その7
久しぶりの投稿です。
「先生!」
「あっ、ミリアだ!」
「「ミリア姉ちゃんだ!」」
「まぁまぁミリアじゃないの、まぁ皆さんもよく来たわね」
全身を包むような真っ白なローブを着て優しく微笑むお婆ちゃんはリダヤ孤児院の院長先生だ。
そのお婆ちゃんの後ろから駆けて来た子供達はミリアの周りに集まりはしゃいでいる。
ミリアはここの出身だからね、妹弟達がいっぱいいるんだよ。
子供達をニコニコと嬉しそうに見るミリアの今日の衣装は真っ白で、金で縁取られていることもあり本物の聖女様みたいだしすごく可愛い。
そのままミリアは子供達に手を引かれ教会の中に入って行った。
この孤児院は日本にある児童養護施設に似ているけど名前の通り親に捨てられた孤児を育てる所だ。
日本みたいに家庭の事情で育てられなくなったから暫く預かってもらうとか、虐待されてるから保護するとかそういったことはしてないんだ。
ミリアのような浮浪児や、孤児院の入り口に捨てられている赤ん坊を拾い育てるだけだ。
犯罪には厳しい国だけどそこまできちんとした法律があるわけじゃないからね。他人への暴力は罪になるけど、自分の子供への虐待が罪になるなんて考えはなかったりするし。
この孤児院はマトラー教会の支部で神殿からの援助金で運営しているんだって。
だから子供達の面倒を見るだけなく、週に1度怪我や病気の人の治療も行っている。
そのときにミリアの回復魔法が発現し、すぐに神殿にそのことが伝わってしまったのだ。本当は名誉なことだけどミリアはそうは思わなかったみたいだよ。
嫌嫌仕方なく連行されるように神殿入りしたんだって。そして家に帰してもらえずセクハラされたり... うん、男嫌いになるよね。
「わーセーラ、剣技教えて!」
「俺にも教えろよ!」
「俺も!」
「...仕方ないな」
セーラの周りには男の子達が集まり、木の棒を振り回して気合いたっぷり稽古を頼んでいる。
セーラは苦笑いしつつ嬉しそうに広々とした庭に出ると、自身も木の棒を持って子供達の相手をすることにしたようだ。
私はそんな様子を微笑ましく見ていたのだが...
「っ! いたた!」
リリアーナと私がミリアに続いて教会に入ろうとしたとき、コツンコツンと背中や頭に何かがぶつかってきて思わず叫んだ。
バッと振り返るとニタニタと意地悪そうに笑うガキ共と意地悪そうな小人がいた。
「あ"ー!! また子供達に変なこと教えて!!」
目尻がつり上がりエルフのように尖った耳をした私の膝くらいの身長のこいつはゴブリンだ。
最初名前を聞いたときはすごく驚いた。普通は般若みたいな醜い顔してるでしょ? でもこの子は性格悪そうだけど普通の子供みたいだし。
しかも小説とかじゃ女性にあんなことやこんなことして...
そんなゴブリンが庭で子供達と遊んでるんだよ!? 初めて見たときは慌てたよ。
危険はないのかって聞いたら子供には無害なんだって。「それ以外の人や動物にはイタズラすることがあるけど可愛いものよ」って言われたときはイタズラって性的なことかとも思ったんだけどね。
どうもゴブリンって亡くなった子供達が精霊として生まれ変わった姿なんだって。日本の河童みたいなものかな?
今みたいにドングリぶつけてきたり落とし穴にはめてきたりと笑えないレベルのイタズラをするんだ。
しかもそれを子供達に教えてみんなで、しかもなぜか私を集中的に攻撃してくるんだよ! 信じらんない!!
今までの度重なる嫌がらせを思い出しプッツンきた私は、ゴブリンを捕まえようと手を伸ばすが器用に避けられる。
ムッとして追い掛け捕まえようとしてもまた逃げられ... ハッと気付くとガキ共に囲まれていた。
「くっ罠だと!? あだだだ...!!」
「やーいブス!」
「ノロマの美香姉!」
「こんな簡単な罠に掛かるとは愚かなり!」
子供達&ゴブリンは情け容赦なく私にドングリをぶつけてくるので、私は頭を庇い丸くなるしかない。
人見知りのリリアーナは子供相手でもそれは発揮されるし、子供達に稽古を教えに行ったセーラの援軍は期待できない。
ミリアが気付いてくれればいいのだがしかし、まんまと誘き出された私は孤児院の隅っこに来てしまっている。
くぅ... 万事休すか!?
「何をしてるの! 今すぐ止めなさい!!」
凛とした低い声が響くとピタリと攻撃が止んだ。その声に恐る恐る振り返るとそこにいたのは眉を吊り上げて怒る院長先生だった。
「い...いんちょー先生...」
泣きながらヨロヨロと近付いた私を院長先生はぎゅっと抱き締めて頭をよしよししてくれる。
「まぁ可哀想に、こんなにされて」
「うえ"ぇぇ~、あいつらは悪魔ですー、人間の皮を被った悪魔ですー」
ヒグヒグ泣く私の頭や背中を撫でる先生。その腕の中でガキ共を指差す私。
子供達にゴブリンが加わるとタチの悪さがぐんと上がるが、あのガキ共は元々性格が悪かった。
初めてここに来たときも「変な顔」「ブス」と散々馬鹿にされた。
親に捨てられた可哀想な子達だし少しくらい我慢しよう。そう思った少しは初日で無くなった。
想像してほしい。
ミリアに連れられ孤児院に来てそうそう悪口が始まり、みんなでお喋りしてるときも食事を食べてるときもずっとずっとずーーーーっと私の側で「ブスブスブスブス...」と言われ続ければ誰でもキレるだろう。
そうしてキレた私と子供達の戦いは私の勝利に終わった。
しかし、あのガキ共はゴブリンという味方を呼んだのだ。それから始まった落とし穴、泥水掛け、虫攻撃、モンスターのうんこぶつけ...
精神的に私が追い詰められるのも当然だろう。
それでもミリアやセーラが助けてくれて、そのお陰でイタズラしてくる子供も大分減って最近は全く何もなかったんだから。
大人になれば誰だってイタズラは卒業するものでしょう? だからマトモになった子を小鳥の憩いの店で雇ったりしてたんだよ。
小さい子はイタズラすることもあるけど本当に最近はみんな大人しかったんだ。
...そうした中で久々に行われた嫌がらせはこの4人だけみたいだ。
顔ぶれを見れば納得。
元々性格が良くない人ばかりのオーク族のオルガとオッズに、気ままな猫族のニャー子にイタズラ精霊のゴブリン。
うん、ニャー子や、お前さんはなぜ参加したし。まぁ「何となく?」って言うんだろうな...
この世界でゴブリンと同じく驚いたのがオークだ。
漫画や小説なんかだと女性を犯して孕ませるモンスターだったけど、ここではエルフやドワーフと同じ人種の一つなんだ。
気性が荒く残虐な人が多くてその...犯罪者も多いみたいだけど、人によっては穏やかな人もいるみたいだよ。
それと驚いたことに殆どのオークって人間とエルフの間にできた子供らしいよ。なんかエルフと人間だと異形が生まれやすいんだって。
だから産まれてすぐ捨てられることが多くて、オークの多くは人間やエルフを恨んでるんだって。
オルガとオッズも人嫌いだし悲しいね。愛した人との子なのに愛せなかったのかな? ...まぁ、愛し合ってたかは分からないけど...
エルフはこの世界でも人間離れした美しさだからね、気を付けないと奴隷にされたりとかそういったこともあるみたい。
リリアーナも人間に捕まったり色々あったみたいだよ。よくは知らないんだけど、だから男なんて大嫌いだって言ってた。
「あなた達はなぜこんなことをするの! オルガはもう12歳でしょう、なぜ弟のオッズを叱らないの! ニャー子もゴブリンもよ!」
「だって...美香の泣き顔見るとゾクゾクするんだもの」
「だってさ、あの顔見ると笑えるじゃん!」
「え~、まぁにゃんとなく?」
「ケタケタケタ」
「笑いごとじゃありません!」
先生に怒られたみんなはシュンとしつつ口々に言い訳を言う。
オルガ(女)の言葉に鳥肌が立ち、オッズ(男)の言葉にイラッとし、ニャー子(女)の言葉に脱力した。
シュンとしていたはずがニャー子の言葉に笑い始めたゴブリンは、先生に怒られまたシュンとした。
頼りになる院長先生を見てるとこの世界でお世話になった老夫婦を思い出す。
また近いうちに会いに行こうかな? などとちょっと現実逃避 。
それから先生による説教がはじまり、私は先生に言われ孤児院の中に入った。
すぐにリリアーナが抱き締めてきて「美香が殺されちゃうかと思った」となんともオーバーな言葉に驚いた。
ミリアなんて「あいつらにはどんなお仕置きが必要かしら」なんて黒く笑っていて恐かった。
その後院長先生にお土産のマジック鞄やココアの入ったマジックピッチャー(魔力式)などを渡した。
今日私に意地悪した子達にはあげないように頼むと、4人は「ごめんよ美香ー!」「もう2度としないから~」「ニャー」「ココア、飲ミタイ...」と、私の足にすがり付いて必死に懇願してきたが、笑顔のミリアに蹴り飛ばされ庭の木にまた吊るされていた。
ミ、ミリアさん、あなた恐過ぎやしませんか?
ゴブリンとオークをネットで調べてみると日本人がよく使うエロキャラと違ってて驚きました。
悪魔がヤギなのといい某宗教って恐いですね...