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銀色の旅路――すべてを繋ぎ、愛するための戦記。  作者: 銀のさくら
第四章:リナとミナ「真実の縫い目」
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第五話「縫いに行く」

■ 登場キャラクター紹介

【01】いおり

https://mitemin.net/imagemanage/top/icode/1233188/

【02】ゆめ

https://mitemin.net/imagemanage/top/icode/1233190/

【03】ななみ・リリカ

https://mitemin.net/imagemanage/top/icode/1233192/

【04】ユウリ・セシリア

https://mitemin.net/imagemanage/top/icode/1233193/

【05】ステラ

https://mitemin.net/imagemanage/top/icode/1233195/

【06】リナ・ミナ

https://mitemin.net/imagemanage/top/icode/1233196/

【07】レイナ

https://mitemin.net/imagemanage/top/icode/1233197/

【08】カレン

https://mitemin.net/imagemanage/top/icode/1233199/

夜明け前の荒野は、深い群青色に沈んでいた。

焚き火の跡から立ちのぼる細い煙が、冷え切った空気の中でほどけていく。


世界はまだ青と黒のあわいにあり、遠くの廃墟も、北西に淀む銀色の霧も、輪郭だけをぼんやりと浮かべていた。


ミナは、三輪車の傍らに立つリナの横顔を見ていた。


昨夜、あれほど激しく感情を露わにした少女は、今はもう、いつもの静かな「騎士」の顔に戻っている。


結び直された黒髪が朝の風に揺れ、ハンドルに結ばれたリボンが、小さな旗のように頼りなく、けれど誇らしげに震えていた。


リナは荷台から古びた地図を取り出し、膝の上で丁寧に広げる。

その指先が止まったのは、地図の端に刻まれた「黒い印」の上だった。


かつて一針も通すことができず、ただ「縫えない」という事実だけを記録した場所。

アムネシアの綻びが、今も剥き出しのまま息づいている沈黙の廃墟。


「……行きましょう」


リナの声は、朝の冷気を切るように澄んでいた。


ミナはその横顔を見つめたまま、静かに問う。


「……縫えますか。あそこの綻びを」


リナは地図から手を離し、自分の右腕へそっと触れた。

袖の下には、昨夜ミナに晒したあの銀色の結晶がある。

感覚の失われた、冷たい石の腕。


「今日の私が、そこを縫える確率は分かりません」


答えは、いつも通り正直だった。

慰めのための嘘も、前へ進ませるためだけの虚勢も、彼女は口にしない。


「けれど」


リナは地図を見下ろしたまま続ける。


「行かなければならないと思います。……縫えるかどうかより、今は、そこへ辿り着くことの方が大事な気がするので」


ミナは、その言葉に深く頷いた。


挿絵(By みてみん)


昨夜、自分はようやく知ったのだ。


レイナが最後まで自分を恨まず、むしろ独りにしたことを悔やんでいたことを。


自分が“薬”であったと信じてくれた親友の、その祈りの続きを、目の前の少女が今も抱き続けていることを。


その事実は、長年ミナの足元にこびりついていた罪悪感という泥を、まだ完全ではなくても、少しずつ別のものへ変え始めていた。


罰ではなく、祈りへ。

自己嫌悪ではなく、確かめに行く意志へ。


「一緒に行きます、リナ」


ミナは言った。


「……知っています」


短い返答だった。

けれど拒絶はなく、そこにはすでに当然のような響きがあった。


リナは地図を畳み、ペダルへ足をかける。

ミナが荷台に乗ると、その重みが車体に静かに伝わった。


キィ、キィ。


三輪車の規則正しい音が、まだ眠りきらない荒野を這い始める。

北西の空には、昨日よりも色濃い銀色の霧が立ち込めていた。


世界の境界線がゆっくり溶け、過去と現在が同じ場所で重なり始めているような、不吉で静かな朝だった。


しばらく、二人の間にあるのは金属音だけだった。


けれど、その沈黙はもう、かつての「言えないこと」を抱え込んだ重い沈黙ではない。


互いの傷を知り、その名を呼び合った者同士の、ひどく静かな共有だった。

無理に埋める必要のない、けれど確かに繋がっている沈黙。


「リナ」


三輪車の背中へ向けて、ミナがぽつりと口を開いた。


「何ですか」


リナは前を向いたまま応じる。


「……お母さんの名前を、教えてくれてありがとうございました」


ペダルの速度は変わらない。

キィ、キィ、という音だけが一定の間隔で続く。


リナはすぐには答えなかった。

しばらく風の音に紛れるように考え、それからようやく、静かな声を返す。


「……ミナが、ちゃんと知れて良かったです」


それ以上の言葉は、もう必要なかった。


レイナから受け継いだ一本の針。


それは、綻びを縫うための道具である前に、ミナという孤独を独りにしないための道標だった。


かつてアムネシアに溶けていった数万の少女たち。

彼女たちの記憶は霧となり、この世界を覆い続けている。


誰にも届かなかった「さよなら」は、綻びとなって各地に口を開けたまま残されている。


だからこそ、行かなければならない。

自分たちの足で。自分たちの手で。


リナの右腕の結晶は、昇り始めた朝の光を鈍く弾き続けていた。


痛みの証であり、時間の証でもあるその銀色を隠さぬまま、彼女は真っ直ぐ前を見ている。


ミナはその背中を見つめながら、胸の奥で静かに思った。

もう「逃げてきた」だけでは終わらせたくない、と。


自分の熱が何だったのか。

レイナに何を与え、何を奪ったのか。

この霧の先に何が残っているのか。


それを知るために進むことは、もう罰ではなく、選び取るべき明日なのだと。


キィ、キィ。


三輪車は、重く澱んだ銀色の霧の中へ、迷いなく進んでいく。


母が託し、娘が受け継ぎ、長いあいだ途切れたままだった時間の続きを。


今度こそ、自分たちの手で縫い上げるために。


挿絵(By みてみん)


第四章:第五話「縫いに行く」――完

第三作『銀色の旅路』は完結編です。

キャラクターたちのより深い背景や『アムネシア』での誓いを知ることで、物語をより一層深く味わっていただけるかと思います。


もし彼女たちの過去に興味を持っていただけましたら、第一作『銀色の結晶』、第二作『銀色の産声』も併せて手に取っていただければ幸いです。


■銀色の結晶――さよならを忘れるための、戦記。

https://ncode.syosetu.com/n7557ma/


■銀色の産声――人願で綴る、明日のための戦記。

https://ncode.syosetu.com/n6938mi/


■専用Xアカウント

https://x.com/gin_no_sakura_y?s=21

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