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ミーナ・ファロン物語  作者: オサ
24歳の話
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126 その後

126 その後


イシュア歴397年4月、男子ジグムントを出産したミーナは、夫リヒャルトの即位によって、ドミニオン国王妃ミーナ・アイヒベルガーとしての人生を正式に歩み始めます。しかし、偉大なる人物として歴史に名を刻むことになるミーナは、ミーナ・ファロンと記載されています。

そのため、ミーナが歩んだ人生の中で、王妃以前が重要であると勘違いする人間が多いのですが、間違いなく歴史におけるミーナの役割の重要性を語るのであれば、王妃になってからの人生を語る必要があります。

アイヒベルガーの王家の名乗るようになってからの人生が重要であるのに、ミーナ・ファロンの名前が広く知られている理由は、歴史上の大きな功績を為したのは、ミーナだけだからではありません。


長男リースは、イシュア国貴族議会の代表として、王家、宰相家、貴族議会という3つの国家の軸を確立させる事に尽力します。国王の専制的な権力によって成立していた国を、議会政治へと変革させた功績から、後世議会政治の父と呼ばれるようになります。民主主義政治への第一歩となる議会勢力を育てた尽力は、貴族としての地位を失う危険を理解しながらも、民衆に政治参加への道を開いたものとして語られます。

 大陸全体に新しい政治体制を導入したファロン家の長兄こそ、世界最高の政治家であると民主主義政治の時代の歴史家からは、絶大な評価を得ています。ただ、兄として3人の弟妹を支えただけであり、暴走しがちな3人を宥めている間に、落ち着いた先が、議会政治の確立であったことは、後世の歴史家には想像もできない事です。


 次男バルドは、大陸にある3国における法典の基礎を作った法律家として高名な人間です。三国が安定的な発展を実現するための土台として、法典と呼ばれる後の世の憲法を作った事は、法治国家の始まりです。法治国家の祖、憲法の祖とも呼ばれる彼の業績が永遠に語られるべきだと、全ての時代の法律家から、同じような評価を受けています。

イシュア大陸の外に複数の大陸、国家が存在している事に気付いてから始まった大航海戦争の中、海外国家の中には、苛烈な身分制度によって国民を縛っている国がいくつか存在しています。それらの国との戦争に勝利した結果、新領地を統治する事になったイシュア諸国連合は、そこに住む人々の思考そのものを変える必要があり、そのために住民の権利を徹底的に守るための特別法典を作ります。

そして、その法典の内容が、新大陸の奴隷階級や下位階級の人々の救済であったため、イシュア諸国連合は、新大陸における解放者として勢力を広める事に成功します。この勝利を決めた法典は、実は過激すぎるため諸国連合では使う事はないとバルド自らが封印していた内容で、彼が生きている間は本国では採用されていません。軍略の1つとして広まった法典の内容は、あまりにも革新的すぎるため、後世の法律家からは未来から過去に時渡りを行った人間が書いた物であると言う荒唐無稽な話を、一定の割合の人間に信じされています。

若かりし頃に作った法典のできの良さから、中年期には仕事がなくなったバルドは、架空の国における架空の法典を作る遊びに熱中する事になり、その時に作られた法典が、今の世界の憲法の原案となっています。


次女エリカティーナは、ジフォス精霊教の教祖として大陸の宗教勢力を1つにまとめることに成功します。この事によって、宗教的な安定を大陸にもたらしますが、大きな問題が発生します。エリカティーナが手にしている権力が、各国の王権を上回りそうなります。法典によって王権に制限がかかる中、信仰心という制限のかからない物によって、ジフォス精霊教は、勢力を伸ばしていきます。

元が唯一神ヴェグラを戴いた宗教であったため、ヴェグラの代理としてジフォス精霊が看板となった新たな宗教勢力は、どんどん大きくなると同時に、各地の宗教指導者達を増長させます。いくつかのありえない犯罪の情報に触れたジフォス精霊の化身は、静かに激怒すると、宗教勢力を自ら分裂させていきます。

唯一神ヴェグラを人が語ってはいけないとして、信仰の対象から外します。教会にあったヴェグラ神の偶像を全て廃棄させた上で、ドミニオン国の5精霊を、5人の神として、人々にはどれかを祀る事を選ばせます。無理やり5つの対立軸を作ると同時に、フェレール国の複数の天使たちも、それぞれ神へと昇格させます。イシュア国においては、魔石を信仰対象とした新宗教を立ち上げさせます。民間でも、数多くの新興宗教の勃興が始まります。

次女が宗教の祖と呼ばれるのは、一神教を多神教化に成功したからです。海外勢力との戦いの中でも、多神教である事の利点を生かして、海外宗教をどんどん取り込むことに成功します。その結果、宗教殲滅戦争は一切起こる事はなく、この時代のまともな思想を伝える宗教のほとんどが歴史から消える事がなく、後世に伝わります。


 ミーナの兄達と妹の業績が大きいため、ファロン家の名を残さない訳にはいかないという配慮から、ミーナの姓からファロンを消す事ができなくなります。王家の姓であるアイヒベルガーが括弧付きになる事に、異議を唱える歴史家はいません。ミーナが王妃として行った事績がどれだけ偉大であっても、ファロンを歴史から消す事はできません。

 彼女の事績は、ミーナの名前に背負ってもらうというのが後世歴史家の共通認識になっています。


 魔石産業革命。


 王妃になってからの30年間で、ミーナが成した業績はこの一言で語る事ができます。魔石の秘密が解明させる事になる魔石技術(魔力)革命の200年程前に発生した魔石産業革命は、魔石の各種エネルギーを産業の発展に活かした活動全体を言います。それまで、オズボーン公爵家で管理していた超魔石は、研究資料としても、商品としても市場にも出回わっていません。

この状況を変えたのが、王妃となったミーナです。公爵家の上の地位を得た彼女が、魔石の研究と商業利用を掲げて公爵家から持ち出した魔石は、全体の50分の1を超えませんが、エネルギー量に換算すると、当時の世界のエネルギー消費量の40年分に該当します。

この膨大なエネルギーを利用して、資金を稼ぐと同時に、様々な投資を行います。様々な技術や物品が開発されます。この発展によって、他の大陸の国家との技術力の差が一気に埋まります。イシュア諸国連合と他大陸の覇権国家が、ほぼ同時期に大陸間移動を可能とする船舶の開発に成功した事は、イシュア諸国連合にとっては僥倖です。ミーナの主導する魔石事業の発展が10年遅れていたら、大陸は侵略国家に荒らされていました。20年遅れていたら奴隷大陸になっていたとの評価は、ほとんどの歴史者の共通認識になっています。

様々な仮説を作り出す歴史達が口を揃えて言うのは、この時期の技術発展の経緯に関する詳細な資料があるからです。

そして、その資料を分析した結果、他の大陸とほぼ同じ技術水準を手にしたイシュア諸国連合は、この時代においては破格の効率性を持っている魔石を所有しています。この技術的な背景を作り、この世界を主導する国がイシュア諸国連合となったのは、ミーナ・ファロンが主導した魔石産業革命が起こったからです。


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