56話 桜祭りの終わり
「そろそろお開きだね」
『はーい』
時刻は15時過ぎ。
は?15時?まだまだこれからでしょ、とか思うでしょ?
甘い、甘いよ。ハチミツより甘いよ。
いいかい?
ゆうて今、春。夏じゃあないんだよ。で、ここって東北なのよ。寒いんよ。普通に寒いんよ。いくら子供の体温が高いつったって、流石にお昼辺りから既に4時間は外にいるんですよ。で、してることっていったらそこらの出店で食っちゃ休み、食っちゃちょっとしたアトラクションを見たり体験したり。食っちゃ休み。
ね?こんなん体も冷えてきますわよ。しかも女の子になったからなのかわからないけど、明らかに前よりも寒さに弱くなったのである。前までだったらまだいけるみたいなのが「無理じゃないかな?いや、無理?無理な気がする?あ、無理だわ(確信)」ってなります。女の子は体が冷えやすいのかもしれない。冷え性になるのも女性が多いってどこかで見た気がする。
勿論、寒さだけが理由ではないよ?
……ほんとだよ?琴音ちゃんそんな単純ではないのだよ?
もう一つの理由、それはこの時期だからこその渋滞である。
普段はそんなに込むわけでもないのだけれど、やっぱりこの時期は道路状況の混雑が半端ではない。しかも私やみーちゃんの家は駅裏になり、線路を超える必要があるのだ。線路を超えるためには、そもそも線路を回避しているバイパスを通るか、線路下を通る旧道を通るのだけれど、どちらも結局大通りであったり、国道に繋がる道路なため、どうやっても混雑してしまうのである。
すると、みんなが帰り始めるご飯時は、もう……ね?わかるよね?そういういことよ。
なので地元民達は早めに帰ることが多い。で、早めに帰ることが多いということはそれはそれで混雑するわけで。なので、更に気持ち早めに帰ろうというわけだね。
楽しいことの後片付けというは中々に面倒だ。
始まるまでも確かに面倒だったりすることはあるのだけれど、そこは始まる前、これから楽しいことが待っているというワクワクで乗り切れてしまう。しかし、終わりの後はワクワクするという感情は無いし、これから家帰って更にゴミ捨てとか使ったものをしまったりとか、そういう事後処理を考えるとどうしても億劫になってしまうものである。
そんな訳で絶賛私もその洗礼を受け、今日ももう終わりかーという寂しさとこれからのことを想像しちょっとため息をつきそうになってしまっているのである。
ほら、けーちゃんとよーちゃんを見てみ?手伝うというかもう飽きて各々好きなことしているよ。
いいなぁいいなぁ、私もそっちに混ざりたーい。
けど、理想の姉を目指す私さんだ。ここはその怠惰なる気持ちに蓋をし、体に鞭打ちキビキビと片付けを行うのである。
うぅ、私は立派なお姉ちゃん。立派なお姉ちゃんになるのでこの程度余裕よ!おちゃのこさいさいよ!
私たちはみー様一家と協力しながらテキパキと片付けを終えるとそれぞれの車へ荷物を運んでいく。まだまだ桜祭りは続くし、これから夜桜もあるしと、私たちの周りは未だエンジョイ中である。
人によってはもう帰るんだ?みたいな顔してる人も居るけれどね。
県外から来てる君らとは違うんだわ、私たちは。この町に住んでるんよね。しかもうちも割と好立地というか、自転車で15分くらいあれば来れるんよ、弘前公園。つまり、やろうと思えば毎日桜祭り堪能できるんだわ。そう!限られた時間で楽しまないといけない君たちとは違ってね!!
なんて、謎のマウントを心の中でカマしながら、余裕の表情で進み抜ける。
やれやれ。それにしても本当に人が多い。右も左も前も後ろも人だらけ。思い起こされるのはやっぱり都会の人ゴミ。人ゴミにいい思い出なんて何一つない。窮屈だし、イライラするし。多分私みたいなタイプの人間は不特定多数の集団の中にいるのに適していないのだろう。
さっきもそうだけれど、こう人ゴミの中にいると、自分だけ取り残されているような感覚がするっていうか……。なんだろうね?集団恐怖症とかそういうわけでも無いんだけれど、こう、煩わしいというか?
感覚的なところは表現が難しいのであれだけれど、それ以外のところで言えば、人の排他的なところが垣間見えるのが嫌と言うか。
まぁね?わかるよ?都会の方はさ、みんな時間に追い詰められているし、いろんなところでストレスが掛かってさ、人のことを考える余裕がなくなる感じ。だからこそ、不特定多数の人には思いやれないというのは良くわかる。とある宗教では隣人を愛せと言うけれど、実際はそんなに都合よく隣人を愛すことなんてできない。自分を守るためにも出来る限り関わらないようにしようとする。もっと酷くなると、自分と知り合い以外は人間じゃないので何をしても許されると考えてしまう。
そんな奴いるわけないだろって?
のんのん、世の中そんな奴ばっかだよ。結局は自分が一番だし、他人よりも家族・恋人・友人だし。すり減ってすり減って、そうやって自分自身が削られていけば必要最低限以外は残らなくなる……そういうことだよねぇ。
私もどちらかと言うと隣人を無条件に愛せる人間ではない。わかりやすいのが、この世界で一日数万人という規模で亡くなっているという。それは倫理的に考えればそれは悲しいことであると言えると思う。けれど、私からしたらそれはただの数字でしかない。だって私はその人を知らない。その人を知っている人を知らない。つまり関わりが全くないのだから感情も何も乗ってこない。
これがもし友人の知人が亡くなったとかであれば少しは気の毒に思うかもしれない。それで友人が凄く悲しんでいたら私もきっと悲しくなる。
つまり私は倫理的に欠落している訳ではないと……思うけれど、でも結局世の人間はこんなもんだということだ。少なくとも私は無条件に悲しんでいる人を見たことがない。どこかにはもしかしたらいるかもしれないし、私がたまたま見たことがないだけかもしれないけれどね。
と言うことで何が言いたいのかと言うと、私は人込みが好きでは無いということです。ここ、テストで出るからにぇ~。
と、心の中の不満を再認識しながらも、私たちはようやく人込みを抜け一息をつくことが出来た。混んでるって言ってもそこは弘前公園とその周辺が混んでいるわけで、こうして少し離れて細い道に入っていけば人通りは無くなる。これが田舎です。
「さて、それじゃ今日はありがとうね」
「こっちこそありがとねー。いい場所押さえてくれたりさ」
「まぁうちの旦那の数少ない良いところだからね」
「雪……それは酷んじゃないか?」
うちのままんと雪さんがお礼の言い合いをしているところに、みーちゃんぱぱさんが幸薄そうな顔で反論しに行く。実は今までも居たのだけれど影が薄すぎて大体いないように見えてしまう特殊能力の持ち主である。
実際凄く優しくて家族思いで良いぱぱんなのだけれど、持ち前の影の薄さから良く存在が消えている。可愛そうなのはその家族からも「あれ?居たの?」なんて素で言われていたりするので結構可哀そうな人だ。
因みに成瀬家のみんなはちゃんとみーちゃんぱぱんのこと大好きだし、なんだかんだ雪さんとラブラブで良い家庭環境を築いている。
「いやいや、成瀬パパは全然良いよ。うちの一さんときたらさぁ」
「あー、一さんはねぇ……」
「ん?呼んだか??」
「いや、呼んでないよ」
「あ、そう……気のせいかな……」
「気のせい気のせい」
「いや、一君、気のせいじゃないよ。騙されないで」
今度は内のお父さんが会話に混ざっていくが……混ざれていない。適当にあしらわれてるよ?いいのかそれで。みーちゃんパパが気のせいじゃないよと声を掛けてくれているが、影が薄いせいか、お父さんが鈍すぎるのか全く気付いていない。
おい、それでいいのか。
「琴ちゃん琴ちゃん。今日は楽しかったね!」
そんな風に大人たちの様子を眺めているといつの間にかみーちゃんが隣にいて私の手を両手で握っていた。相変わらず柔らかくて小さなお手手ですね。
「そうだね!なんか久々に桜祭り堪能したって感じ!」
「まぁ桜祭りって年に1回のイベントだしね~。好きな人は何回でも来ると思うけど」
「あはは!そうだね。今はわざわざこっちまで来るのが面倒だけれど……でも高校生になったら帰りに寄っていくとかして、毎日桜祭りになるかもね!」
「確かに!確か工業高校と中央高校だっけ?公園の目の前だもんねぇ~」
「そそ!高校なんてまだ先だけれどね」
そう、高校生になれば、特に今言った高校のどちらかに進学をすれば今言った通り毎日が桜祭りになることは間違いないだろう。前世では工業高校だったけれど、そこは裏門が弘前公園の入り口となっていたので、学校終わりに良く行っていたものである。今生ではどの高校に行くのかはまだ決めてはいないけど、もし叶うならばみーちゃんと同じ高校に入って今と同じように交流できたらな、なんて思ったり。
「来年も」
すると、みーちゃんがキュッと私の手を痛くない程度に強く握り、優しい笑顔をした。
「来年も。ううん、再来年も、その先もこうして一緒に行こうね」
あぁ、眩しい!
と言うか、キュンだよね。こんな美少女が両手で強く手を握って優しい笑顔を向けながら来年もその先も桜祭りに行く予約してくるなんてさ!こんなの愛の告白だよね、もう!本当にみーちゃんはずるいと言うかあざといね☆
「勿論だよ!来年も再来年も、一緒に行こうね!」
そんなの勿論OK以外の何もないが!私もエンジェルスマイル返しちゃう!にぱっ☆
あ、でも内のブラザーズを忘れてもらっては困るなぁ!
「けーちゃん!よーちゃん!」
私は既に車の後部座席で寛いでいるブラザーズの元へ向かい声を掛ける。するとどちらも少し面倒くさそうにご尊顔をこちらへ向ける。
ちょっと、その表情は何よ!と内なる私がムッとするが、まぁまだお姉ちゃん度の合計値が低いからね。まぁこの反応もまだ致し方なし。これからたくさん一緒に過ごすのだから気付いたらお姉ちゃんなしが生きていられない体になっていますよ……ふへへっへへっへへへ……。
「邪悪」
「邪悪???!!」
けーちゃんが眉間のしわを追加しながらボソッと呟く。
邪悪って何!?
私のどこが邪悪だと言うのか!琴音ちゃんはねぇ!聖属性なんですけど?別名光属性とも言うんですけど?多分異世界に転生とか転移したら聖女って呼ばれる部類なんですけど?つまり邪悪とは程遠いはずなんですが!!
「……心でよくないこと考えてそう、そんな気がした」
「そ、そげなことは……ない、と思うよ……?」
うん。ない、ないと思うよ。だって私は弟愛に溢れているだけだからね。邪なことなんて何一つ考えてませんが。
っと、じゃなくて。
「けーちゃんも、よーちゃんもだよ。来年も再来年も一緒に行こうね!」
そう。
みーちゃんとの約束も大事だけれど、けーちゃんとよーちゃんとの約束も大事だ。だって私にとっては大切で大切な姉弟だ。私は彼らに楽しく生きて欲しい。そして大きくなった時にでもいい思い出だったって思ってもらいたい。だから、来年も、再来年も一緒に過ごして欲しい。
よーちゃんは遊び疲れて既にうつらうつらと船を漕ぎながら「わかったー」と気のない返事をしている。
けーちゃんはと言うと怪訝な表情を浮かべている。
「……まぁ考えておく」
相変わらず可愛げのない素っ気ないお返事!だけど知っているよ!君は照屋さんだからね!素直になれないだけだものね!
「へへへ、良かった」
私が例のエンジェルはにかみスマイルを浮かべると案の定顔を赤くしてそっぽを向いてしまった。もう可愛いなぁ。そんなんじゃまた抱き着いて頬ずりしちゃうぞ☆
琴音がけーちゃんとよーちゃんと戯れている時、美鈴は少し離れたところからその様子を見ていた。
その表情は相変わらず優し気な微笑みそのものだが、少し、ほんの少し暗いように見える。そして誰に聞かせるでもなく、小さな声で呟く。
「琴ちゃん……来年も再来年もだけれど、そこで終わりじゃないんだよ。その先だってずっとなのに……。どうして再来年って強調するんだろ」
それはきっと独り言。
質問先の琴音にそれは聞こえていなかった。




