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異端兄妹は日常に戻りたい  作者: 幽猫
second chapter アビリティ・ウォー

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69章 岩石の巨人

 「え……」


 繭愛の歩みが止まる。


 否定されるとは思っていなかったのだろう、その場で急停止した。


 降りかかる拳をサイドステップでかわし、後退してから、覚羅は繭愛に下がるようにいった。


 「相性の問題だ。天聖、お前は下がってろ」


 「でも、わたしまだ……」


 「ヤツが出てきたのはお前の成果だ。それに、能力の相性ってのがあるだろ?」


 「ん……」


 石系統は水や金属と違い、電気を流さない絶縁体である。ゴム手袋をつけなければいけないアマゾンの電気ウナギのような発電器官を持つ生き物を触れるときには必ず推奨される。


 スタンガンの例もあるが、あたりどころが悪ければ感電死する危険もあるのが電気。繭愛の能力を加味すると、効き目が薄いと考えられる。


 迷いがふり払えないのか、曖昧な表情の繭愛を無視して、岩石が抑揚のない、低い声をあげた。


 「最初にいっておくけど、あちしはオトコでもオンナでも容赦はしないわよん」


 クラウチングスタートの体勢をとったゴーレムもどきが、まるでリレー選手のような勢いで駆け出した。振動によって空気に響く地鳴りは次第に重さを増し、ぐんぐんと近づいてくる。


 「ちっ……!待てっての」


 覚羅は舌打ちしてきっと睨みつけると、巨人の前に仁王立ちに立ち塞がった。自分より一回りも二回りも大きく体格差が離れているにもかかわらず、突進を堰き止めてみせる。


 急ブレーキをかけた車がそうなるように、受け止めた際に突き飛ばすような衝撃が襲いかかる。けれど、橋を繋ぐようにかけた手は落ちることを知らない。力と力、馬力勝負に持ち込んだ。


 「っ……」


 「あらら。アナタ、なかなかやるわね。でも力比べてはあちしも負けないわよぉー♡」


 覚羅もこれ以上《武闘王》に頼るわけにもいかない。身体能力を強化するとはいっても、元になるのは己の身一つなのだから。急激に無理やり力を引き上げれば、今度は覚羅の身体自体がもたなくなる。


 岩の巨人が生み出す馬力は想像以上で、人のそれをはるかに上回っている。今はまだ拮抗しているが、持ち堪えられるかは微妙といったところだ。


 ーーまだ、上げるか?


 脳裏にそんな言葉が浮かび上がる。やれなくはないことも、わかっていた。他の強化系統と違って、《武闘王》は自分で自分の()()()()()()()()()()。二倍を三倍にすることも、五倍を十倍にすることも、できる。


 しかし、さっきから身体が悲鳴をあげているのを覚羅はひしひしと感じていた。なにせこの能力を手にしてからまだ二日と経っていないのだ。回りの人間を見ても、振り回されるか条件がつくか。慣れていない今の覚羅ではぎりぎりの強化倍率しか出せない。

 

 「ラブ、あ〜んど、ピース!」


 ぐん、と上から押しつぶすように圧力が強くなった。掛け声の効果か知らないが、かけられる負荷がどんどん重くなっていく。収集車に圧縮されてコンパクトになった可燃ゴミの過程を思い起こした。


 「て……めぇ……が、調子、のんな……!」

 

 肉という肉がみしみしと悲鳴をあげ、額からはとめどなく汗が噴き出す。どうやら、能力で強化していた反動の()()が来てしまったらしい。


 だが、ここで素直にやられてくれるほど、覚羅は優しい人間じゃない。()()()()()()()なんて、とっくの昔に捨てたものだ。自分の目にかかった、守れるものだけをかばってやると。そう、決めた。


 つるむなんてガラにもないことをするハメになったが、どうせ賑やかなら五月蝿いくらいがちょうどいい。孤高の餓狼でいるよりか、バカ共とバカをやるほうが気がまぎれる。


 覚羅もまた、家族を失くした人間だったーー。




 「お兄さん……」


 ほとばしる青電を地面に拡散させながら、繭愛は組み合う覚羅の様子を後ろから見ていた。


 本当なら加勢するべきなのだが、半端に手伝うということは逆に邪魔してしまいかねないだろう。それに、繭愛の能力が相性不利という事実は変わらない。


 今こうして放電しているように、岩に電撃をぶつけても飛散して消えてしまう。電子を操る能力の繭愛では、横槍を入れる術がない。


 もう()()を使うことも考えたが、そもそもやりかたが分からない。数学の答え合わせの際に、途中式の解説がない模範解答みたいなものだ。結果(リザルト)がわかっても経緯(プロセス)が空白では、起動(スタート)することができない。


 (おにぃが……いて、くれたら……)


 繭愛は焦がれるような思いで、切に欲した。


 梶樹が隣にいればまだ脱出のチャンスはあったろう。それに暗夜航路を辿る自分に、なにがしかの道標をくれたかもしれない。


 いつもいつも、梶樹は繭愛に教えてくれた。あれはこうだよ、これはそうだよ、と。星座、花言葉、勉強、運動、ゲーム……挙げればキリがないが、足りない部分は常に補いあって過ごしてきた。それがほんのニ、三時間とはいえ側にないことにひどく不安を覚えた。


 巨大な岩石の人型に押される覚羅を、なんとかしてフォローできないかと考える。


 「岩……絶、縁体……わたしの……ちからは……」


 繭愛のなかで、ひとつひとつが数珠繋ぎのように重なっていく。情報を見分けるのはとても大切なことだ。見えているものと見えていないもの……知っていること、知らないこと。それらは決して同じルートを辿ることはない。


 たとえ遠回りしたとしても、行き着く先は同じでもあれば、全く異なる道に出ることもある。要は()()なのだ。


 全てが一本の紐を通して繋がったとき、繭愛に一筋の光が差し込み、なにかがスパークした。


 雷、電撃、そうではない。もっと、別のやりかたはある。電磁波を利用しての《電磁領域》にしても、すでに繭愛が持っているものの一部なのだから。


 (……あれなら、できる……。ううん、わたしが……できるように、なる……!)


繭愛の身体を旋回する光の帯が、より一層激しく輝いた。


 

 


 


 


 


 



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