弱き者……
古びた一軒の商店の中、ナポレオンフィッシュのような瘤を有した老人が、部屋の隅へと追い詰められていた。
「こ……、この武器を売ることは、女王様によって禁じられているのです。私が売ったとバレれば、絶海の孤島へ流されてしまうでしょう。事によると、暗殺者が派遣されてくるかもしれない」
「大丈夫、その女王というのは私が倒すことになってるから」
「そんな、恐れ多いこと —— ひえっ」
憂花の左手が、左側の壁を突く。「生きるか ——」
「ひ……」
「—— 死ぬか」—— 右手が、右側の壁を突いた。
哀れな老人は逃げ場を失い、ひざまずくスペースさえ残されてはいなかった。
—— チャリ —— と音がし、老人の手へと黄金が渡る。
「……わかりました。それでは……」
—— ダン —— チャリン…… ——
自らの売った銃の一撃で、店主は倒れた。
憂花は熱くなった銃口に息を吹きかけると、
「弱き者、あんたを『悪』と名付けよう」
そうつぶやいて、店を後にした。
***
「ってさ、やっぱりキャラ変わりすぎじゃあない?」
いつの間にか復活して主人の肩の上へと返り咲いた笑う蜘蛛が言う。
「いいじゃない、これはゲームなんだから。ね、最高でしょ、勇者を演じながら悪いこともできるって」
「そのうち、夢と現実との区別がつかなくなるよ」
「大丈夫よ、私は」
「現実に現れちゃっても知らないよ」
「なにがよ」
「ほら、僕とか。……なにきょとんとしてるの?」
「あなただったら……」
ニタリ、と憂花は笑った。
「現実で踏みつぶしちゃってもかまわないわね」
「……」
それからまた、何食わぬ顔で歩き出す。
「三日天下ならぬ、三日リアルってとこかしらね」
「ナポレオンは百日だよ、せめてそのくらいは生かしてよ」
「蜘蛛のくせに?」
「ひどいなあ、もう」
笑う蜘蛛は、ニタリと笑った。
こうして、ふたりの旅はつづくのである。——