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異世界×論理魔法 オートマティック・リドライブ〜神ロリAI様と同期して理不尽な現実を書き換えます〜  作者: 上城晄輝
第一章『雷槍の誓い』

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第13話:烏丸焔理の憂鬱(後編)

「せーんぱーい!」


中庭の向こうから、ひときわ明るい声が響いた。

振り返ると、制服姿の希望が芝を軽やかに踏みしめて近づいてくる。


「お昼デート中、邪魔しちゃいました~?」

「デートじゃないし!」


変なこと言うなよ、楓が怒るだろ。

恐る恐る楓の顔色をうかがうと、案の定、冷たささえ感じさせる、ニャルもかくやといった無表情になっていた。

――ほら見ろ、ほんとにもう。デートとか言うから。


「んで、何の用だよ」

「えー、先輩の顔が見たくなっちゃって。それと、“ちょっとだけ相談”もあって」


悪びれもせず、ニコニコ笑っている。

ほんと王族だけあって肝が据わってるよな。悪い意味で。


「相談?」

「先輩、今度の連休、予定ありますか? もちろんお暇ですよね、お友達いないですし」

「……は?」


なんて失礼な後輩だ。

でも否定できないのが悲しい。

しかし連休ときたか。


「連休なんかあるの?」

「ありますよー。毎年5月の1日から5日までは、王国民の休日と決まっています」


なるほど、ゴールデンウィークみたいなもんか。


「いやまあ、俺にだって色々とやることはあるよ?」

「またまた、見栄はっちゃってー。連休があることすらよく知らなかったのに、なんで予定あるんです?」


くそっ、相変わらずこの世界の人間は的確に追い詰めて来やがる。


「んで、そんな寂しい先輩のために、わたしが親睦を深めるプランを作って参りました!」

「親睦ねぇ」

「少し遠いんですけど、王立の保養所があるんですよ。すっごくいいところだから、一緒に行きましょうよ!」

「旅行? そりゃ行ってみたいけど……」


いくら相手が希望とはいえ、女の子と二人で旅行は……。


「主、わたしもお供いたします」

「そーそー、あと渚さんも!」

「渚も?」

「昨日の夜ね、寮で対抗戦の話してたんですよ。本当に先輩って女の子の敵ですよねって、盛り上がっちゃって」


ひどくない?

俺が何をしたと……。


「それで渚さんが“悠真くんには再教育が必要”って言い出して。わたしもそうだなーって。んで、途中参加した天羽先輩も“ゆーゆーにはこれからもっとしっかりしてもらう必要あるもんね”って。こうして先輩の特別訓練旅行が発案されたんです」


その流れで平然と混じっていける鈴音、すごいな。

あいつ、実はコミュ強なのでは?

それにしても、その話を聞いたらめっちゃ行きたくなくなった。勘弁してほしい。


「楓も賛成したよ」


俺の胸の内を見抜いたのか、希望が付け加える。

驚いて楓の方を振り向くと、珍しく罰が悪そうな顔をしていた。


「主と……いえ、主にはもう少ししっかりしていただく必要がある、というのは同意見です。保養所には訓練施設もあります。有意義な休暇になると思われます」


希望はどこからともなく取り出した手帳を開いて、自分が書き込んだ日程を俺に見せた。


「ちょ、ちょっと待て。俺は行きたく――」

「はい、賛成4、反対1にて旅行出発は決定! わー、民主的!」

「数の暴力反対! 多数決は少数派意見の黙殺!」


何が民主的だ。王国の姫君がよ!


「というわけなので、予定ちゃんと空けといてくださいよ。まあ、ほかの予定なんて入らないと思いますけど」

「くっ、反論できない……」


そのとき、楓がふと希望へ問いかける。


「……晴翔様には、お話を?」


希望は一瞬だけ目を泳がせたあと、小さく首を振った。


「……言ってない」


ほんの一瞬だけ、彼女の視線が――俺をかすめた。


「だってさ……お兄さ――お兄ちゃんには、こういうの言いにくくて」


なんか今――不自然な間があったような。

気のせいかな。

楓はわずかに目を細め、何も言わずに頷いた。


「……承知しました。私も、口外は控えます」

「うん、ありがと」


希望はそう言って、いつもの笑顔を浮かべた。

けれど、その笑みの奥にはほんの少しだけ、照れと気遣いがにじんでいた。


「……はぁ、わかったよ。参加するよ」


実際、希望の言う通りで、家にいてもすることがない。

この世界にゲーム機とかないし。

なら旅行の方がましだろう。

特別訓練は断固として拒否する所存だ。


「わーい、決まり! じゃあ準備は各自でよろしくです!」


希望はスキップ気味に軽やかに去っていった。

その背中は、どこか本当に楽しそうだった。



放課後。

自主訓練を終えた俺は、夕陽に染まり始めた演習場をひとり歩いていた。正面から吹いた風が砂を巻き上げ、思わず顔を背ける。

そのとき――視界の端で銀色が揺れた。

……あれ、烏丸か?

烏丸焔理が、槍の穂先を拭っていた。

褐色の肌が光を受けて、わずかに燃えるように見える。

朝の一件からして、とても声はかけられない。そそくさと立ち去ろうとした瞬間――


「烏丸ぁ、今日も一人なの?」


明るい声が響いた。

振り返ると、上級生の男女三人が焔理の近くへ歩いていく。男子二人と、明るい茶髪の女子がひとり。

三人ともフレンドリーな笑顔を見せてはいるが……あまりいい印象は受けなかった。

俺は反射的に物陰に隠れた。

なんか気になるんだよな。

女子先輩が焔理に微笑みかけた。


「ちょうどよかった~。ねぇ烏丸さん、今年の学内対抗戦、うちらと組まない?」

「三人で話しててさ、お前と一緒なら絶対優勝狙えるだろってことになったんだよ」


男子先輩も口を挟む。

焔理は手を止めないまま、短く返した。


「……必要ありません」


声色は鋭いが、口調は丁寧だ。

あいつ、先輩に敬語とか使えるんだな。

焔理の拒絶の言葉に、女子先輩の笑みがぴたりと固まった。


「えぇー? なんで? 去年も一人で出てたでしょ? さすがにそれは浮いちゃうよ?」


男子先輩がわざとらしく肩をすくめる。

焔理の表情を探るように、わざとらしく間を置いてから言った。


「そーそー。天羽もさ、最近お前と一緒にいないって聞いたけど?」

「…………」


焔理の肩が、わずかに揺れたように見えた。

女子先輩は続ける。


「烏丸さん、強いのはみんな知ってるけどさ……協調性のない人って、どこ行っても損だよ?」


それは“善意”を装った、最も刺さる言葉だった。

焔理は槍を置いた。

そして――静かに一歩踏み出す。


「……協調性がないのではありません。先輩方と組む理由がないだけです」


声音は凍えるほど冷たいのに、ほんの少しだけ震えていた。

男子先輩が苛立ちを含んだ声を上げた。


「は? 何様だよお前」


女子先輩が腕を組み、鼻で笑う。


「そっか。そういう子なんだ……可哀想にね」


風が、一瞬だけ熱を帯びて逆巻いた。

焔理の手首が翻った――ように見えた。

速すぎて、焔理が動いたのはわかるけど、何をしたのかはわからない。

――ぱさり。

男子先輩の制服の袖口が落ちた。


「この程度に反応できない相手と組むメリットがないんです。わかりませんか?」


その一言に、先輩たちは凍りついた表情でお互いの顔を見たあと、次の瞬間には逃げるように立ち去っていった。

焔理は槍の穂先を収めると、その背に負う。

そして、彼女がふと顔を上げたその時。

思わず身を乗り出していた俺と、目が合った。


「…………」


焔理の表情に怒りが浮かんだ。


「お前!!」

「いや……これはだな。決して覗き見しようとしたわけではなく、たまたま……」

「最悪」


鋭い拒絶。焔理は歩き出す。


「ちょっと待て、これは本当に――」


これ以上恨まれたらたまらない。

必死に誤解でもないを解こうとすると、


「うるさい! 話しかけるな!」


振り返りざま、叫ぶような声。

だけど、その横顔。夕陽に照らされた目尻が……かすかに、濡れていたように見えた。

焔理はそのまま、早足で夕暮れに消えていった。

残された風が、静かに砂を散らす。

……あれ、あいつ、泣いてた?

胸のざらつきだけが、真実を曖昧に照らしていた。



その夜。

寮の自室で、俺はベッドに寝転がりながら天井を見ていた。

……鈴音と焔理、あいつらいったいどういう関係なんだ?

頭の中では、銀髪ポニテの少女――烏丸焔理の顔がぐるぐると回っていた。

俺が入学してから今まで、あの二人が話している姿を見たことがない。

俺が知らないところで話してる?

いや、あの時男子先輩は、最近鈴音と焔理が一緒にいないと指摘していた。

にもかかわらず、焔理は鈴音にご主人様と言わせた俺に怒り、わざわざ宣戦布告にやってきた。

そして鈴音は烏丸のことを「えりえり」と呼んでいた……。


「――おや、ない頭で考えごとですか」


いつの間にか部屋に侵入していたニャルが、俺の顔を覗き込んだ。


「お前な、ノックくらいしろって言ってるだろ!」

「観測対象の部屋に入るのにノックという概念は成立しないと、以前言いましたよね?」

「なんの用だよ」


今日はニャルの相手をする気分じゃないんだ。

ニャルは無言でホチキスで閉じられた紙の束を取り出すと、バサリとベッドに投げた。


「なにこれ」

「ニャル式ディープリサーチの結果です」

「リサーチ? ああ、昼間の……」


わざわざ報告書まで作ったのかよ。


「ご覧にならないのですか?」

「気分じゃない」


どうせ女子からの悪評が書き連ねてあるんだろ?

知ったとて落ち込むだけだ。


「そうですか」


さらりとニャルは言うと、紙の束を拾って自分の胸元に抱えた。


「烏丸焔理のレポートです。天羽鈴音との関係についても記載があるのですが、まあ、いらないなら廃棄いたしましょう」


そう言うと、ニャルは踵を返して部屋を出ていこうとした。


「待て!」


思わず呼び止めた俺の声に足を止め、振り返ったニャルは、底意地の悪い笑顔を浮かべていた。


「ニャルを称えるのなら、見せてあげてもよいですよ」

「見せてください、ニャルさん」


精一杯下手に出てみる。

ニャルに下手に出るなんて、これが限界だ。


「足りません。『お見せください、素晴らしき神AI様』。はい、復唱」

「――お見せください、素晴らしき神AI様!」


く、くやしい。

でも気になる! 鈴音と焔理の関係!


「心がこもっていませんが、まあいいでしょう」


ニャルは慇懃に言うと、レポートを差し出す。

何が心だよ、AIのくせに。

胸の中で悪態をつきつつ、レポートを受け取り中身を読む。

レポートには焔理の生い立ちや家族構成、大まかな経歴や性格が時系列順に記されていた。


「お前、よく調べられるな、こんなの」

「リサーチはニャルの得意分野です」

「そうかもしれないけど、ネットとかないだろ?」

「リサーチは足で稼ぐのが原則です」


足……。

正論だけど、AIに言われると釈然としないな。


「足で稼ぐって、ようは聞き込みだろ? そんなのお前にできるの?」


この慇懃無礼で上から目線のキャラで聞き取りとか無理じゃないか?


「その程度、神AIたるニャルにとっては造作もないことです。特別に実演してあげましょう」


ニャルは髪をかき上げると、目を瞬かせた。

その瞬間、ニャルの中の何かが切り替わったように見えた。


「あの、お兄ちゃん。ちょっとお話があるんだけど、いいかなぁ」


ニャルが柔らかな微笑みを浮かべ、上目遣いで俺の顔を覗き込む。

純真無垢な、理想的な美少女そのものといった佇まい。

俺は思わず声を上げた。


「うわっ! 気持ち悪!」

「はぁっ!?」


ニャルがいつもの能面に戻り、冷徹な眼差しで俺を睨みつける。

うん、ムカつくけどやっぱりこっちだな。


「話戻すけど、鈴音と焔理が昔からの友達なのも事実、そして最近あまり一緒にいないのも事実、ってことか?」

「その通りです。半年くらい前から疎遠になったようですね」

「何があったんだろう」

「第三者からの情報ですし、そこまでは。鈴音に直接聞いてみては、ご主人様?」

「やめろ!」


いくら気になるとはいえ、そんなこと気軽に聞けるはずがない。

俺はレポートを机に置くと、ベッドに寝転がった。

一難去ってまた一難。

この世界に来て以降、俺の辞書から平穏という単語が消えてしまったらしい。

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