのが見てとれた。
ネルが無意識にそっとパティを抱きしめる。
驚いたパティの身体が一瞬震えた。
「……ごめん。」
「ううんちょっとびっくりしただけ。私ネズミだからもこもこして温かいでしょ?」
「……ちょっとひげがくすぐったいかも」
「レディにひげとか失礼しちゃう!」
そう言うとパティはネルの胸に軽い頭突きをくらわせた。
ふざけて頭突きをしたつもりだったが、ネルはそのまま床に倒れこんだ。
「え!ごめん!ネル大丈夫!?やりすぎた!?」
「……ごめん。ちょっと踏ん張れなかった」
慌ててパティがネルの額に手をあてると、とてつもなく熱かった。
「ネル……熱がある」
パティは、ネルが雨に濡れて風邪をひいたのだろうと思った。
心なしかネルの呼吸も荒い。
「……僕は大丈夫だから。それよりあいつ食べごろまで3日って言ってたし、それまでにここを出る方法を考えよう。ここに閉じ込められた時の状況と今までにわかっていることを教えてくれない?」
パティはネルが心配だったが、言われるがまま、壺を動かしたら魔法陣が発動したこと、部屋の備品には以後一切触れられないこと、ドアの下に小さな穴があってそこを掘り進めたが拳くらいしか通らないことを説明した。
「壺を動かしたら魔法陣発動かぁ……。きっとこれは部屋の外側に元の魔法陣があるタイプだと思う。元の魔法陣を消すことができないと出られない」
「そうなんだ。ネル良くそんなこと知ってるわね」
魔法の授業を受けているが、まだ一年生なのでそこまで踏み込んだことはまだ習っていない。
ネルは顔に両手を当てて、ぽつりぽつりと話し始めた。
「……実は僕、隣の国出身なんだ。魔法が下手なのが恥ずかしくて、自国ではなくこっちの大学に留学してきたんだよ。魔法が下手なら剣士を目指せばいいのに、僕はどうしても魔導士になりたかったんだ。」
魔導士は魔法を自由自在に操ることができる者で国家資格もある。妖精の力を借りて、物質の移動や変換、負傷者の治療まで多岐にわたる活躍が望まれる。
「魔法が下手な分知識だけは入れようと思ってそれなりに勉強はしたんだよ。こうして頑張ってきたけど、パティさんをネズミにしてしまうし、結局他人に迷惑かけてばかりで……。僕の我儘のせいでごめん」
そう言って下を向くネルに、今度はパティが思いっきり抱きついた。
「わっ!!」
「ネル。私が暗い気持ちになった時、いつも実家の犬がこうやってもふらせてくれたの。今私ネズミだから思う存分もふりなさい」
「もっもふりなさいって。……仮にもレディなんじゃなかったっけ?」
「いいの!ネズミ相手にやましい気持ちになる人間なんていないんだから!」
パティの勢いに押されて、ネルが恐る恐るパティのほっぺたをもふもふする。
「どう!?私可愛いでしょ!?多分アカネズミだと思うの」
「……昔飼ってたチンチラを思い出すなぁ」
ネルはパティを抱き抱えたまま横になった。
急に体勢が変わってパティがどきっとする。
「多分今はもう夜だと思う。今逃げられたとしても別の魔物に襲われる危険があるから、できれば早朝に逃げたい。お互い疲れてるだろうから少しだけ眠って、それから脱出方法を考えよう」
「……わかったわ」
おやすみとネルはいうと、パティを抱いたまますぐに寝息を立てはじめた。
妙な雰囲気と疲れとが相まってか、パティもすぐにそのまま眠りについてしまった。




