表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
まず絶望ありき。ゆるい暮らしがしたいのですが魔王になるって本当ですか?  作者: 10MA


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/11

002 折れて捨てた心と剣

それから6年の月日が流れ、少女は驚くほどに成長した。

身長が伸びた事はもちろんだが、肌はまるで陶器のようで、銀髪が流れるように美しい。涼やかな目に、長い睫毛と、通った鼻筋。あらゆる部分の形が良く、正確な位置にある。まるで触れれば壊れてしまいそうな、精巧な彫刻のようだった。

外套で身を包み、隠れているが、女性らしくなった体のラインは年相応ではなく、むしろ完成されていると言える。


町を目指して歩いていた。最後に屋根と壁が揃った場所で眠ったのは3日も前だ。

しかし少女は隣を歩く男と共に居られるだけで、全く苦にはならない。

それどころか、いくら便利でも人の多い町はいつまで経っても好きにはなれない。


「あ、タケル様。町が見えてきましたよ」

「おー、やっとかあ!途中で迷ってたよな?町で地図見た時は3日も歩くほど離れて見えなかったもんな?」

「意外と近かったですよね。もう少し町の外でゆっくり過ごしても良かったですねー」

「え、ちゃんと会話繋がってる?ていうかわざと時間かけた?おーいアリィ」


あの時、あの忌まわしき村から救ってくれた青年は、美しく育った少女に『タケル様』と呼ばれている。

何度『様』はいらないと言っても聞き入れてもらえないので諦めた。

青年も同じように年月を過ごしたはずだが、容姿はあの時とほとんど変わっていないように見える。

黒い髪に、歳の割に若い顔立ち。

金属製の鎧は重いからと身に付けなくなった。


タケルは転生者だった。

16歳の誕生日、この世界の荒廃した石造りの神殿で目を覚ました。

神らしき者の導きも、自分だけに浮かびあがるステータスウインドウも無いまま、何も分からず途方に暮れた。

そして神殿を出るとすぐに見た事もない獣に襲われる。

獅子の顔に熊のような巨躯を持ち、大きな翼が生えている。故郷である日本の動物園で見たライオンの倍は大きい。

死角から襲い掛かられ、馬乗りにされて「死んだ」と思ったが、無我夢中で体を動かすと偶然当たった拳に獣は大きく吹っ飛び、ピクリとも動かなくなった。

そこで大きな力が備わっている事に気付いた。


その後、当てもなく世界を彷徨っては、訪れた町が獣に困っていると、それを退治しては生きるために必要な金を得た。

他の村でもそんな話は度々耳にした。魔物がいるこの世界だが、それに対抗する力が全員に備わっているわけではない。一部の戦士や魔法使いによって人々の生活は守られていた。

タケルはこれこそが自分の使命だと信じ、大いに力を振るった。

人を助け、魔物を討ち、時には魔族も討った。盗賊をした人間も討った。いつか勇者になれると信じて。


しかし、ある時は人々に持て(はや)され、ある時には(さげす)まされた。

英雄。

人殺し。

恩人。

悪魔。

人々は好き勝手に、都合の良いように、善としても悪としてもタケルの存在を定義付けた。

生き物を殺す罪悪感に(さいな)まれた日々もあったが、時間は戻らない。もうこの生き方しかできない。勇者になるのだ。勇者になって一人ぼっちになってしまったこの世界で自分の存在を刻むのだ。


使命も見つからず、慣れなかった戦いに全身浸かり、心身共に疲弊した暮らしが一年以上続いた。


ある村で依頼を受けた。内容は少女の搬送で、村から見える一番高い山へ連れて行き、血を捧げる。

そのために囚われていたのは魔族の少女。数日後には何かよくない信仰の生贄として、その命を奪われる。


「恐ろしい魔族だ。神に捧げるしか使い道はない。このために5年間熟成させた」


村長は笑顔でそう言って、タケルに小さな窓からその少女を見せた。

恐ろしい魔族と称された少女は汚れ、痩せ細っている。部屋から漂う悪臭は、積み重ねられた生活環境の悪さをこれでもかと物語っていた。


これを5年間もとは正気の沙汰ではない。

こんな理不尽があってたまるか。

村人の狂気に、悪意に、目の前の光景に、タケルは思わず嘔吐した。

そして村人に必死に止めるように言った。

人生で初めて地面に(ひたい)(こす)り付け懇願した。

村人はそれでも止まらない。

初めはニコニコと擦り寄ってきた者達が、悪魔だの悪しき者だの人殺しだのと、恐ろしい剣幕でありとあらゆる罵詈雑言を投げかけて来た。

恐ろしい事に村人全員がそうだった。少女を生贄にして自分達だけが生き残れば良いと思っている。

しかも他人の命を捧げると言うのに、その根拠はない。ただの迷信にだ。


そして心が折れた。自分は勇者では無かったのだ。


たとえ迷信ではなかったとしても、あの少女を切り捨て、大勢が助かる道なんて選べない。


タケルは剣を抜き、その村を丸ごと滅ぼした。

不思議な事に罪悪感は無かった。


その少女を抱き抱えて村を出る。子育ての経験なんてあるわけの無い、不慣れなタケルにも少女は一生懸命に付いてきてくれた。

いつの間にか、様々な表情を見せてくれるようになったその存在を愛おしく思うようになった。


ある日、少女が名前を欲しがった。

顔をじっと見て似合いそうな名前を考えた。瞳が太陽の光を受けると、色を変えて輝いて美しい。

一時期ハマっていたゲームに出てくる宝石から連想して、アレクサンドリアと名付けた。結局略してアリィとばかり呼んでいる。

少女はその名前を気に入ってくれた。

改めて呼ぶと、はにかみながらも幸せそうな笑顔を見せてくれた。あの時の光景は忘れられない。

勇者にはなれないが、この子のためにもう少し頑張ろうと思えた。


そうして今に至る。あまりに立派に育った少女。

この歳で子育てしたにしては立派にやり遂げたのでは無いのだろうか。

もう頑張る必要は無いのではないか。

そろそろ独り立ちさせたいのだが、当の本人に全くその気が無い。どうしたものか。

考え方もすっかり大人になり、人間にも魔族にも良い者も、悪い者もいる、種族では無く個人なのだと割り切ってくれるようにはなった。

おかげで町にも普通に滞在して、様々な依頼を受けて生活できるようになった。

しかしタケル以外の人間には一切懐く様子が無い。そもそも興味が無い。


「う〜ん・・・」


思わず唸り声が出るほどに考え込み、気付くとアリィの横顔をじっと見つめてしまっていた。


「な、なんですかそんなに見つめて」


アリィは頬を赤くして、髪が乱れていないかと手で頭を撫で付けている。もう何年も生活を共にしているというのに、いつまでたっても反応が初々しい。


「いや、大人になったなあって」

「はい!タケル様の横に立っても恥ずかしくないレディになりました!」

「じゃあそろそろ次の依頼は俺抜きで、1人でやってみるか」

「すみませんアリィはまだ子供でした!無理です!」

「はぁぁぁぁ・・・」


大きな溜め息をこれ見よがしにつく。


「え、え?なんですかー!?」


雲ひとつない広い青空に、アリィの声が響いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ