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戦えない母は赤ちゃん抱いて異世界にいた  作者: くじら


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第8話:王都総力、その実態



王都を出発した調査団の空気は、最初から最悪だった。


編成だけを見れば、豪華だ。

騎士団、冒険者、聖教会関係者。

名目上は「王都総力による調査」。


だが、その実態は――。


「はっ、思ったより静かだな」


先頭で馬を進めるのは、若い貴族の騎士だった。

金細工の施された新調されたばかりの剣。

鎧は実戦用というより、式典向けだ。


「チッ……何も出てきやしねぇ。

 せっかく剣を新しくしたってのに」

「坊ちゃま、でも、強い魔物なんかが襲ってでも来ましたらっ....」


「お前は相変わらずのビビリだな....」


しかも何を思ったか従者付き。


戦う訓練すら受けていないと分かる従者を、平然と連れてきていた。


「お前は後方のビビリ共と一緒に居ろ」


その言葉に、後方の冒険者たちが顔をしかめる。


本来なら、調査団の指揮は騎士団長が執るはずだった。

だが今回は違う。


――王命。

――高位貴族の“泊付き”。


肩書きだけを背負った坊ちゃんが、指揮権を握っていた。


「ふん、まぁいい。魔物?上等


 何かあったら――」


貴族の騎士は、ちらりと後方を見る。


「――あの若い冒険者どもが盾にでもなるだろ?」


その一言で、空気が一段、冷えた。


若手冒険者たちは歯を食いしばり、俯く。

本来なら、この調査に参加できる実力ではない。

だが、王族命令で“数合わせ”として動員された者たちだった。


その光景を、黙って見ている男が一人。


犬獣人冒険者――レオ。


彼は必要以上に喋らない。

だが、視線だけは常に動いていた。


(……匂いが、おかしい)


森に入った直後。

そこにあったのは、ただの“森の匂い”だった。


土と木と、湿った空気。

魔の森特有の、濃くて重い匂い。


だが、奥へ進むにつれて――。


(魔物の匂いが、しない)


否。


(奥に進めば進むほど……空気が澄んでるとでも言うべきか)


それだけじゃない。


(……別の匂いが、混じってきている)


説明できない。

だが、どこか懐かしい匂い。


――昔、嗅いだことがある。


思い出そうとするが、霧がかかったように思考が滑る。



調査団は、想定以上に時間をかけて森を進んだ。


名のある冒険者が進んだ場合


本来なら、王都から魔の森中央域付近まで数日。

だが、今回は一週間も掛かっていた。


進路が微妙に逸れる。

風向きが狂う。

道が、気づけば変わっている。


誰も気づかない。

気づいても、「気のせい」で片付ける。


レオだけが理解していた。


(……邪魔されてるな)


それは、調査ーーー三日目のこと。


「おっ、兎じゃねぇか!」


貴族の騎士が、楽しそうな声を上げた。


茂みの陰から、小さな兎が顔を出している。


「まぁ、獲物としては味気ねぇが……

 試し斬りには丁度いい!」


剣を抜いた瞬間。


カンッ――!


乾いた音。


貴族の剣は、レオの爪に弾かれていた。


「……何だてめぇ!」


レオは、低い声で言う。


「この攻撃は、何の為か聞いても?生きるためか?」


「はぁ?」


貴族は鼻で笑った。


「そんなの、俺が楽しみたいからに決まってんだろ!

 邪魔すんな、犬風情が!」


剣先が、レオに向けられる。


「お前が代わりに、試し斬りに付き合うか?」


「生きるためなら止めない。

 だが、無闇矢鱈に攻撃するのは好ましくない」


「はっ!

 たかが兎一匹だろ?」


周囲の貴族たちが、下品に笑う。


「それとも何だ?

 犬は、か弱いウサちゃんが怖いんでちゅか〜?」


レオは、兎を見る。


「……あの兎は子供だ。

 どこかに、親がいる。注意するべきだ....あの兎は....」そこまで言いかけた所で兎がピヨンと跳ねて逃げて行った。


一瞬の沈黙。


「チッ逃げられたじゃねぇか……シラケた」


貴族は剣を収め、吐き捨てる。


「次、邪魔したら――

 お前を剣の錆にしてやる。」


その場は、それで終わった。


冒険者の1人がソッとレオに近付き耳打ちする


「あのボンクラ貴族は命拾いしましたね。.....あの兎の特性を知りもせず....。」


深く頷く冒険者達には気付かず、名ばかりの貴族連中は声を荒らげる。


「おい!!!早く行くぞ!!!遅いヤツは置いていく!!!いいな!!!」



だが。


その、三日後。


「おっ! また兎だ!」


貴族たちは、再び騒ぎ立てた。


普段の魔の森でのその行為は自殺行為だった。


「暇潰しの獲物、発見!」


「誰が一番早く仕留めるか、賭けようぜ!」


「犬、今度は邪魔すんなよ?」


一斉に、駆け出す貴族たち。


後方で、若手冒険者が不安げに呟く。


「……レオさん、止めなくていいんすか?」


レオは、目を伏せた。


「……大丈夫じゃない、だろうな」


「.....アイツら死にますよ?」



遠くで、下品な笑い声を聞きながらレオは深いため息を吐き出す。


「逃げろ逃げろ〜!」

「耳削いで兎鍋にして、犬に食わせようぜ!」

「げぇ〜、兎鍋不味そうじゃねぇ?」


追い詰められた、小さな兎。



だが、追い詰められたのは小さな兎では無く、人間の貴族連中の方だった。

「おっ、逃げるのは終わりか?」


へへっと、下品に笑いながら次々と剣を抜いて行く貴族


だが次の瞬間、ドンッと大きな音が響き渡る。



――地面が、弾け、影が躍る。


小さな兎とは比べ物にならない程の大岩みたいな兎たちが現れる。


真っ赤な瞳に鋭い牙。

硬質な長い爪。

異様な脚力と筋肉質の身体。


魔の森に古くから生息する白悪鬼だった。


幼体の時は可愛らしい見た目の兎だが、成体になるとゴリラ並みの腕力を誇る大型の魔獣


魔の森以外では生きていけず、無闇矢鱈と攻撃しなければ襲っても来ない生物だった。



ただ、この生物は非常に子煩悩で、群れ全体は血縁関係構成されてて、子育ても群れで行う。


ちょっとでも手を出したら群れで襲って来る。


その姿はまさに、白い猛獣。


だが、見た目の割には臆病で草を食べて暮らしてる。


白悪鬼に関しての情報はこの位だろう。


悲鳴が響き渡るのは数秒だった。



貴族たちは、剣や防具を放り出してちりじりに逃げて行く。


そんな事をすれば格好の餌食だろうに。


無様に蹴散らされるのを見ながら、レオは思った。


このまま見捨てる事も可能だ。


だが、そうすると後々面倒で、レオは仕方なく貴族連中と白悪鬼の間に入り交戦することに決めた。



最後の瞬間、レオと冒険者と騎士たちが割って入り命だけは救われた。


「こ、こんな森……居てたまるか!」


震える声。


「俺は戻る! 先に戻らせてもらう!」


貴族たちは、投げ出した武器や防具そっちのけで逃げ帰った。



その貴族連中の背中を見ながらすまなそうに謝る騎士団長。


「すまない.....先程は助かった。」

「あぁ、大丈夫だ」

話す事が苦手なレオは謝られる事も感謝される事も苦手だった。


そんなレオに騎士団長は溜め息を吐き出しながら口を開く。


「すまないが、我々は此処で引き返す事にする」



静まり返る一同。


逃げ帰った貴族連中をほおってはおけないんだろう。


騎士団長も貴族の端くれ。人間と言うのは実に厄介な生き物だとレオはわかってた。


「残りは俺が調査しよう」


そう言いながら一歩、前に出るレオ。


「俺は冒険者だ。冒険者は自由だ。


此処から先は自分で考え行動して欲しい。


帰るのも自由、来るのも自由だ。

 だが、自分の身を守れる者だけだ」


そう言って、歩き出す。


多くの若手冒険者はここで引き返した。


「ここまで来たんだ……もう十分だろ……」


「命が惜しい……」


結局、ついてきたのは一人。


レオと同じ犬族の若手冒険者――ビッツ。


若手だが、実力は折り紙付きだった。


「……レオさん、俺、行きます」


騎士団長が、その背中に頭を下げた。


「……本来、止めるべきは私だった。

 本当に、すまない」


「気にするな」


それだけ言って、レオは森へ入った。



その、更に3日後、レオとビッツは結界の前に来てた。


だがそれ以上、進めず、立ち往生する2人。


見えない壁。


爪で切り裂こうとしても、何度も弾かれる。


しかも――音が、消えた。消えたと言うより吸収された。


「……今の、見たか?」


「は、はい……音、しませんでした……」


その時。


微かに――歌声が響き渡る。


「……今、何か聞こえたか?」



だが、その歌声はとても小さくて、聞き取れない程だった。


「え? いえ、何も……」



聴覚が非常に優れてるレオの耳は正確にその声を拾ってた。



それにーーーと、レオはスンッと1回鼻を鳴らす。


「この匂い....」


「匂い?」

ビッツは訳が分からないと言わんばかりに頭を傾ける。


結界に沿うように移動して行くレオとビッツ


徐々に匂いが、はっきりする。


(……思い出した)


(これは.......精霊の匂いだ)


「レオさん、俺....」


「……シッ」


レオの声に反応する霧が、ふっと晴れた。


そして、拓けた空間。


そこにいたのは――


昼寝する母と、赤ん坊。


「……は?」


ビッツとレオはポカンとしながらそれを見つめる。


「レ、レオさん……


 お、俺、死んでます?


 あれ、幻覚?いや夢?


 そうだ!!!目がおかしいんだ!!!」


ビッツがここまで混乱するのも頷ける事だった。


中心地のその更に先、おそらく結界から先は禁足地。踏み入る者は居ないだろう場所。


入れば命の保証は出来ない、そんな場所だった。


「れ、れれれレオさん!?やっぱ俺の目が悪いんすかね!?彼処に飛んでるのって....せ、精霊!?」


「少し黙れ。

 お前の目は正常だ。そして今お前が見てるのはおそらく精霊で間違いない。俺にも見えてる。」



その声に反応するように


「……ん……」


美和が、ゆっくりと目を開けた。


「ふぁぁ……よく寝た〜」


赤ん坊は、まだ眠っている。


森は、静かだった。


まるで――

この時間を、壊させないとでも言うように。


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