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まず絶望ありき。ゆるい暮らしがしたいのですが魔王になるって本当ですか?  作者: 10MA


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011ゴブリン戦

翌日、町の出入口でスフィアと落ち合う。

天気は良いとは言えず、黒くて厚い雲が、空を低くしてしまっている。


「雨、降らなければいいわね」

「私は青空が好きですねー。これ加護で何とかなりませんか?」

「あなた神のご加護を何だと思ってるのよ!」

「まあまあ。早く出発しよう。というか馬車とか使わないのか?」

「なるべく最短距離で行くわ。町には最低限しか寄らない。道の無い場所も通るから馬車じゃ無理なのよ」


勇者ともなると、国から賜った豪華な装備で旅をするものだと思っていたが、どうやら違うらしい。

スフィアはワイバーンの戦いでも身に付けていた装備そのままの姿に、大きなリュックを背負っているだけだ。


「山や森を突っ切って行った方が、意外と馬より早いわよ?」

「この脳筋がぁー。体力が計算に入ってないじゃないか」

「う、うるさいわねっ!そんな軟弱な事言ってないで行くわよ!」

「タケル様、疲れたらいつでも私が背負いますからね!」


先導するスフィアに付いて行くと、早々に街道を逸れて、背の高い木々の群れへと突き進んで行く。

ただでさえ薄暗い曇り空のうえ、葉の生い茂った森に入ったものだから、まだ朝とは思えない暗さだった。

湿度も高く、肌にまとわりつく様な空気が不愉快である。

気温はそれほど高くないが、動くとすぐに汗ばんでくるようだ。

木の幹の間を縫うように歩いて行く。

当然道と呼べるものは無く、肩を並べて仲良く歩くような真似はできず、縦に並んで進むしかない。 

スフィア、アリィ、タケルの順で進むが、スフィアが先導する以外に、この順番に意味は無い。


もう何時間歩いただろうか、先頭のスフィアが前を向いたまま話しかけて来る。


「ねえ、気付いているかしら?」

「魔物か?」

「ええ、5匹くらい付いてきてるわね」


3人の足音に混じり、少し離れたところから枝や葉を踏む音が聞こえる。

その音は少しずつ大きくなっているようだ。

近付いてきている。


「やりますか?」

「襲って来たら、やるわ」


逆に言えば、襲って来なければスフィアからは仕掛けないという意思表示でもある。

しかし僅かとはいえ、向けられている気配は殺気以外の何物でも無い。

その足音は早くなる。

もう音が聞こえても構わないと思える距離まで来ているのだろう。


「キィアァァ!」という甲高い声に振り返ると、襲い掛かって来るのはゴブリン。

焦げ茶色の肌に、ボロボロの腰布を巻き、手には棍棒を持っている。

敵は読み通り5体いるが、そのどれも髪はなく、頭皮には血管が浮き出ている。

目は大きく爛々と輝き、口からは涎を撒き散らしていて、とても知性があるとは思えない。


スフィアに向けて2体のゴブリンが同時に襲い掛かる。

木々に囲まれ、剣を振るうには不向きな場だが、すでにその剣は鞘から抜かれていた。

縦に剣を振り下ろし、自分と大差ない身長のゴブリンを一撃で両断。

そしてそのすぐ横を跳んできたゴブリンを、下からの一閃で両断していた。

眉ひとつ動かさず、見事な動きである。


アリィを狙った2体もすでに事切れていた。

足元から真っ直ぐに地面が凍り、少し離れた位置のゴブリンに伸びている。

その先は二本の巨大な氷柱となり、それぞれ串刺しにしていた。

流れる紫色の血が、氷の柱を伝って流れている。


残るは1体は、群れの中で特別に知性があるわけでは無かった。

一歩、たった一歩出遅れたために、狩りに挑んだ4体の同族が一瞬にして狩られた。

彼にプライドは無い。

あるのは生きる本能だけだ。

仲間を呼んでこなくては、こいつらを狩るにはもっと数がいる。

その身を翻し、駆ける。

目の前に広がるのは薄暗い森と、枯れ葉に覆われた地面。そしてそこから伸びる大木。

数歩踏み出した所で視界が揺れ、気付くと空を見上げていた。

枝の隙間から見える空は狭く、薄暗い。

手足を動かしているつもりが、体の感覚が全く無い。

周囲を見回そうにも、顔も、首も動かない。

それもそのはず。彼の頭は、胴と離れて地面に落ちていた。

そして間も無く、その意識も夢へと還る。


「今何したの?ゴブリンの頭が飛んだのだけれど」

「石を投げたら首に当たった」

「はぁー?石ぃ?どんな馬鹿力よ!」

「ふふん、タケル様はすごいのですよ」

「な、なんなのよその力・・・」


自分の方がよほど卓越した技を見せたはずなのに、目を見開くスフィアと、なぜか自慢げなアリィ。

タケルが言うように、ただ石を投げただけだ。

だがその石は、大口径のライフルから放たれた銃弾に匹敵する威力で、ゴブリンの体を破壊する。

投げた石は、更に2本の木の幹に穴を開け、3本目の木にめり込むようにしてようやく止まっている。

魔力も、加護も、特別なスキルも持ち得ないタケルの力。


「俺の力はな、なんか強い」

「なにそのフワッとした感じ!魔力?加護でもないのよね?」

「俺にも分からない。なんか強い。フィジカルが全体的に」

「よくそれで人を脳筋なんて言ったものねぇ!?この人間サイクロプス!」

「本当に分からないんだって、起きたらこうなってたんだから」


自分が転生者だと言う事を言うわけにはいかなかった。

スフィアの人柄は信用できる。

しかし、自分でもよく分からないこの状況を、他人に納得してもらうように説明するのは難しい。

しかしスフィアも何かを察したのか、それ以上の追求は無かった。

再び方向を確認し、足を踏み出す。


「まぁいいわ。タケルも戦えるってのは間違いないようだし。そもそも弱いとは思ってなかったけどね」


振り返らずに話すその背中に、返事を返す。


「すごいな、俺って大体なめられがちなのに」

「魔力も無いし、武器も持たないからでしょ?でもその自信や、私やアリィの力を見る態度で分かるわ。あなたは自分の強さを自覚しているものね」

「んふふ、タケル様の強さを理解できるなんて、スフィアさんもなかなかやりますねえ」

「初めてアリィに褒められた気がするのだわ・・・」


その後も弱小魔物に度々襲われながらも、問題なく歩みを進める。

小降りではあるが、雨が降って来たので早めに休息を取る。

一日目の宿は岩に囲まれた洞窟だったが、文句を言うような面々では無い。

中は十分に広かったが、あまり奥に行くと何があるか分からない。

入り口近くで焚き火を作り、(まき)の弾ける音と、雨の音を聞きながら、岩に腰掛けて固いパンを頬張る。

スフィアはパンを片手に、地図を広げて現在地を確認しているようだ。

森と山、沼や池、たまに町があるような変わり映えのない景色で、現在地を表示する機能のあるはずの無い紙から現在地を理解するなんて、タケルにとっては至難の業だった。


「わかるのか?」

「わかるわよ。それに加護を使ってるわ。目的地の方向だけはなんとなく分かるのよ」

「え、そうだったのか。便利だな加護」

「本当ですね。旅の必需品って感じです」


スフィアはため息を吐き、顔を上げる。


「だからそんな便利アイテムみたいに言わないで欲しいのだわ。加護はね、人の暮らしを豊かにするために神が与えて下さる力なの。だから貴女が言う『便利な』物が多いわ。何か探したり、身を守ったり、癒したりね」

「確かに魔法はほぼ攻撃全振りだもんな」

「魔法は魔族が長い年月をかけて、戦いの歴史の中で磨かれて来た技術ですもの」


今から向かうのは、そんな戦いの歴史を持つ国。

人間の国では何度も魔族を見ているが、その本拠地で自分達の力はどの程度通じるのだろうか。

もしかしたら、この数年にわたる旅が終わるかも知れない。


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