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4

屋敷に戻ると、私は興奮を隠しきれず、書斎に飛び込みました。

まるであの学校の少女たちのようだわ、照れるわね。


「奥様!」


机で必死に筆を走らせている奥様が顔をあげます。


奥様は、既に証言を書面化するという作業を進めていました。その横に小さなデスクを持ち込んで、バートさんが、奥様の作っている書類を複写しています。


「何か収穫があったようね、先生。」


「はい。リリアさんのクラスメートに聞いたところ、面白いことがわかりました!階段から落ちた翌日に、ロヴィーナさんが、リリアさんのクラスメートたちに、リリアさんが学校に来た時間を聞きまわっていたというんです!!」


あ、いかんいかん、興奮のあまり要領を得ない報告になってしまいました。


「コホン、すみません・・・つまり・・・」


しかし、奥様にはすぐに理解します。


「先生、素晴らしいわ!つまりロヴィーナ嬢は、階段から落ちた時のリリアのアリバイを探っていたのね?」


鋭い。今日何度目かの、「こんな人だっけ?」が頭をよぎります。


「ええ、その通りです。事件が起きた翌日に、リリアさんが学校に来た時間を聞きまわっていたそうです。」


ふふっと、微笑んだ奥様。


「日にちに間違いはない?」


「はい。証言した生徒さんは、『1日前に怪我をしたばかりなのに、あまり足を引きずってないな』と、思ったとはっきりおっしゃってくれました。」


「その証言は取れるの?」


「はい、クラスメートが二人、証言するとおっしゃってくれました。」


奥様の笑顔は、顔いっぱいに広がっています。


「いいわね。使えるわ。ロヴィーナ嬢を引っ掛けて、自白させる材料が欲しかったのよね。これなら絶対あの子を嵌められるわ。」


・・・なんか恐ろしいセリフを聞いたような気がします。


「さて、作業にとりかかりましょう。新たな証言も書類にしないとね。」


奥様は、また、書類作りにとりかかります。


「それに、引っ掛けるなら、大掛かりなプレゼンテーションをしないとね。そうだわ、パワポ、じゃない、スプレッドシートを作りましょう。」


「??」


奥様は、訝しがる私とバートさんに、ニヤリと、凄みのある笑顔を送ってきます。


母親とはそういうものなのかしら?子供たちの危機には、牙を剝いて立ち上がる、そんな怖さを持っているものなの?


私は、首を振りふり、奥様の作った書類を手書きで模写し始めました。





スプレッドシートをニヤニヤしながら眺めている奥様をそっと見やります。


何が取り憑いたらこうなるのかしら?子持ちの母グマ?


「先生、大丈夫。やれるわ。」


二日の徹夜で、私は、目がしょぼしょぼしていますが、奥様の自信を見て、落ち着きました。





ガラ、ガラ、ガラ。


当初の予定通りお呼びがかかりました。私は、王宮の侍従と一緒に、黒板を押しながら、婚約破棄の審査をされている謁見室に移動します。


部屋に入って顔を上げると、緊張した面持ちのリリアさんと、その横に立ち、私に向かってちらっと微笑む奥様が見えました。私も奥様に視線を返します。


大丈夫。絶対に大丈夫。奥様は殺ってくれる!


さあ、スタイヴァサントの反撃です。




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― 新着の感想 ―
[一言] 素晴らしかったです。 もっと早くこの作品に出会いたかった。 ページ最後の一文が利いていて、途中で読む手を止められず一気読みしてしまいました。 読み始めた時は、こんなラストになろうとは予想も出…
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