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異端兄妹は日常に戻りたい  作者: 幽猫
second chapter アビリティ・ウォー

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64章 軋轢

 ーー管理者棟、管理人室。


 「ちょっとマジっすかぁ〜?いくら進化前だからってジェネラルマンティスとマッハホーネットのダブルパンチって……どっちもレベル20っすよ?殺意高すぎっしょ」


 「この程度、攻略できないようでは困る。たかがレベル9のウェットワームごときと同一視されてもらってはDODの名がすたるのでな」


 「そりゃあ……|《進化する者》《エヴォリューター》の補給はやろうと思えばやれるけど、まだ三回目の対戦だってこと理解してるっすか?慣れない能力だと瞬殺しちゃうっすよ」


 本来なら、《進化する者》の投入は第二ステージに行われるのが通常なのだが、|《個人武器》《サイドウェポン》の解禁と時を合わせるために無理やりの解放となったのである。


 「マスターの指示だ。仕方あるまい」


 「いや、にしてはレベル高すぎよ。まさか第一ステージで()()()かけようってわけ?」


 「まさか。レベル20はこの三チームにしか放っていない。むしろ易しいと思うがな」


 「鬼っ……!」


 「……なんでもいいけど、責任はとってくださいよ?ぼ厄介事はこりごりだ」


 「それをアンタがいうかねぇ、管理者(オブサーバー)の中でも随一の無責任人間なアンタが」


「褒められるのは好きですが怒られるのは嫌いなんですよ」


 「やれやれ……これではどちらがお子様なのか」


 管理室はせわしなく動いている。管理者達は姿形様々だが、共通していることはふたつ。ひとつはゲームマスターの指示が絶対優先ということ。指示から大きく離れた行動でなければ好きにできる権利がある。


 ふたつめはそれぞれが屈強の"能力者"ということ。お互いに邪険にはしていないが、いざとなればコンピュータ室は塵も残らない地獄と化すことだろう。


 そうならないのは、ゲームマスターの指示……もとい、絶対ルール。管理者同士の戦闘は認められない、にある。マニュアルがあるわけではないが、管理者の間ではこれが暗黙のルールとなっている。


 と、そのとき。誰かが部屋に入ってきた。


 サングラスがよく似合う男ーー。黒服筆頭、竹里だった。


 「おや?だれかと思えば。どうしたんです?」


 「少し、気になることがありましてね」


 竹里は電源コードひしめく床をある一人の人物めがけて歩みよる。コツコツ、という革靴が床を擦る音が静かな部屋に反響する。


 やがて、竹里がその人物の目の前に立った。仁王立ちし、自分よりも三十センチは高いであろう大男を見上げる。


 「失礼ですが、《進化する者》投入のレベルを意図的に差し替えてはありませんよね?」


先程まで流暢に答えていた大男が、口をつぐんだ。竹里は黒服の身でありながら、その実力は管理者にも伝わっている指折りの猛者だ。それがこうして問いかけているのだから迂闊な発言はできない。


 竹里は追い討ちをかけるようにまくしたてた。


「この段階ではまだよくて一桁後半がせいぜいでしょう。にもかかわらずレベル20相当の《怪物》を出すとはどういう了見でしょうか?」


 実際、今回の事態は誉められたものではない。《進化する者》の性質をよく知っているために、竹里はなんとしてもここで引き下がるわけにはならないのだ。


 でなければーー。ゲームは、一方的な大量虐殺の連鎖を起こすことになる。


 「管理者ともあろう方ならば説明すべくもないでしょう。()()は危険だ。本来ならばまだ未解禁なのですよ?それを……」


 「では、ウェポンを解禁したゲームマスターを、あなたは間違っているとでも?」


 「……いいえ。マスターの指示は絶対、なんらかの意図があってのことでしょう」


 「ならば、我らに責める余地はない。此度は我の判断。ぬしの思うことも理解している。まぁ、見ておれ」


 「ジン……」


 ジンと呼ばれた大男はふっと微笑を浮かべると、側にあった作業椅子に腰を下ろした。大きさが足りないのか、椅子がぎぃぎぃと軋む。


 「竹里、深く入れ込むのは感心せぬぞ。我らはあくまで中立ということを、ゆめゆめ忘れるでない」


 なにをいうか、と言い返したいところだが竹里には追撃の言葉がなかった。あの二人に執着しているのは、ゲームマスターその人だ。それを前提にしても管理者もとい運営がプレイヤー特定個人を支持するなど、あってはならない。


 (本当に、何をお考えなのか……)


 長く共に歩いてきた竹里にも、ゲームマスターの本心は知る術がなかった。




 ーー速い!


 その距離およそ十五メートルを一瞬にして詰められた。カマキリの跳躍によって空いていた間合いが一気に縮まり、男を肉と骨にした鎌が眼前へと迫る。


 梶樹は反射的に腕で頭を守ろうとしたが、それよりも早く瞬間移動で離脱した。移動先はゴルフ場中央にある池のほとりに立った木の上で、こんどは実に三十メートルほどの距離がある。


 「図体大きいうえに動きも速いか……。ナメクジどころじゃなさそうだな」


 額の汗を拭い、消えた自分を探してうろつくカマキリを見下ろしながら、梶樹はなにか術はないかと思考する。チュートリアルのナメクジは沸き立った温泉に突き落としてかちかちにして撃退した。だが、今回ばかりはそうもいかないだろう。


 カマキリはナメクジと違い、軟体生物ではない。生物的分類でいえばゴキブリやシロアリ等に近い種族だ。だがどう進化したのか、カマキリには捕食者としての性質が大きく出ている。


 成長した個体は同程度の大きさならば鳥すらも捕食対象に襲うという。田畑にカマキリを放ると害虫避けにもなるなどの話もあるほどで、食欲、攻撃性共に非常に高い。


 熱湯をかけて倒したときとは違い、今度は地理情報も足りないのだ。《迅雷鳴動》の能力で"罠"に嵌める事態は簡単としても、肝心のピースが足りていない。


 「罠……カマキリに効くとなると……」


 ハリガネムシなどが有名だが、あれは寄生虫の一種なので、今の状態では無意味だ。水に落として呼吸困難という手も、それ相応の()がなくてはいけない。


 頭を悩ませる梶樹。上手い方法はないかと頭をひねる。


 ーーそのとき。


 ヘリコプターのプロペラ音のような、連続した弾けるような音が突如として耳についた。それも、たちまち大きくなっていく。


 音源の正体に、梶樹は眉をひそめた。


 「なんだ……?」


 




 

 

 


 

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