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屋敷に戻ると、私は興奮を隠しきれず、書斎に飛び込みました。
まるであの学校の少女たちのようだわ、照れるわね。
「奥様!」
机で必死に筆を走らせている奥様が顔をあげます。
奥様は、既に証言を書面化するという作業を進めていました。その横に小さなデスクを持ち込んで、バートさんが、奥様の作っている書類を複写しています。
「何か収穫があったようね、先生。」
「はい。リリアさんのクラスメートに聞いたところ、面白いことがわかりました!階段から落ちた翌日に、ロヴィーナさんが、リリアさんのクラスメートたちに、リリアさんが学校に来た時間を聞きまわっていたというんです!!」
あ、いかんいかん、興奮のあまり要領を得ない報告になってしまいました。
「コホン、すみません・・・つまり・・・」
しかし、奥様にはすぐに理解します。
「先生、素晴らしいわ!つまりロヴィーナ嬢は、階段から落ちた時のリリアのアリバイを探っていたのね?」
鋭い。今日何度目かの、「こんな人だっけ?」が頭をよぎります。
「ええ、その通りです。事件が起きた翌日に、リリアさんが学校に来た時間を聞きまわっていたそうです。」
ふふっと、微笑んだ奥様。
「日にちに間違いはない?」
「はい。証言した生徒さんは、『1日前に怪我をしたばかりなのに、あまり足を引きずってないな』と、思ったとはっきりおっしゃってくれました。」
「その証言は取れるの?」
「はい、クラスメートが二人、証言するとおっしゃってくれました。」
奥様の笑顔は、顔いっぱいに広がっています。
「いいわね。使えるわ。ロヴィーナ嬢を引っ掛けて、自白させる材料が欲しかったのよね。これなら絶対あの子を嵌められるわ。」
・・・なんか恐ろしいセリフを聞いたような気がします。
「さて、作業にとりかかりましょう。新たな証言も書類にしないとね。」
奥様は、また、書類作りにとりかかります。
「それに、引っ掛けるなら、大掛かりなプレゼンテーションをしないとね。そうだわ、パワポ、じゃない、スプレッドシートを作りましょう。」
「??」
奥様は、訝しがる私とバートさんに、ニヤリと、凄みのある笑顔を送ってきます。
母親とはそういうものなのかしら?子供たちの危機には、牙を剝いて立ち上がる、そんな怖さを持っているものなの?
私は、首を振りふり、奥様の作った書類を手書きで模写し始めました。
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スプレッドシートをニヤニヤしながら眺めている奥様をそっと見やります。
何が取り憑いたらこうなるのかしら?子持ちの母グマ?
「先生、大丈夫。やれるわ。」
二日の徹夜で、私は、目がしょぼしょぼしていますが、奥様の自信を見て、落ち着きました。
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ガラ、ガラ、ガラ。
当初の予定通りお呼びがかかりました。私は、王宮の侍従と一緒に、黒板を押しながら、婚約破棄の審査をされている謁見室に移動します。
部屋に入って顔を上げると、緊張した面持ちのリリアさんと、その横に立ち、私に向かってちらっと微笑む奥様が見えました。私も奥様に視線を返します。
大丈夫。絶対に大丈夫。奥様は殺ってくれる!
さあ、スタイヴァサントの反撃です。




