最終話 この魔法が解けるまで
ネルが小さなトランクに荷物をまとめる。
自分の心が揺らぐくらいでクラスメイトに魔法をかけてしまうなんて。やはり自分には剣術しかないのだと、ネルは猛省していた。
今日の魔法大学の講堂は夜だというのに明かりが灯っており、男女が楽しく話す声が聞こえてくる。
今頃パティはダンスパーティで憧れの先輩と楽しんでいる頃だろう。
告白は成功したのだろうか。
ネルは今までの生活に思いを馳せた。
長くはない魔法大学生活だったけれども、色んなことがあって楽しかった。立場上魔法を学ぶことに専念し、友人は必要ないと思っていたけれどいざとなると寂しい。
たった1つだけでも、自分の望みが叶えられたのは良かった。これは大切な思い出としてそっとしまっておこうとネルは思った。
時計の針はもうすぐ19時を指す。
そろそろ馬車の時間だ。
ネルは寮を出て馬車乗り場に向かおうとしたところで思いもよらない人から声をかけられた。
「ちょっとどこに行くつもり!?」
その人物を見てネルは驚いた。
栗色の巻き髪でリスのような小柄な女性、パティ・モーズレイだ。夜のような濃紺のドレスに身を包んでおり、可愛いながらもしゃきっとした印象が素敵だった。
「パティさん?あれ?先輩とのダンスは??」
うーん。と言葉を濁すパティ。
「それよりその荷物。あの日からずっと探してたのに授業にも出てないし。今見つけられてよかったわ。」
「……一度国に帰ろうと思って。もう他の人に迷惑かけたくないから。」
ネルが笑顔で答えた。
それを聞いたパティが慌てる。
「えっ!!ネルは魔導士になりたいんでしょ!?大婆様から聞いたわ。ネルは妖精に愛されすぎて出力が難しくなっているって。魔力が無いわけではないのに勿体無いわよ!」
「でも……。それで他人を巻き込んでしまったら大変だから」
ネルが困ったように笑った。
まさか可愛い、キスしたいって思ったら、その相手がネズミに変身する魔法がかかるだなんて思わないではないか。キス、ちゅー、ネズミって自分でもどうかしていると思う。
パティが一瞬悲しい顔をしたかと思うと、ぼふんっと音を立てた。
「この身体責任とってよ。」
人間だったはずのパティが、人の大きさのネズミに変身してしまっている。
「なっ……なんで?魔法は解けたんじゃ」
「なんか中途半端に魔法が解けたみたいで、気分が落ち込んだらネズミになっちゃう体質になったみたい。」
あんなに恥ずかしいのを頑張ってまで、パティを口説いたのに。
あの時のことを思い出してネルもちょっと恥ずかしくなった。
「あー。パティさん。人間の姿に戻るには?」
「誰でも良いからほっぺでも手でもいいからキスが必要。」
「……ネズミだけに落ち込んだらちゅーしてってこと?」
「なっ!!なりたくてなってるわけじゃないのよっ」
パティが顔を真っ赤にして否定する。
そんな姿も可愛いのだが、ネルは頭を抱えた。
ネズミに戻るたびに誰かネルの知らない男にキスをされ、裸を見られるリスクが発生すると?
「大婆様が言うには真の愛??について妖精がなんか満足してないみたいで。ネルには魔導士になってこの魔法を解いてもらう責任があると思うのよ。」
パティがネズミ姿で腕を組んで立っている。
魔法実習は他の生徒に被害が及ばないように全部私と組めばいいわけだし、学校生活のサポートはするわなんてパティは言っている。
ネルは馬車に、申し訳ないけれど今日はキャンセルでと言い賃金を支払った。
パティに落ちたドレスを渡し、自分の上着を着せる。
「お願いだから今後僕の魔法で大怪我したりしないでね」
そう言うとネルはパティの手にそっと口付けをした。
fin
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次の作品でまたお会いできるのを楽しみにしております。
ありがとうございました。




