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銀色の旅路――すべてを繋ぎ、愛するための戦記。  作者: 銀のさくら
第五章:完結編「手放す時」
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38/51

第二話「全員集合」

■ 登場キャラクター紹介

【01】いおり

https://mitemin.net/imagemanage/top/icode/1233188/

【02】ゆめ

https://mitemin.net/imagemanage/top/icode/1233190/

【03】ななみ・リリカ

https://mitemin.net/imagemanage/top/icode/1233192/

【04】ユウリ・セシリア

https://mitemin.net/imagemanage/top/icode/1233193/

【05】ステラ

https://mitemin.net/imagemanage/top/icode/1233195/

【06】リナ・ミナ

https://mitemin.net/imagemanage/top/icode/1233196/

【07】レイナ

https://mitemin.net/imagemanage/top/icode/1233197/

【08】カレン

https://mitemin.net/imagemanage/top/icode/1233199/

廃墟の入口は、巨大な獣が口を開いたまま息を潜めているようだった。


いおりはフェスティナレンテの重みを背に受けながら、足を止める。

周囲に滞留する銀色の霧は、ただ濃いだけではない。


触れれば体温まで奪われそうなほど重く、冷たく、白い手袋の布地をじっとりと湿らせていた。


ここが世界のほころびの中心だと、景色そのものが告げている。


「いおり。……誰か来るよ」


隣のゆめが、鋭く鼻先を動かした。


いおりは息を呑む。

ゆめの視線の先、霧の向こうで、何かがゆっくり輪郭を持ち始める。


キィ、キィ――


静寂をひっかくような乾いた金属音。


現れたのは、三輪車を押す黒髪の少女と、その傍らに寄り添う、白い花の髪飾りをつけた少女だった。


見覚えはない。

ないはずなのに。


三輪車を押す少女の、銀色に結晶化した右腕が目に入った瞬間、いおりの左手が手袋の内側で熱を帯びて疼いた。


警戒すべき相手だと頭は告げるのに、胸の奥からせり上がってきたのは、説明のつかない安堵だった。


(どうして……)


懐かしい。

そう感じてしまった自分に、いおりは戸惑う。


さらに別の足音が近づいてきた。

硬い軍靴の音。


霧を割って姿を現したのは、黒髪を風になびかせた眼帯の少女と、落ち着いた旅装の女性。


その眼帯の少女――ユウリと視線が合った瞬間、いおりの意識がぐらりと揺れた。


(知っている)


胸の奥より先に、体がそう思い出す。


(この人の、立ち方を。このまっすぐな目を。どこかで、ずっと前に――)


「……いおりちゃん!」


さらに聞こえた声に、いおりは弾かれたように顔を上げた。


ななみ。そして、リリカ。

その後ろから、村で会ったすずと、お菓子の袋を抱えたもかまで続いてくる。


いおりは、その場に立ち尽くした。


村で「また会おう」と約束したななみたちが、今こうして目の前にいる。

けれどここは、村から遠く離れた、誰も近づかないはずの廃墟だ。


自分たちがここへ来ることは、誰にも話していない。

偶然では片づけられない何かが、確かにこの場に集まり始めていた。


「ななみ、さん……リリカさんも」


声が震えた。


ななみはいおりの前で足を止める。

いつものように背筋は伸びている。


けれど反対の手で押さえ込んだ右手の手袋には、こらえきれない感情が滲んでいた。


その瞳にあるのは執行官の冷静さではない。遠くまで追ってきた者だけが持つ、切実な熱だった。


数か月前、村の広場で見送った背中。

あの日、自分から求めた「また会おう」の約束。


その約束を守るために、この人はどれほどの道を越えてきたのだろう。


本当に、来てくれた。


その事実が、いおりの胸に空いていた場所を、一気に温かく満たしていく。


「……また、来てくれましたね」


ようやく零れた声は、驚きよりも深い安堵に濡れていた。


ななみは一拍だけ黙り、震える右手をさらに強く握り込む。

それから、短く答えた。


「約束でしたから」


ただそれだけの言葉なのに、いおりの胸が痛むほど熱くなる。


隣で、リリカが堪えきれないように一歩踏み出した。


挿絵(By みてみん)


「いおりちゃん、また会いに行きたいって言ったでしょ。……来ちゃいました」


少しだけ笑おうとして、でもうまく笑えない顔のまま続ける。


「場合によっては、無理やりでも連れて帰るつもりだったんですよ?」


冗談めかした調子なのに、目はもう真っ赤だった。


いおりは込み上げるものを隠さず、二人を見つめて微笑む。


「……来てくれるって、思っていました。どこかで、ずっと」


その言葉に、リリカはとうとう視線を逸らして鼻をすすった。


再会の余韻に浸る間もなく、場の空気はさらに大きく混ざり合っていく。

もかは真っ先にゆめのもとへ駆け寄り、ゆめもまた懐かしい気配に目を細めた。


その一方で、いおりの意識は再び、ユウリたちへ引き寄せられる。


次の瞬間。


背のフェスティナレンテが、心臓のように激しく脈打った。


どくん、と響いた震えが骨を伝い、いおりの脳裏へ古い絵画のような光景を次々と焼きつけていく。


散らばっていた色が、一気にひとつへ繋がろうとしていた。


リナの結晶化した腕が見えた瞬間、銀色の糸が宙を走り、世界の綻びを縫い留めていた残像がよぎる。


(……あの日、綻びを縫っていた人だ)


白い花の髪飾りをつけたミナの髪が風に揺れた瞬間、深い場所で眠っていた孤独な少女の横顔が重なった。


(この人と、一緒にいた。……とても、大切な人だった)


落ち着いた旅装を纏うセシリアを見た瞬間には、さらに別の痛みが胸を貫いた。

冷徹な管理者の顔の奥で、娘を救おうと必死に抗っていた、一人の母親の震え。


(……守ってくれた人)


そして最後に、ユウリ。


眼帯の奥に隠された痛み。泥だらけで笑い合った時間。

いつか一緒にピザを食べようと交わした、あまりにもささやかな約束。

それなのに、どうしようもなく眩しかった熱。


(……一緒に、戦っていた)


喉の奥まで熱いものがせり上がってくる。

いおりの瞳に涙の膜が張り、視界が滲んだ。


震える声で、四人へ向けて呟く。


「……知っている」


息を継ぐだけで胸が苦しい。


「私、あなたたちのことを、知っています」


その一言に、ユウリが弾かれたように肩を震わせた。

堪えていた雫が、とうとう瞳から零れる。


挿絵(By みてみん)


「……当たり前よ」


声は掠れていた。


「忘れていたら、承知しなかったんだから」


いつもの強気な言い方なのに、その視線は再会の安堵で激しく揺れている。


泣きそうなのを隠すために睨むような顔まで、どうしようもなく懐かしかった。


リナは静かに、深く頷いた。

ミナは、いおりに向かってそっと頭を下げる。


「あなたたちも……私を、知っているんですね」


問いかけに、セシリアはすぐには答えなかった。


ただ、慈しみと、取り返しのつかなさへの悔いを同時に宿した眼差しで、いおりを見つめる。


その沈黙だけで十分だった。


いおりは左手を胸に当てた。


手袋の下の六本目の指が、仲間たちの集結に呼応するように、かつてないほど激しく疼いている。


それは痛みというより、忘れていた絆が肉体の奥から目覚めていく感覚だった。


いおりの震える声を受け止め、その場にいる全員の間に、言葉にならない感情が走る。


立場も、歩いてきた道も違う。

失ったものも、抱え続けてきた後悔も、それぞれ違う。


それでも今この場には、同じ銀色の霧を切り裂き、いおりを愛してきた者たちにしか分からない震えが満ちていた。


まだ何一つ解決していない。

それなのに、もう背中を預けられると分かってしまう。


十人。


失われた記憶と、手放せなかった痛みを抱えたまま、彼女たちはようやくひとつの場所へ辿り着いた。


その時だった。


ななみの背筋に、鋭いものが走る。

この場所を。いおりを。自分たち全員を。


ずっとどこかから見つめていた、沈黙の観測者の気配。


ななみは弾かれたように、廃墟の巨大な影を振り返った。


「……誰ですか」


問いに応じるように、暗がりから一人の女性が音もなく滑り出してくる。


その場にいる全員が息を詰める。

あたりを静寂が包み込む。


冷たい石のような瞳。

長年たった一人で何かを見張り続けてきた者にしか纏えない、疲弊の匂い。


その女は一同を見据え、わずかに目を細めた。


「……だから近づくなと言ったのに」


諦めと、拒絶と、どこか安堵にも似たものが滲む声だった。


「でも、来ると思っていました」


カレンが、そこに立っていた。


第五章:第二話「全員集合」――完

第三作『銀色の旅路』は完結編です。

キャラクターたちのより深い背景や『アムネシア』での誓いを知ることで、物語をより一層深く味わっていただけるかと思います。


もし彼女たちの過去に興味を持っていただけましたら、第一作『銀色の結晶』、第二作『銀色の産声』も併せて手に取っていただければ幸いです。


■銀色の結晶――さよならを忘れるための、戦記。

https://ncode.syosetu.com/n7557ma/


■銀色の産声――人願で綴る、明日のための戦記。

https://ncode.syosetu.com/n6938mi/


■専用Xアカウント

https://x.com/gin_no_sakura_y?s=21

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