師匠と弟子と
悪霊退治の依頼。
隣の村に行くには山を越えねばならない。
悪霊退治の依頼はここのところ増えたが、我々にはそこへ向かうことさえ簡単ではない。
過去にはトンネルをという話もあったがそれは事故により叶わなかった。
”山の精に連れて行かれた”や、”山に飲み込まれたのだ”と人はいうが、それは死をすこしでも軽いものにするための心の柵なのだろう。
私は足が悪く弟子はあまり目が見えない。
2人は縄で手をつなぎ離れないようにして山をすすんでいく。
山は別世界、別世界を進む男女が手を離せばもう2度と出会う事はできないと言う。
ありふれた言い伝えだが目が見えない弟子と足の悪い私の事、それは本当になりかねない。
私の足は急ぐ彼女を追いかけられず、彼女の目は私を見つけられない。
彼女の目は輪郭がぼんやり分かるだけ。
ついて行ってはいけないナニカと私を見間違えたなら私の足では取り戻せないのだ。
不安になり私は再び縄を強く握ると弟子も握り返した。
片道に4時間はかかる山、われわれは3倍近い時間をみる必要がある。
そしてまさか山で夜を明かすわけにもいかない。
我々は早朝に家を出た。
私が目となり、弟子の進みやすい道を探し誘導する。
伝わる縄の感触でどちらに進むかを教える。
もう慣れているとはいえ、それは足の悪い私の歩みよりも遅い。
可哀想な少女、悪霊に襲われ家族を失い、目も悪くした。
選べる道等多くはない。
こんな悪霊退治の道に進むしかなかった。
それでも、文句も言わずに助手をする弟子に同じように家族を失い、足を悪くした私はどれほどささえられただろうか。
私は彼女の目となり、彼女は私の杖となった。
私が振り返り弟子の様子を確認すると彼女は縄の感触で気づいたのだろう。
獣避けの鈴が鳴る中少女は私に微笑みを向けた。
タニシで作られたその鈴には彼女の目を直してほしいという願いがこもるが今のところは効果は出ていない。
「すこしだけ休もうか。」
トンネルはできなかったが山の中腹には小さな小屋がある。
机もなく夜を越せるほどの作りではないがすこし休むことの出来る木の椅子。
2人は並んで座り、汗を拭き水を飲み。
少しの塩を舐め軽食をとる。
そんな小さな休憩所さえ、山を越えるために大きな大きな力を与える。
山が完全に人を排する魔境ではないと教えてくれる。
それが山の麓にすむ人の知恵だったのだろう。
30分に満たない休息の後我々は再び歩きだした。
2人は縄でつながっている。私がどこかに落ちれば弟子も巻き込んでしまうだろう。
いや、既に悪霊退治という過酷な谷に引き落としたのだ。
それでも私は慎重に進む。
また巻き添えにしてしまわないために。
ポップでキャッチーな新作です!
伝わらない可能性があるので、口でなく縄で道に誘導するのは、山で喋り回るのは良くないと言う伝承が民俗学的によく言われるからです。




